第49話『アハハ…程々にね…』
『ホントにミリティスは素敵な人だ』
あなた声で何度も再生される。
そして研ぎ澄まされていく感覚。
ーーー任せて
その言葉を発するたび、私はその言葉の意味と責任を確認する。
狙撃銃は今は無い。
この銃でやれる事をやる。
そう。
君なやりたくない事全てを。
だから
“任せて”
乾いた落ち葉を踏みながら、辺りを警戒し進む。
音は止み自分の歩く音だけが静かな森に吸い込まれていく。
ザクザクッ
「全然見つからねえ」
この間も灼熱爆裂猪拳を解くことなく気を張っていた。
「しかしだいぶこの技にも慣れてきたな!」
「ずっと発動してられそうだぜ!」
「あっ!」
一つの可能性が見出される。
「これ…“脚”を強化したら何か凄そうじゃないか!?」
この危機的状況でもルドルは常に上を見ていた。
「うおー!!!」
静かな森で自分の位置を相手に知らせるかの如く気合の入った声。
「赤の流れ!」
「そして脚に留めるイメージ!」
すると、徐々に脚の全体が赤みを帯びて来る。
バキンッ!
踏ん張る力が地面を割る。
バスンッ!
耐えきれず靴が弾ける。
そんな事を気にする事もなく、増していく集中力。
溢れる力。
上がるテンション。
止まらぬ成長。
「最上に燃えるぜぇ…!!」
「灼熱暴脚!!《ヒートレングス》」
ここに成る。
「うおーー!!俺はまだまだ上り調子だなぁ!!」
……パンッ
小さな破裂音が森を揺らした。
ッヒュン!
枝や葉の間をすり抜け、一直線にルドルの頭を目掛けて飛んできた銃弾。
「ヤバい!!」
その音に気付いたその時には既に避けていた。
ドゴォッ!
ドゴォン!
「…え!?」
舞う土煙とそれから凄い勢いで遠のく自分。
それでも何故か冷静でいられた。
ガッ
「よっと!」
木の枝を掴み勢いを殺すように、クルクルと回転し着地。
「多分あっちの方から弾が飛んできたな」
「よし!どのくらいの力か試してみるか!」
グイーっと身体を伸ばし準備体操。
「イケるな、俺」
グッと脚に力を込める。
ドンッ!
ドジュンッ!
ビュワーー!!
「うはー!!なんだこりゃーー!!」
その速度は空を切り、思考が追いつく前に身体が勝手に進む感覚だった。
ルドルの走った跡ではその風圧により、木々は踊り土煙は瞬く間に霧散していった。
障害物を避け走り続けた先には大きな湖があった。
「待て待て!水だぁーー!」
シャババ…!
「ん!?」
「まじか!!俺はまじか!!」
水面に脚が触れ弾ける。
そしてその脚が飲まれる前にもう一つの脚が出る。
「沈まねーー!!!」
バビューンッ!
ルドルのテンションと共に脚の熱と速度が上がっていく。
“彼女”は遠くの大きな木の上から、その様子を観測していた。
(突然著しく動き俊敏になった)
(この男、行動の予測がつきにくい…)
本能のままに動くルドルは、データを測定して状態を正確に把握するミリティスの考えとは相性が悪かった。
(あの一発で私のおおよその方向が分かったのか、遠回りしながらもこちらへ向かって来ている…)
(“これ”を使うほどになるとは)
腰から一つの装備を外した。
それは四角くレンズのような物が付いた黒い物体。
手際よくその場に設置しそこを離れた。
ヴィン
ジ…ジジ…
そこには狙撃をしようとしているミリティスの姿が映し出された。
(脳筋にはこう言うのが効くだろ)
(ここを終着地とするなら、あそこが良さそうだな)
次の狙撃ポイントへと脚を向ける。
「待っててねソーン。時間はかかっちゃったけどもう少しだから」
ザッザッ
上がる体温とはやる鼓動を力にして走り出した。
「ねぇ、ソーン」
「ん?どうした?」
拠点を後にしたリエルとソーンは二人並んで森へと歩いていた。
道中ずっと無言だったリエルが不意に口を開いた。
「それで“その人”とはどんな関係なの?」
「その人?」
唐突な質問でどの内容の話かを探す。
変な緊張感が流れた。
「だから!昨日BARで知り合ってお酒を一緒に飲んで、その勢いで家まで着いてきゃう様な女!」
ピキーン
ソーンは悟る。
ーーーリエルは今もの凄く怒っている。
と
だが、
ーーーそれはすぐに返答を出来なかった俺になのか…
ーーー将又、ミリティスなのか…
理由までは分からなかった。
「もちろん何もないよ!」
(確かにパーティーを組みたいとは言われたけど、俺は“ちゃんと断った”んだ)
(つまり何もないのと同じ)
(強いて言えば、リンゴ酒の美味さを教わったくらいだ)
「そう。なら良かった」
「関係がないなら心置きなく潰せるわね」
こちらを見ることなく言葉を放ち、魔力が冷気となって溢れ出していた。
(な、何を潰すんですか…)
「うおーー!!!」
二人の静寂を切るように、森の中からルドルと思われる雄叫びが聞こえた。
「こう言う時は本当に役に立つ声の大きさね」
リエルの毒は平然とルドルにも及ぶ。
「そ、そうだな」
(言い方が…)
「と、言う事はその女も近くにいるって事ね…」
スッと振り向き
「急ぐわよソーン」
急な笑顔がソーンに向けられた。
(その笑顔が怖いよ、リエル…)
とりあえず、この戦いを止めなくては!
と、心に強く思ったソーンだった。
森に入るとそこは少し温度が高い気がした。
それは恐らくルドルの居た残温が漂っているのだと思えた。
「何か少し暑くない?」
「確かに森に入った瞬間温度が変わった気もする」
そう言うと彼女は杖を構えた。
《氷龍ー煌ー》
気付くとに当たりには細かい氷の粒が舞い煌めいた。
「うわ〜」
優しい木漏れ日に反射する氷の粒、神々しく辺り一面に広がるその様に心を奪われる。
「どう?これで快適でしょ?」
煌びやかな魔法にも負けない綺麗で凛とした笑顔がこちらを可愛く見る。
「流石リエルだな…!」
「いったいどれだけの魔法を使えるんだ」
「フフフ、これでもミラー家の令嬢よ?」
その言葉でそれがどれだけ凄くて、どれだけ大変だったかを思い知らされる。
そしていつの間にかいつものリエルに戻っていた。
「さて!どっちの方向かなー」
「あっちの方に行ったかもしれない」
微かな残温と木々の葉が少し落ちている様子から、何かが通ったであろう道を指差す。
「確かにここだけやけに荒れてるわね」
「待ってなさいよー!」
やる気満々で歩き出す。
「アハハ…程々にね…」
その後をゆっくりとついていくソーン。
ーーー
ーー
ー
ズォーーンッ!
木々の間、水の上を止まることなく全力で走り続けるルドル。
未だ灼熱暴脚は解けていなかった。
「俺!未だ最上を更新中ーー!!!」
キラン
木の上で反射する何かを目の端に捉えた。
「そこか!!やっと見つけたぞ!!」
ジュバッ!
逃すまいと瞬時に距離を詰める。
そこには木の上から銃を構えるミリティスが“居た”
銃口の向く先はルドルでは無く、ルドルが“居た”方に向いていた。
「何処を見てる!」
下へと潜り込み同じ高さまで飛ぶ。
「先ずは武器を落とす!!」
「オラーー!!」
ミリティスの構える銃の先を確実に捉えた。
ブォンッ!
だがルドルの蹴りはミリティスを“すり抜け”空を切る。
「な…!?」
スタッ
そして
シュー…
ルドルの脚から力が抜け、突然の疲労感に襲われた。
「はぁ…はぁ…」
「くそ…!こんなタイミングで…」
ポタポタ
膝に手を付き大汗を流す。
「ダメだー!修行の途中で力尽きちまった…!」
ドスッ
地面に身体を投げ出すし大の字で寝そべる。
「今見つかったら俺、やられちまうな…」
「どうしよ」
そんな状況でも何故か焦っていないルドル。
「その通りだ」
ガサガサッ
近くの茂みからミリティスが静かに出てきた。
スッ
カチャン
銃に弾を込め直す。
「いくらソーンを苦しめる巨悪とは言え、ここまで手こずるとは思わなかった」
「多少の礼儀をもって屠ってやる」
バチバチッ
大気を切り裂く苛烈な紫電がミリティスの周りを覆う。
「何だ…そのカッコいいやつは…」
「これは私が持つ銃弾で最も殺傷能力の高い力だ」
ーーー「あ!あれルドル達だ!」
ーーー「見つけた…!!」
ーーー「なんかヤバそうじゃないか!?」
ーーー「あっ!リエル!」
見つけた瞬間リエルは走り出し魔法を繰り出していた。




