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第3話『こんなはずじゃ…!』

ギャオアォォ!!!


ケルベロスは大きな咆哮でソーンを威嚇。


3つの首が確実にソーンを捉える。


ジリジリと間合いを詰める。


バキンッ!!


踏み込む足が硬い地面にめり込むほどの力で、ソーンに襲いかかる。


(精一杯ギリギリで避けて余裕がなかった)


(を装ったのに、剣を持っていない時の力加減を間違えて派手に壁にぶち当たってしまった)


(全くの予想外)


(幸い父さんはその事に気付いてなさそうだから良かったが、今度はもっと上手くギリギリを作る!)


シュバッ!!


さっきよりも速く鋭く爪が振り下ろされる。


(今度は力を入れすぎるな、よく見ろ、もっと、もっとギリギリでいい)


ケルベロスの前足で父さんの死角を作るように避け、その風圧に乗って少し後ろに飛ぶ。


ズザァーーッ


(うん、見えている。力加減も分かってきた)


(この分なら上手いこと戦える)


(この調子で父さんに最後の修行は失格だと思わせられれば、俺の勝ちだ!)


そんな事を思いながら、ギリギリを演出しているソーンに対して止まないケルベロスの猛攻。


3つの首で絶え間なく繰り出される噛みつき、そして死角から襲ってくる鋭く速い爪。


地面まで揺らすほどの咆哮で、身体が緊張し動きが鈍くなる。


全てをギリギリで見極め避け続けるソーンだったが、身体がケルベロスの動きに慣れていきギリギリが更に加速する。


当たるか当たらないか、徐々に装備にかする程まで。


(この距離感いいぞ)


(何とかかわしてる感じが出せている!)


(そして素手での攻撃が出来ない)


(これはキテる!武器がないからこそ、それを利点とするぞ)


ブチッ…ドサッ…


乾いた音が静かに響いた。


「「ん?」」


父さんと同時にその音に気を取られる。


そこには片方の肩の装備が落ちていた。


ギリギリを狙うあまり、装備に攻撃をかすめていた弊害が出てしまっていた。


その瞬間を見逃さなかったケルベロス


「来るぞ!ソーン!!耳をふさいで目を離すな!!」


ーー【冥牙収束めいがしゅうそく】ーー

3つ首の牙が振動し旋律を奏でるように不協和音を発する。


この音を聞いたものは四肢の自由を奪われ、短時間身動きが取れなくなる。


ソーンの耳から脳へと音速は迷いもなく届く。


音が、世界を歪める。


足の感覚が消える。


指が動かない。


肺がうまく膨らまない。


だが――


視界だけは、妙に澄んでいた。


ケルベロスの爪の軌道。


地面との距離。


「く…なんだこれは…」


この瞬間ゾーンの頭の中である考えが浮かんだ。


(この状況…もうどうしょうもないから、いっその事やられるのもありか…)


(いや、ここで大怪我を負ってしまっては輝かしい未来が消えてなくなるかもしれない)


(倒さず負けず、ギリギリ何もできなかったを見せる方法…か…)


冥牙収束で完全拘束。


ケルベロスの爪が迫る。


ブチッ。ドンッ。


不協和音に耐えきれず消耗された腕の装備が更に落ちる。


(お!?)


重い手甲が落ちたことで、身体のバランスが変わる。


完全拘束の中で、ほんの数ミリだけ体幹がずれる。


ザギンッ!!!


ソーンの体のど真ん中を狙っていた爪が鎧を裂く。


――装備がまた落ちる。


致命傷を与えられなかったケルベロスは更に連撃に入る。


「グギャオォォオー!!」


次の瞬間、三つの咆哮。


右。


左。


正面。


爪が迫る。


もう上半身の装備がほとんど落ちたソーンは、またしても力加減がわからなくなる。


ギリギリでかわしていたそれを、今度は当たるかどうかではなく“当たらない”距離で難なく避けれてしまう。


(ヤバい…どんどん軽くなる。ギリギリのコントロールがよりシビアになっていく…)


一歩その一歩の出すタイミング。


踏み込む力。


限界まで引き寄せてる爪先。


全てに気を張り全身全霊をかけてコントロールをした。つもりだった。


だが気付けば、爪は俺の遥か先。


牙は空を噛み切るばかり。


とんでもない速度を悠々とかわしせてしまう俺。


(もう少し抑えろ。今までやって来たことじゃないか!)


(多少の重りがなんだ!)


(これで終わらなかったら…その後に待っていることに比べたら、そんなモノは比べ物にならないくらい軽いじゃないか!!)


覚悟を決めたソーンへ怯んだのか、ケルベロスも覚悟を決めたのか


三つの首が、同時に止まる。


空気が沈む。


地面が軋む。


ソーンの足元から、


重さが“湧く”。


そのとき、空気が低く響く。


——冥界重圧ヘル・グラヴィティ


ドゴォォォン!!


ソーンとその一帯の地面が、ひとりでにめり込んでいく


軽くなってしまったソーンの身体に、外れた装備の如く重力が押し寄せてきた。


「くっ…」


突然の重さに驚きつつも耐える。


「くくく」


悪魔のように小さく笑ってしまう。


「そうだよなぁ!これだよなぁ!」


ケルベロスの大技にも怯むどころか歓喜の声を上げる。


(これでやっと元通りだ!)


この状況を察した三つの瞳が、細くなる。


この重圧の中で——


こいつは動ける。


次の瞬間。


三つの首が、それぞれ別方向へ開く。


一つは正面。


一つは上空。


一つは地面へ。


重圧の中心にいるソーンを囲むように、


赤黒い紋様が地に走る。


——逃げ場を、潰す気だ。


空間がさらに沈む。


重さが、増す。


地面が砕ける。


(いいぞ!来い!これで全て上手くいく!)


相手の全てに目をやり、どれをいなし、どれで終わらせるかを冷静に判断する。


(ここ!!)


その重力下で最初の一歩を踏み出そうとしたその時。


「そこまでだ!!」


俺とケルベロス間に父さんの姿があった。


(え…?)


「もういい。もう分かった。お前にはこんなレベルじゃダメだった」


(ダメだった……?)


(俺の力が及ばなかったってことだよな…!)


(よ、よし!!!伝わったぞ!!やっと、、、やっとだぁー!!)


「お前も悪かったな、こんな役をさせてしまって」


ケルベロスの3つの頭を優しく撫でる。


「グルル」


さっきの凶暴で全てを破壊しそうな雰囲気が一変。


父さんの掌で安心しきってる姿があった。


「ソーン」

「ごめん、父さん。俺にはやっぱりこんな」

「ここまで強くなっていたなんて、俺は少し見くびっていたようだ」

「え?いや、強いのは俺じゃなくてケルベロスの方じゃ…?」

「最後のあの技は、もしもソーンに余裕があってこれを使っても死なないと判断したら使うようにと言ってあった技だったんだ」


(…どういう事だ?)


「コイツとは俺がまだ小さかった頃に良くここで一緒に修行をした仲なんだ」


「ガウゥ」


「いや、父さん。だって俺はケルベロスの攻撃をギリギリで躱す事しか出来なくて、攻撃もロクに出来てないよ。それに大事な装備だってダメにしてる」


やってきたことを必死に説明する。


「ガハハハッ!それだ!ギリギリ躱すっていうのは攻撃をよく見て自分の力をよく分かってる奴がやれる事なんだ!」


「広く遠く避けるなんてことは誰でも出来る。でもそれは無駄に体力を使うし、次のモーションへの時間もかかる」


「だから最小限の動きで避けられてる時点でお前は凄い。そして最後のあの気合。魅せられたよ」


「それって…」


「あぁ、この最後の試練は合格だ」


ソーンの喉が鳴る。


それは誇らしい話のはずなのに。


(……ちがう。)


俺はただ。


冒険者には向いてないと。


まだ“足りない”と思わせたかっただけだ。


俺の冒険者としての未来が、


静かに、


決まってしまった。


胸の奥が、遅れて軋む。


理解が、追いつく。


そして。


「こんなはずじゃっ…!!」


ソーンの嘆きは空中に霧散していった。

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