第46話『良く言えた!』
夜の街は賑やかだった。
仕事帰りの人や、友達と遊ぶ人、家族で買い物に来ている人。
笑い声で溢れる、そんな何気ない日常に心惹かれる。
それでも今日という日が最悪かと言われると、そんな事はない。
明日もまた真っ直ぐに夢に向かって生きる。
今の俺にできることは、ただそれだけだ。
(よし!帰るぞー!)
そう思うソーンの後方から、お酒で少し喉が焼けたようなそれでも気持ちのこもっている声がした。
「待ってぇ!!」
「ソーン!!」
その声の主はミリティスだった。
先ほどのBARでの雰囲気とは別人だった。
一瞬、街の注目を集めた。
呼吸は荒く髪が少し乱れていた。
急いで出てきたのだろう。
「ミリティス?」
(どうしたんだろう)
(特に忘れ物はしてないはずだけど)
「ソーン!!」
「私は決めたぞ!」
その場で変わらず大きな声を出す。
(どうしたミリティス!?何を決めたの!?)
「どうし…」
「私は…ソーンとパーティーを組む!」
(!?)
(なにがどうした!?)
「そして君を護る!」
「悪から!敵から!そして君がやりたくない全てから!!」
「君がやりたくない事は全て私がやる!!」
「時に君の母であり、時には姉であり、そして何より妻として側で護り抜くと!!」
「ここに誓う!!」
「だから!」
「どうか…私の前では悲しい笑顔をしないでくれ…」
眉毛は下がり、今にも涙が出そうな顔でそう言うミリティス。
「ちょ、ちょっと待って!?」
ーー「何だ何だ!プロポーズかぁ!?」
ーー「ヒューヒュー!」
ーー「こんな美人羨ましい…」
夜の街で一際目立ち注目を浴びる。
それでも一切目線を変えずに真っ直ぐソーンを見る。
外野の声は一つもミリティスには届いていなかった。
(ダメだ…思考が追いつかない…!)
(そして目立ちすぎている!)
(ただただ恥ずかしい!)
「ミリティス!」
駆け寄るソーン。
「分からんけど、分かった」
「ちょっとここじゃあれだから、あっちで!」
「…うん!」
ミリティスの手を取り、足早にその場を去った。
ーーー
ーー
ー
「ねぇ、ソーンどこまで行くの?」
そんな言葉にハッとした。
その場を離れるという事と、状況を整理する為に何も考えずに手を引いたまま歩き続けてしまっていた。
「あ、ごめん」
「ううん、大丈夫」
何故かしおらしくなっているミリティス。
適当に歩いてしまったが街の真ん中からは遠ざかったようで、辺りに人通りは少なくまばらになっていた。
ソーンは考える。
どうすれば最善解なのかを。
(ミリティスはパーティーを組むことをあまり好んでいない)
(だが、酒の席が楽しく思ってくれたのかパーティーを組もうと言われた…)
(仮に承諾をしたとて、他にもパーティーメンバーが居ると言うか、既に組んでると分かれば、やっぱりやめておこうってなる可能性は十分にある!)
(考えろ考えるんだ!俺はパーティーを増やしたい訳じゃないんだ!)
(むしろ、なんで増えていくんだよ!)
(落ち着け、俺…)
(冷静にそして確実にだ!)
「ミリティス…さっきの話だけど」
「任せて欲しい。ソーン、君のやりたくない事全てを…!」
「いや、そうじゃなくて」
「いいんだ。無理に自分を取り繕う必要はもうないんだ」
「私が居る。時に母として、時に姉として、そして何より君の妻として」
真顔で瞬時に反応する。
(ダメだ強すぎる…!!)
(いや、負けるな!)
「実は俺には既にパーティーがあるんだ」
「!?」
「そう…だったのか…」
まさかの返答と言わんばかりに、ショックを受けた様子のミリティス。
(よし!効いている!ここで畳み掛けるぞ)
(きっとリーダーとか言う人もあんまり好きじゃないだろう!縛られたくなさそうだし、指示を出されたくない的なそれだろう!?)
「セブンスヘブンと言うパーティーで、そこではリーダーと言うことになってる」
(これも言っておこう)
「俺は“勇者”だけど、もちろん“まだまだ”だし…」
「俺のせいで皆を危険にさらしてしまった事もある」
「……」
(勇者!?)
(この歳で…)
(それでもまだまだと感じている)
(そこの巨悪がソーンの心を蝕み暗く闇の底に落としているのか…)
(ソーン以外の実力が追いついてないのだろう。それを良いことに人のせいにする、そこの巨悪達に辛いことを強いられていたのか…)
「ソーン…」
静かにソーンは頭を振る。
「だから、ミリティス…考え直してくれないか?」
(よーし!結構自然に言えたぞ!)
(流石に言い過ぎかな…)
(酒場で飲むのは楽しかったのにな…)
「…分かった」
「少し時間をくれ…」
(さっき会ったばかりの私を、そこに巻き込まない為に…)
(すぐにソーンを自由にしてあげるから)
(時間?まぁでも伝わったっぽくて良かった)
「もちろんだよ」
ソーンは嬉しそうな笑顔でそう伝える。
(それだ、心から笑える笑顔が君には似合っている)
(だが人の心配の笑顔じゃなく、自分の幸せの為に…!!)
ソーンの気持ちは全て真逆に捉えられていった。
「じゃ、じゃあそろそろ帰ろうかな?」
「うん」
パシュッ
(ん?何の音だ?)
「ソーン!今日はありがとう。気をつけて、またね」
「うん、ありがとう。オレも楽しかった」
「ミリティスも気を付けて」
真っ直ぐ全てをの通すような眼力で挨拶をした。
ソーンは軽く手を上げ応える。
言葉を交わしお互いに帰路に着いた。
夜風に当たりながら歩き続け、拠点が見えてきた。
ふぅー、とため息を付いた。
(ちょっと飲み直そうと思っただけなのに、危なくパーティーが増えてしまうところだった…)
(でも今日は俺良く言えたな!!)
ーーー「酒は普段言えないことを言えるように、少し力を貸してくれる魔法だからな」
(ホントにリゴン酒の力かもしれない…!!)
(ネオギガンティックで実が取れたら、お酒にするのもありだな!)
我が子を見るような優しい目でネオギガンティックを一瞥し、室内へと向かった。
ガチャッ
室内は真っ暗で静まり返っていた。
(皆は寝てるな、俺もさっさと寝てしまおう)
(今日は疲れた…この正装ももう着ることはないだろうな)
上着を丁寧にハンガーへ掛け、シャワーの準備をした。
ピッピッピッ
裾の下の方で小さく鼓動をする装置があるとも知らずに…
ーーー「ソーン、待ってて…」
ーーー「今行くからね」




