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第4話『ここからだ…!』

そうして父、マクラウルとの修行生活を終えたソーンは冒険者としての人生が始まってしまった。


「さぁ、ソーン今日はギルドに冒険者登録をしにいくぞ」

「あ、ああ」

「ガハハハ!なんだなんだ、緊張でもしてるのか?この前の威勢を見せてくれよ」

「いやぁ、まぁ、緊張というかね…」


(気分が乗らない。こんなことなら父さんにやりたくないと言っていまうか…いや、言えるわけがない)


(こんなに目を輝かせている父さんに実は農業家になりたいです。なんて!!)


「そろそろ、行くか」

「うん、準備してくるよ」


(待てよ)

(修行と言う名の試練は越えた。越えてしまった)


(だがあれは父さんと一緒で最大の安心材料があった状態だ)


(つまり俺はどう足掻いても大怪我や死ぬなんてことはあり得なかった)


(この街のギルドではそんな安心材料や親子と言う色眼鏡もない状態で評価される)


(これだ…ギルドに認めてもらわなければ冒険者にはなれない)


ソーンは小さな希望を胸に父と共に家を後にした。


ーーー


ザッザッ。


隣町へと歩みを進める二人。


住んでいる所よりは少し賑わいを見せる。


「そういえばさ、父さんここのギルドにはよく来てるの?」

「ん?街のギルドか?いや全然だな」

「大した依頼もないし。それならケルベロスと戯れてるほうが楽しいだろ?」

「そういうもんなんだ……」


(よし。いいぞ。父さんの影響力、ほぼゼロ。完璧だ)


(これなら“マクラウルさんのご子息ですね!はいAランク!”みたいな理不尽はない)


(まずはE。いやDでもいい。目立たない範囲。依頼は薬草。できればスライム)


(討伐数は最低限。成果はそこそこ。評価は微妙。「可もなく不可もなく」の理想的冒険者ライフ)


(そして数年後、“彼は居るだけ”と判断されて、自然退場)


(完璧な作戦だ。)


程なくして、ギルドの建物が見えてくる。


よし、ここだ。ここが街のギルド。

木造、二階建て、ちょっと軋む扉。

理想の“ほどほど冒険者”人生の入り口……


入り口や、外の掲示板の前では街の冒険者達で賑わいを見せている。


…ふぅー。


と、いよいよかと気合を入れるソーン。


(ここが次の試練場だ…今度こそ俺の)


「おーい、ソーン何立ち止まってんだ。置いてくぞー」


え?


ギルドに行こうとしたんじゃないの??


あれ?合ってるよな


「だって、父さんここがギルドでしょ?」

「ああ、ここはギルドだ」

「だよね?」

「《街》の、な。俺たちが目指すのは小さい街のギルドなんかじゃない」

「王都の《マシュリク》にあるギルドだ」

「あそこには心震える依頼がわんさかしてるぞ〜」

「立ち止まってる暇なんかないぞ、善は急げだ!」


(あ、なるほどね…。そういう事…)


(何で父さんが着いてくるのかと思ったらそういう事か…)


振り返る。


掲示板に貼られた依頼。


『薬草採取(南の森)』

『迷子の犬捜索』

『畑を荒らすスライム退治』


視界の端で、それが遠ざかっていく。


同時に俺の未来設計が崩れ去っていった。


王都は街を抜けてまっすぐ道なりに進むと遠くに見えてくる。


そんな道中、なにやらマクラウルがソワソワしていた。


「どうしたの?父さん。何か落ち着きがなくない?」

「あ、いや、あれだ武者震いだよ」


歯切れが悪い。


「どうせ母さんでしょ?」

「え、かか、母さん?ああ、そうだな。そこまで言うならちょっと挨拶でもしていくかあああ。もし帰ってきてればだけどな」

「今はちょうど帰ってきてるみたいだよ」

「な、なんで知っているんだ?」

「この間手紙来てたよ。アレ言ってなかったっけ?」

「手紙…俺には1通も…」


軽くうなだれるマクラウル。


「まぁでも居るんだからいいじゃん!」

「それなら俺、2人の邪魔するのもアレだし、街のギルドで登録しちゃうよ?」


ここぞとばかりに、それらしい理由をつけて引き返す方法を見い出した。


「何を言い出すんだ、それとこれとは話は別だ」


理性を取り戻した。


「そ、そう?まぁ父さんがいいならいいんだけどさ」


(く、これくらいじゃダメか…)


ソーンの母ラヌシア=クリーガーは王国の騎士団をまとめる総指揮を執るほどの実力者で、燃えるように紅く長い髪を持ち、ソーンの事を溺愛してる強くも優しい母親である。


そうこうしていると、目の前には大きな石門が見えてくる。


王都に設置された4つの門は、モンスターやその他敵からの攻撃を集約するために数少なく用意されそれぞれ複数の門番が立っている。


とは言え、全ての人の検査や足止めをしてくるわけでもない。


それはソーンたちも例外ではなかった。


「この門を抜ければもうすぐそこだな」


(とうとう来てしまった…)


完璧に整備されている道。規律よく頑丈に建てられている建物。賑やか過ぎる街。


「お、そこの兄さん!この街は初めてかい?よかったらマシュリクの特産物の……!」

「あら、親子で買い物かい?偉いわねぇ。そしたらこれはどうだい?これはマシュリクでしか手にはいらない……!」


(初めてではない。だがこの喧騒には慣れず毎回キョロキョロしてしまう。)


「ガハハハ、そんなに固まることはないぞソーン!」

「これから最高の冒険者、ひいては勇者になろうとする男なんだからな!」


バシバシッ!


背中を叩く相変わらず力が強い。


すると


ドンッ


「うわっ!」


足に衝撃を覚えふと目をやると、買い物袋を持った子どもが盛大にソーンにぶつかり転びそうになっていた。


シュババッ!


考える前に身体が動き、子どもと袋から溢れた真っ赤で丸いトマトに傷が付かないように助けた。


「大丈夫か?怪我してないか?」


あまりの突然の事に理解が追いつかず唖然とする。


「……」

「どうした?どこか痛いか?」

「……ううん!全然痛くない!今何が起きたの!?凄い凄い!もう一回やって!」


無邪気にソーンの行動に目を輝かせる。


「もう一回て、また今度な……まぁ怪我がないならよかった。通り道の邪魔して悪かったね」


ーー何してるのー?早くおいでー!


少し先からこの子の母親であろう人の声がした。


「待ってよー!」

「またねお兄ちゃん!」


元気な声と笑顔でブンブンと手を振りまた駆けていった。


「なんだ兄ちゃん、今のすげえーな!立派な冒険者なんだな!ほらこれ持っていきな!特産物の角豚の角煮まんじゅうだ!お代は要らないぜ」


そばで見ていた、路面店の店主が言う。


「え、いや、そんな。お代は払いますよ」

「いいんだ。この辺の人達はみんな家族みたいなもんだ。そんな家族を助けてもらったんだ。お礼をするのは当然だろ!」

「そうよそうよ。私からもこれ受け取って。ここでしか手にはいらない、角豚の角の御守よ」


続けて横のお店の女将さんも。


(当然…か。それなら俺も当然の事をしただけなんだけどな…)


「ありがとうございます」


賑やかな街には暖かい空気が流れていた。


そんな商店街を通り過ぎ、街の中心地である国城の前まで来た。


ここはいつ見ても仰々しく立派だ。


人の何倍もある石の門。猫一匹見逃さないくらいに見張り兵が何人も配置されている。


これは母さんの指示なのだろう。


厳重に守られているその門を父さんは片手1つ挙げるだけで通れる人だった。


「いつもご苦労さん。こいつは俺の息子だ」

「一緒に通してもらっていいか?」

「はっ!マクラウル様ご無沙汰しております。どうぞお通りください」

「そんなに堅苦しくなるな。俺はもう王国の関係者じゃない。ただの人だ」

「いえ、そういう訳には…」

「まぁこれからは息子のソーンをよろしく頼む事になるだろうから。気にかけてやってくれ」

「はっ!ソーン殿よろしくお願いします。お二人ともお通りください」

「いやいや、辞めて下さいって!俺こそ全く関係ないんですから!」

「ガハハハ。さぁ行くぞソーン殿」


(門番の人ですらこの調子じゃ、これは先が思いやられるな…)


国城の門をくぐると、綺麗に並べられた石畳が真っ直ぐ入り口まで伸びている。


横には木々が植えられており、心地のよい光を葉の隙間から落としていた。


そこに1人座って本を読む男の子?が居た。


(ん、あんな所に男の子?いや大人か?)


不思議がって見ていると、視線を感じたのか目が合う。


「あっーー!!!!」


姿からは想像出来ないほどの声量が耳に届く。


「ちっ、面倒な奴に見つかってしまった」


父さんが珍しく渋い顔をした。


「マクラウル様ーー!!!」

「く、何だマルコ!お前こんな所で何をしてる!」


(!?!?なんだ今の動き。まったく見えなかった…)


そこまでの距離はないものの、一瞬で間を詰めてきた《マルコ》と言う男。


その動きを目で追いきれなかったソーンは驚きを隠せなかった。


「ここに居ればマクラウル様に会える気がしてまして待っておりました!流石僕!故に奇跡!!」


綺麗な顔立ちで、目をキラキラと輝かせるマルコ


「そして、こちらの青年はどちら様ですか?」


驚いた顔のソーンを覗き込む。


「ああ、コイツはソーン。俺の息子だ」

「ソーン、コイツは《マルコ=ブルーバード》騎士団の二番隊隊長だ」


王国騎士団の二番隊隊長、マルコ=ブルーバード


最年少で騎士団へ入団を許可され、またたく間に隊長まで登り詰めたと言われている。


二つ名を《瞬迅のマルコ》


一番が大好きで、誰よりも早く全てをこなして来たツワモノ。


拳王の称号も持っており王国騎士団きっての武闘家とも称されている。


そして何より、マクラウルの事が最大の憧れであり、大好きだ。


その名を聞いて全て合点がいったソーン。


「初めまして、ソーン=クリーガーです」

「あの木からここまでの間合いを詰める速度、驚きました」

「初めまして!!ソーンさん!二番隊隊長やってますマルコ=ブルーバードです!」

「お父様のマクラウル様にはいつもお世話になっております!」


出していない手を取られブンブンと力強く握手をされた。


「して、マクラウル様。ソーンさんとは何をされに来たんですか?」

「ああ、ソーンもやっと一人前になったからな」

「ここ王国ギルドで冒険者登録でもしようかと思ってな」

「そーでありましたか!」

「と言うことは、騎士団への入団もされるんですか?」


ここ王国ギルドは他のギルドにはない要素がある。


それは


《騎士団への入団》


この騎士団とは


《マーデン=ゴルク》王が納める王国マシュリクにて6の部隊で構成されている王直属の部隊

隊長と副隊長からなる部隊は、自ら依頼を受けたりするのではなく。

王からの要請。ないしは国からの要請にて動く特別なもの。

誰でも入れるわけではなく、それ相応の試験が用意されている。

その試験をパスし入団希望の団へと志願をする。

そこからの入団方法は各騎士団長に任せている。


「いやー、まだまだ俺なんかはそこにははいれないですよ」

「いやいや、謙遜を!」

「初めて僕の動きを見て微動だにしないなんてマクラウル様以来ですよ!」

「大概の人は驚いたり声を上げたりするもんですから」

「素質しかないです!二番隊を選んでくれたらいつでも話は通しておきますから!」


「ハハハ…」


………

……


「なぁ、マルコ?そろそろいいか?」


ハッと気づく


「これは入口で長々とお時間失礼しました!会えた喜びが抑えきれませんでした!」


ビシッと指先まで揃え90°に腰を曲げて謝る。


(清々しい程真っ直ぐで勢いの凄い人だなぁ…)


でも自分の父をここまで思ってくれている人がいるなんてやはり父はすごい人なんだなぁ、とひしひしと感じていた。


「おう、これからの期待の星。頑張れよ」


申し訳ないと言う顔が一気に輝きを取り戻す


「はい!!!ありがとうございます!!」

「もっともっと強くなってマクラウル様に一歩でも近づける様に精進して参ります!!うおーー!!!」


ドゥユンッ!!!


雄叫びを上げたと思ったら、さっきとは比べ物にならない速度で音を置き去りにしながら遠退くマルコ。


「ホントにすごい人だね」

「あぁ、奴は自分磨きを一生できるタイプだろうな」


いや、きっとマルコさんの頑張る理由は父さんなんだろうな。


「どうだった?」

「ん?マルコさん?」

「あんな雰囲気を出していても、騎士団最年少の隊長様だぞ」

「お前とそんなに歳も離れてないはずだ。どう感じた?」

「そうだね、最初の速度はホントに驚いた」

「けどそれが全力じゃない事も分かってたけど、平然と出すあの力を見ちゃうと俺とは全然違うなーって痛感したよ」

「やっぱり王国ギルドは凄いところだ……やっぱり俺にはまだ早くない!?」

「そうだろうそうだろう」

「だがなソーン。そのすごい所にお前も今から立とうとしているんだ」

「不安になる気持ちも、まぁ分かる」

「別にマルコと比べる必要はないんだ、お前はお前の信じる道を進めば自ずと拓けてくるもんさ」

「俺の信じる道…」

「この世には本当に必要な時にはちゃんと道が拓けてくるもんなんだ」

「だから無理する必要もないし、今までと変わらず今できることを全力でやるんだ」


(そうだ。俺はどこに居てもどこのギルドへ入ってもやる事は変わらないんだ)

(この信じる道をただただ突き進む!!)


「そうだね、父さん。無理に捻じ曲げようとしてもダメだ」

「だから身を任せけして逆らわずに、やれる事をやる。なんか初心に帰った気分だよ」

「いいぞ!その意気だ!お前は出来る!よしこのまま冒険者登録まで行くぞ!」

「いや、父さん待って!」

「どうした、そんなに気合を入れて」

「もう少し色んな所を見学したいなって!」

「ほう、先ずは偵察か」

「いいじゃないか、どんどん刺激を受けて心躍らせるつもりか!」

「まぁ、そんなところ!」


(よしよし、今出来ることを全力でだ!)

(レベルの差を実感して街のギルドへ行けるような流れに持って行く!)

(これこそ俺の農業家への道の第一歩となるんだ!)


そうして俺たちは国城へ入っていった。

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