第41話『…母さん(絶望)』
「王、セブンスヘブンの皆様が門までご到着されたようです」
一人の兵士が膝を付き声を出す。
「そうか」
「ご苦労」
声を張ることなく静かに通る。
玉座に座る男。
この男こそが王国マシュリクを統治する、マーデン=ゴルク王である。
代々マシュリクの王は若くしてその座に就く。
マーデン=ゴルクもまた幼き頃から英才教育を受け、王になるべく生きてきた人間である。
齢60を迎えようとしている。
蓄えたヒゲはしっかりと切り揃えられており、ウェーブ掛かった金色の髪は耳を隠す程度の長さで整いセットされていた。
王と言えど豪華絢爛と言うものを好まず、必要最低限の装飾だった。
この人を一言で表すのであれば『威厳』そのひと言に尽きる。
自分にお金をかけるのではなく、国民やこの国の為にと言うのが信条で心優しき王様である。
隣に座るのは妃の《マリア=ゴルク》
彼女もまたマーデン王と同じ心を持っており、ドレスや装飾品にお金をかける人ではなかった。
今回は客前という事で普段よりは着飾っている。
コンコンコン
静寂の中に響き渡る。
ガチャン
内側から使用人が扉を開ける。
「失礼いたします」
扉から入ってきたのは、赤い髪をなびかせ騎士団の正装の女性。
「ラヌシア」
その女性とは、ラヌシア=クリーガーだった。
王直属の騎士団で総指揮を執るほどの実力者でソーンの母親である。
総指揮官であっても例外なく王の前で膝をついた。
「本日はご無理を聞いて下さり、本当にありがとうございました」
「我が息子、ソーンがここで王にお言葉をいただけるとあっては居てもたってもいられず、参った所存」
頭を下げた状態で離すラヌシア。
「ハハハ、ラヌシアも人の親だ。そう思うのも当然だろう」
「ウフフ、そうね。ラヌシアさん、わざわざ遠い所からお越しいただいてありがとう」
「いつも通り楽にしてくれ」
「マーデン国王、マリア王妃」
「お気遣い痛み入ります」
静かにスッと立ち上がる。
「と言うわけで、今日は上等なお酒を持ってきましたー!」
「ただ待っているのも何でしょうから、早速一杯どうですか?」
「ダハハハ、その言葉を待っておったー!」
「あらあら、途端にいつもの顔ね」
普段からこうして必要以上に壁を作らず、分け隔てなく優しい王と王妃の人柄が伺えた。
ラヌシアの後ろから使用人が、トレーに乗ったお酒とグラスを持って来た。
「ありがとう!」
そう言い受け取る。
「これが凄く美味しいんです!」
「北西にあるある地域で作られたお酒なんですけど」
言いながら、グラスを二人の間の小さなテーブルに置く。
トクトク
少しトロミのあるお酒で赤く光を反射した。
「どうぞ!ご賞味ください!」
自信満々の笑顔のラヌシア。
「先ずは乾杯だな」
「そうしましょう」
「でわ」
皆でグラスを持つ。
「我が息子、ソーンとその仲間たちに」
「「乾杯」」
チンッ
「ありがとう。いただくよ」
「ありがとうございます」
スンスン
グラスを回しお酒の匂いから楽しむ。
「これはまた芳醇な香り」
「ホントね、色といい艶といい素敵なお酒ですこと」
普段からいい食事をしている王族をも虜にしてしまう。
ッング
ゴクッ
「ほぉー!こりゃ凄い!」
「まぁ!なんて美味しい…」
「そうでしょうそうでしょう!」
ングング
「ぷはぁー!美味しいー!」
「後でこのお酒に合う、取って置きのおつまみもお持ちします!」
「流石だな、準備がいいことだ」
コンコンコン
ガチャン
「失礼いたします」
「マーデン国王、トレン様タナナ様がセブンスヘブンの皆様をお連れいたしました」
「来たか」
キラキラキラーン☆
ラヌシアの目が大きく広がり輝き出した。
(ソーン!!)
「いや〜、なかなかな道のりッスね〜」
「俺が最初にはいるんだー!」
「ちょっとアンタ達!もう少し緊張感を持ちなさいよ!ここには王様が居るのよ」
「失礼します。でしょ、全く」
「「失礼します」」
あまりに普段とのギャップ、現実離れした場所に来ているため、皆のテンションがおかしくなっていた。
「失礼いたします」
リエルはきっちりお辞儀をした、
ガヤガヤしながら三人は入室をした。
「し、失礼します」
ソーンは目立たない様にと、目線を落としながら最後に入室。
移動中タナナに聞いていた通りに動く。
ーーー
入室したら数歩進むと、床のタイルの色が赤くなっている部分があるからそこの手前で止まる。
全員横並びで王が話すまで待つ。
特に反応を要することもないとは思うが、必要があれば反応をする。
シャキッと立つ。
後は流れで動く。
以上。
(流れで動く!?)
ーーー
「失礼いたします」
「失礼いたします」
「大変お待たせいたしました」
トレンとタナナは深々とお辞儀をした。
「トレン、タナナ」
「「はい」」
「早朝から苦労をかけた」
「ありがとう」
「滅相もございません」
「私どもは当然の責務を果たしたまでにございます」
マーデン王はにこやかに二人お礼を言った。
「ついでと言っては何だが、せっかく“騎士団の総指揮官”が来てくれてるんだ、皆も呼んでくれぬか?」
「急ぎ、呼んでまいります」
ビシュンッ!
トレンとタナナは一瞬にしてその場から消えた。
(ん?)
(今、騎士団の総指揮官が来てるって言ってた…?)
(いや、聞き間違いだろう)
(母さんが今ここにいるわけない。うん、絶対に居ない)
(だって遠くで仕事中だよ??)
(幻聴を聞いてしまうほどに欲してるのか!マザコンか!俺は!)
「諸君、朝から長旅ご苦労だった」
(話し出した)
「そしてこの国を治めるものとして、此度の事に対して深く礼を申したい」
(もうお礼だ!案外すぐ終わるかもな!)
「街の危機、ひいては王国の危機になったかもしれない。未然に防いでくれて心より感謝する」
「本当にありがとう」
「ありがとうございました」
王と王妃は立ち上がりしっかりとお礼を述べた。
「そんなに俯かずに、顔お見せてくれないか」
目立ちたくないソーンはあえて下を向いていたが、それがむしろ目についてしまったようだった。
(ヤバい…俺か…?)
ゆっくりと顔を上げる。
……
…!?
(な、なんで…!?)
そこには満面の笑顔でソーンを見つめる母、ラヌシアが小さく手を振っていた。
(ソーン♡)
口だけを動かしてみせる。
(なぁ、ソーン気になってるんだがあの赤髪の人は誰だ?)
ルドルがヒソヒソと疑問をぶつけた。
(…)
(ソーン?)
(…母さん)
(え?ソーンの母さん!?)
硬直気味のソーン。
「ようやく皆の顔が見れたな」
ゴホン
「それでは、これよりセブンスヘブンの皆に勲章を授与をする」
(勲章!?)
(なんで!!?)
(もっと相応しい人たちがここのギルドに居るでしょー!!)
(なんでこうなったのーー!!)




