第2話『さぁ、こい!』
最後の試練場となる《大連山の始まり》へやって来た。
大連山は自身の更なる高みを目指す者のみ入山を許される、王国屈指の修行場である。
いくつかの山々を越えた先に、大きな谷がある。
そこは全ての光を飲み込むほど深く暗い。
谷に辿り着くだけでも一筋縄じゃ行かないのに、俺たちはそこを目在していた。
「なんだ、今日はまだまだ余裕そうじゃないか」
「え?そ、そんな事ないよ」
ここに来て剣と言う相当な重さの負荷を、背負っていない事による余裕が出てしまっていた。
「お前も成長してるって事だなぁ、、、!嬉しいなぁコノヤロウ!!」
目頭を熱くする父さんを横目に若干の焦りを隠せないソーンがいた。
(やばい、剣を背負ってないとここまで差が出てしまうか、、、
(昨日の夜のうちに疲れ果てるまで動けばよかった、、、、)
焦りから、冷や汗が額から頬を伝う。
「しかし、今日は何だか変だな。こんなに天気もいいのに静かすぎないか?」
「・・・・」
「普段ならもう少し、モンスターの声や冒険者達の声がしてもいいと思うんだが」
「・・・・」
「おーい、ソーン聞いてるか?」
「あ、え、う、うん。ね!」
「急に緊張してどうした!この俺が居るんだから世界で一番ここが安全だろ?」
「いつも言ってるじゃないか、不安とは安心を否定されるようなもんだ」
「この俺を前にして誰がそんな事出来るって言うんだー!いつでもかかってこい!不安ーーー!!」
これを本気で言ってるから父さんは、父さんなんだろうな。
「ごめんごめん、ちょっと考えごとしちゃってただけだよ」
「でも確かに何か静かな感じがするね」
俺は父さんほどここに来たことはないけど、何度か来たときはもう少し何かしらの音はしてたと思う。
「ガハハハ!俺の息子の晴れ舞台を目に出来ないとは、勿体ないことをしやがる」
「別に見てる人がいてもいなくてもやる事は変わらないよ」
「その通りだ!考えまで大人になって来てる、、、クゥーー俺は嬉しいぞ!」
バシバシ
誇るかの様にソーンの肩を愛を込めて叩く。
「いてて」
父さんの力は常に強い…
(まぁ、実際やる事は変わらない)
(他の人に見てもらうんじゃなくて父さんに見てもらわないと意味がないんだ!)
(今までも策は講じてきたが足りなかった…)
(だが、今日は武器である剣を持っていない事)
(これはチャンスだ!)
(武器がない事によって戦い方がより実戦的で近接的になる。己の力で戦えないやつが武器を扱えるか!!ってな感じになって)
(やはりお前は冒険者は向いていない!その辺で畑でも耕してろ!まで持っていくぞ!!)
グッ…!
気持ちを高ぶらせたソーンは自然と拳に力が入る。
「そろそろ深淵広がる深谷だ。案外すんなり着いてしまったな」
「ソーン準備はいいか?ここからが本当の最後の試練だ」
「ああ…(ゴクッ)」
「さっきも言ったが、緊張は…」
「大丈夫。緊張してないよ。行こう」
(これでやっと終わる)
(いや、終わらせる)
(これまでの修行とこれからの冒険者と言う終わりなき物語を!!)
普通の冒険者は谷に落ちないように細心の注意を払いながら、奥を目指す。
だが、父さん曰く「奥には何もない。これを修行と呼んでる奴はその程度ってことだ。それよりも効率よく緊張感を持つなら、この深谷だ。ここは大連山の奥じゃ巡り合えないような最高のパートナーがうじゃうじゃいるぞ!」らしい。
ーーーいや、パートナーって!それは本能的にこっちの命を狙うモンスターですよ!
良き修行相手じゃないからねー!
心で呟いた。
そして深谷を目の前にして佇む。
本当に下は何も見えない。
ただただ広い深淵が広がる。
どれだけ落ちれば地面に辿り着けるのか想像もつかない。
「さ、行くぞ!装備のない状態でここに降りる!」
「信じるのは己のみ!ここも降りれないほどやわに育てたつもりはないぞ!」
「先に行く!とう!」
掛け声とともに、闇と落ちて消えて行った。
(……ふぅー、落ち着け。俺なら出来る。死ぬわけじゃない)
少しの緊張感をもった状態で今日のイメージトレーニングを反芻する。
ここで集大成を見せつけてやるんだと!
(見えた!)
(この最後の修行が終われば、結果的に父さんに呆れられ少しは怒られるかもしれないが)
(その後は俺はただの農業家だ!自給自足で楽しく奥さんや子供に囲まれながら、優しい時を過ごせる!最高の人生が!)
「ぐふふふ」
そのまだ見ぬ期待へと胸を膨らませ、笑みが溢れてしまった。
(さぁ!行くぞ!俺の輝かしい未来のために!!)
ーーー
ーー
ー
これまで父さんとはいくつもの依頼やダンジョン攻略などをこなして来た。
こなしたと言っても俺は殆ど何もしていない。
むしろする暇もないくらい父さんが強いからだ。
しかし幼少の頃に外の森で危ない目に遭ってからは、『自分で困難を乗り越えられるようになれ』と言われ、そこから父の仕事に着いて回らさせれ自分の力でどうにかこなす事が多くなった。
最初は簡単な依頼の手伝い程度。
森で薬草を採取したり、木の実を取ったり、魚を釣ったり。
半分は遊びの延長でやっていたのだろう。
するとだんだんと体力が付き、森の植物の生息地などの知識も得て採取の効率が上がっていく事、そして父さんに褒められる事が嬉しくて頑張っていた。
だがある依頼でモンスターの討伐に一緒に行った時のことだ。
もちろん、俺の力を見誤る父さんではないからこなせる程度の依頼だった。
害獣指定をされた《灰牙狼》の討伐。
群れを成している場合が多く、リーダーとなる個体を倒さなくてはいけなかった。
自分の実力を測るのに丁度いい依頼でもあった。
何とか父さんの力を借りずにギリギリのところで討伐を終えたソーン。
その夜。
父さんが当たり前のように言う。
「今日は良くやったな!これで、やっとスタートラインだ」
「明日からはどんどん討伐依頼を受けて行くぞ!」
その瞬間、
ソーンの中で何かが静かに折れる。
(……ああ、終わらない戦い)
冒険者とはそういう物なのだと痛感した。
穏やかで楽しく過ごしたいソーンにとってこの衝撃は心にきた。
そこからは強くなる事よりも、どう父さんを諦めさせるかを教える事へシフトしていった。。。
ーーー
ーー
ー
早く下まで辿り着いてはやる気満々だと思われる可能性があった。
それを加味してか、ソーンはゆっくりと下まで降りていった。
ザクザク
地上とは異なり、草木はなく岩肌がむき出しの地面。
そして感じるのは遠く小さな光と、父さんの気配だけだった。
「ちゃんと降りてこられたな。時間は少しかかっていたようだが」
「うん。ここはこんなふうになってるんだね。暗く淋しい雰囲気だ」
「まさにその通り。ここでは心のコントロールも必要だぞ」
「恐怖心に打ち勝つ事も修行の一環だな」
「ああ、それは大丈夫。自然と心は落ち着いてるいよ」
「流石俺の息子だな。よし、その勢いで先へ進むぞ」
暗く先の見えない道をただただまっすぐ進む。
「この先を進むと広く大きな場所に出る」
「そこが目的地だ。一見とても綺麗な場所だがそこを住処としている奴が」
ドゴーーン!!
父さんが話し終える前に大きな地響きと共に何かすごい音がした。
「どうやら、もう俺達に気付いたらしいぞ。ソーン心してかかかれよ。基本的に俺は手を出さんからな」
「う、うん。父さんはしっかりと俺を見てて!それでちゃんと評価してね!」
「ガハハハ、その意気だ!安心してやってきなさい。全てここから見てるからな」
奥へ行くとそこには碧い湖のようなものがあった。
上には大きな穴が空いており、そこから真っ直ぐに光を浴びて神秘的な輝きを放っていた。
「うわぁ…」
思わず息を呑んだ。
ガラッ……
音の先を見るとそこには、この輝きには似つかわしくない程殺気を放ちこっちを睨むモンスターがその光を遮るようにして、上からの見下ろしていた。
「そいつは《三首の冥狼》」
「伝承では《ケルベロス》と呼ばれている。そいつが最後の試練の正体だ」
「どこまでやれるか見せてくれソーン!」
父さんの声を皮切りに、あり得ない速度で俺をヤリに来た。
その刹那
ソーンは思う。
(大丈夫。大丈夫。上手くやれる。ここで俺の全開を出すぞ!!)
その鋭く大きな爪をソーンへ向けて突き立てる。
ビュンッ!!
ドドォーーーン!!
谷全体が揺れるんじゃないかと言う程の大きな音と、凄まじい威力。
普通の人なら一溜まりもない。
その風圧のせいか土煙を切り裂く勢いで、ソーンが吹き飛ぶ。
「ぐはっ…!」
壁に激突した。
(な、なんだ今のは…全く予想外だった…)
(気を付けないとこれで俺は…)
ソーンは全く予想もつかない出来事に適応するべく、作戦を練り直していた。
「ガハハハ。凄いだろそいつ。俺も最初は驚いたもんだよ!だがソーンこんなもんじゃないだろ?」
心配する素振りもなく父さんは言葉をかける。
「あぁ、父さん問題ないよ。今ので掴めた。ここからよく見ててくれ」
ソーンの目は恐怖に濁るどころか、やる気に満ち溢れていた。
「さぁ、来い!上手くやってやる!!」




