第43話『モブの男に!』
(どっちだ!?)
(あそこには男の子が二人居るぞ!?)
(私の感が正しければ…)
(いや、こういう可能性も…)
(待て待て、実は四人とも男…?)
(くそ、可能性が幾重にも重なる!!)
そう考えたのは、三番隊隊長のアインテッドだった。
彼女は思考を広げあらゆる可能性を模索するタイプだった。
「どっちですかぁ?!」
「きっとご子息も強いんだろうなぁー!!」
「一度手合わせをお願いしたい!!」
鼻息を荒くし、とりあえず手合わせをしたがるラシュルム。
読む空気もなくストレートに気持ちを出せる。
彼女の気分の上下は、“戦い”か“それ以外”かで決まるようだった。
《戦闘狂ーーバーサーカーーー》と呼ばれている所以でもあった。
「何だ?分からんのか?」
「お前ともあろう者がこの凄さを分からんとは、残念だ」
「まぁ、うちの息子は常に殺気を放ってんわけでもないからな、気を抑えるのがうまいと言うことか」
「納得だな」
「まぁ、見てなさい。今に分かる」
ソーンの事を分かられなかったことが悔しいのか、よく喋った。
ゴホン
王は仕切り直した。
「隊長の皆、来てくれて感謝する」
「ここに居る素晴らしき冒険者達を見てやってくれ」
「「はい!」」
全員声を合わせ、サッと立ち上がりラヌシアとは逆側に並び立った。
(王、王妃、母さん、隊長の皆さん…)
(ちょっと待ってもらっていいですか!?)
(この状況は辛すぎるんですけどーー!?)
「最後に、ソーン=クリーガー」
もちろんソーンの願いは叶わず、事は進む。
(もうどうしょうもない)
ピキーン!
(そうか!)
(落ち込んでいても仕方がない!)
(サッと行ってサッと戻ってくれば印象にも残らないだろ!)
(モブの男として注目なんて浴びてないんだと言い聞かせろ!!)
(トボトボ歩いていたら、母さんに何言われるか分からないし!)
(その方が目立ってしまうしな!!)
(よし、行くぞ)
「はい」
(ここは冷静に大きくも小さくもない声で)
静かに赤い仕切りを跨いだ。
(そして目線は誰にも合わさないように)
(ただ前だけを見つめろ!)
ソーンは淡々と歩いた。
(こっちの金ピカの子がラヌシアさんのご子息か!)
(派手な服装だが、どことなく品を感じさせる歩き姿だな)
(そして何よりその一歩に迷いがない)
(見つめる先にはいったい何を…)
(マルコがアレだけ興奮するのもよく分かる)
(きっと幼い頃から相当な訓練を積んできたんだろう)
(最早この場に立つことは必然であり、当然なのかもな)
アインテッドはその“迷いのない”ソーンを目の当たりにして、思考を巡らせる。
(よしよし、今の俺は何の変哲もない普通の男だ!)
(母さんの息子だが、だからこそ!)
(きっと凄いとか何だとか思われている所を、逆手に取る!!)
(大した事ないと言う事をとくとご覧あれ!!)
王の前に立つ。
(流石ソーンさん!堂々とした姿はマクラウル様にも引けを取らない!)
(僕も見習わないといけない所です!)
(ソーン殿はやり良い御仁だ)
(小さな犠牲すら救うと言う信念は、既に国すら見ていたんだな)
(深い…)
(あー、もうこの人絶対強いじゃん!!)
(早く手合わせしたい!!)
(もうこれ終わるかな!?)
(そしたら六番隊の修練場へ連れ込むぅ!)
ソーンの気持ちは一ミリも伝わることなく、隊長達の思いが膨らんでい行く。
「此度の戦いの一番の成果は君にある」
「視野を広く持ち冷静でな戦い」
「しっかり両親の血を受け継いでおる」
(成果なんて俺にはありません!)
(凄いのは進化し続けるルドル、とんでもない魔法を使えるリエル、そして敵の居場所、敵の魔力を解析したリンビアです!)
(俺は判断が遅くてルドルを…皆を危機に晒してしまっただけ…)
(居るだけどころか、使えない勇者だった…)
(そして、マルコさん!)
「迅速な救援要請対応、そして我が国の騎士団隊長のマルコに華を持たせてくれた」
「最上級の感謝と共にこれを」
(そんな感じだったのか?)
(そうですよ、全部その通りです)
(本当にソースさんは凄い人なんです!)
(あの歳で勇者とは伊達じゃないようだな)
(手合わせしてみたいぃ)
ソーンの前に差し出されたのは、黄金に輝く“剣の勲章”だった。
(金ピカだ…)
奇しくも、300ジューロンの剣と今着ているロングジャケットと同じ輝きを放っていた。
ーーこんな凄いもの僕には勿体ないです!
(って、言いたい!!)
(だが、そんな事を言えば無駄に目立ってしまう…)
(どうせ言った所で渡される運命は変わらない!)
(それなら、やはり変に目にも留まらぬ様に終わらせたい…)
ソーンは早く終わらせたい一心で受け取ることに、全てを集中させた。
「ありがとうございます」
無駄な所作はなく、膝を付き王より受け取った。
「この剣の勲章とは…」
この場にいる全員がソーンの動きに注視してしまっている。
ハハハ
「いまさら言う必要もないか」
「勇者ソーン!」
「はい」
顔を合わせずに声を出す。
「これからもよろしく頼むぞ」
「何かあればいつでも頼りなさい」
「この国の者は皆等しく、私たちの家族だ」
マーデン王はソーンの肩に手を置きそう言った。
その光景はとても神々しく輝き、ラヌシア、騎士団の隊長達、セブンスヘブンの皆、全員の心を一つの想いにさせた。
((王に認められた))
と。
「ありがとうございます」
(よしよし!四人の中で最速じゃないか!?)
(早く戻ろ)
その時。
「ぐっ…!!!」
ひざから崩れ落ちたラヌシア。
そばの使用人が即座に駆け寄る。
「ラヌシア様!」
微笑みながら涙を流し、吐血していた。
「国王に認められ、大きな成果を残した…」
「ソーン…尊過ぎる…」
そんな姿を見るやいなや、先ほどの威厳とは変わり王が豪快に笑い出す。
「ガハハハ!」
「これにて堅苦しいのは終わりだ!」
「皆!グラスを持てい!」
その号令で使用人達は、そそくさと全員に酒の入ったグラスを渡し回った。
グラスが行き渡ったのを確認した王は、上に高らかと上げる。
「国とこの新たなる希望に!」
「「国と新たなる希望に」」
「「乾杯!」」
ワイワイ。
ガヤガヤ。
「“ロベン”さんも来れればよかったんですけどね!」
「いつも忙しそうだから、仕方ないな」
「“ガーミラ”殿は道にまた迷ってるのか?」
「いつもの事でもう誰も気にしてないねぇ」
セブンスヘブンの皆も目を合わせ小さく乾杯した。
(何事もなく終了!!)
(よしっ!)
グッと拳を握る。
「ソーンはやっぱりスゲェな!」
堅苦しさから解放されたルドルが一番に声を出した。
「別に凄くないだろ?“普通”にもらって“普通”に戻っただけだぞ」
「いやー、何ていうか凄い絵だったぜ!」
「そ、そうか?」
(特に特別な事はなかったはずなんだけどな…)
「ねえ、ソ、ソーン?」
「あ、あああ、あの方って」
とてつもなく緊張しだしたリエル。
(なんで今緊張しだしてるんだ?)
「あの方?」
リエルの見る方向には未だ使用人に抱えられ、微笑みながら涙を流し、酒を飲む母ラヌシアが居た。
(母さん!!)
「あぁ、俺の母さんだよ」
「お義母さまなのね!!凛としたお姿に、清々しいお声…先頭に立ってもなお折れない佇まい…」
「なんと凛々しく美しい…」
神様でも見るかのように手を合わせ、目を輝かせている。
(この状況でそう思えるリエルが凄いよ…)
「挨拶させてもらっても大丈夫かしら…?」
「全然大丈夫じゃないかな?」
「行っておい」
「行きましょう!ソーン!紹介して!ね?」
強引にソーンと腕組手向かっていく。
(別に俺は…!!)
「なんスかなんスかー!私も混ぜて欲しいッスー!」
「アチョー!ッスよー!」
少しのお酒でハイになれるリンビアは既にいい気分になっていた。
「俺も行くぞー!」
「隊長達に会えるなんて滅多にないんだろ!?」
「なら行くっきゃねーなー!」
開放感とお酒の力で皆は陽気になった。
そしてソーンの味方をするものはここには誰一人居なかった。
(ちょっと!もう帰ろうーよーー!!)




