第40話『もう、何も考えません』
トレンとルドルに続いて部屋を出たソーン。
その光景に息を呑んだ。
リエルとリンビアが輝き過ぎていた。
最初に街のギルドで見た時のリエルも十分綺麗で、凛としたその姿に周りの男達は目を奪われていた。
が。
その比じゃない。
ドレスはリエルの髪の色と、氷の魔法と親和性が高い青色を基調としてる。
青と言っても真っ青な色ではなく、品を感じる晴れ渡る空をイメージさせる色味で、胸元から足首までを明るく包む。
タイトすぎないスカート部分は可愛いと綺麗を両立して見せていた。
そして、その空に掛かる雲のように白いレースが胸元から腕を包むように一周し一層上品さが増す。
彼女の白い肌が、青いドレスにどれほど映えているか他人の目から見ればそれはもう、言葉を失うほどに。
ドレスもとても似合っているが、タナナがまとめたであろう髪型とても目を引く。
いつもは軽やかに踊る青い長髪が、今日はうなじを美しく見せるように高く掲げられ、ふんわりと丸みを帯びた上品な形に結い上げられて、こちらが気恥ずかしくもなる。
女性はこうも輝けるのかと真の美しさをみたような気持ちになった。
そしてリンビアだ。
まず“デカい”
二つのたわわに実った丸い果実。
日頃は白衣を着ていて、身体のラインはおろかその下を見ることはほとんど無かった。
異国情緒あふれるそのドレスはリンビアの身体に沿うようにラインをしっかりと出し、彼女のスタイルの良さを際立たせている。
首者には短い襟が立っており、肩を隠す程度の短い袖、背中は腰のあたりまで大胆に開き、そこをレースで飾り付けがされて上品さが出ていた。
色味は淡い紫で差し色に白があしらわれている。
動きにくい服装は嫌だと言っていたリンビアだが、スカート部分にスリットが入っていて、動きの制限は少ない仕様になっている。
そのから覗く脚は、外に出ない科学者とは思えないほどに程よく筋肉がついて細すぎず太すぎず、健康体のそれだった。
靴はそのドレスと同じ様な柄のヒール。
トレードマークの巻き髪を、今日は一段とエアリーに、かつ華やかに。
計算し尽くされたボリュームを持つポニーテールが、大胆に開いた背中に繊細な陰影を落としていた。
メガネを外すことで更に知らない人へと変貌していた。
「わりぃ、待たせた!」
「結構かかってたわね、お二人さん」
「アチョー!」
「なんだそれ!新しい技か!?」
リンビアは真新しいドレスでテンションが上がっていて、どこかの拳法を披露していた。
「凄い…」
「二人ともとても綺麗だ…」
ソーンの素直なところが出てしまう。
今までは父マクラウルとの修行や、働いている幼馴染のユルザ。
こういう服装とは縁がなかったため初めての感覚だった。
「タナナの技術はとても素晴らしく、女性を輝かせることが得意でございます」
「いえ、滅相もございません」
「ですが、メイド長たるものこの程度は出来て当然です」
「ソーン様、ルドル様も大変よくお似合いでございます」
「トレンさんがホントに凄いんですよ!速いし綺麗に着せてくれて!!」
ハハハ
フフフ
はしゃぐルドルに初めて二人の笑顔をみた気がした。
「やや?」
「ソーンさん私のこの拳法に見とれてるッスか〜」
ニヤつくリンビア。
「ソーンさんもルドルさんもかなりイケてるッスよ!」
親指を立てて褒める。
何を着てもリンビアはリンビアだった。
「き、綺麗…?」
(キャーーー)
(ソーンが私を見て綺麗だって!!)
(今までの成金のバカ達に言われる言葉より凄く嬉しい…!!)
(ソーンも凄くかっこいいわよ!!)
(派手な薄めの金色のジャケットがとても似合ってるし!)
(普段は控えめなのに、こういう時にはビシッと決めるその雰囲気素敵ーーー!!)
(はぁ…かっこいい…)
ハンカチの一件からリエルには、ソーンがより一層いい男に見えるようになっていた。
「俺もソーンも最上だろー!」
(この並びなら俺はあまり目立たない…はず!)
「では皆様外に馬車を停めておりますので、そちらへ」
「はい!」
「はいッス〜」
「…はい」
「あっ!?はい」
(え、もう行くの?もっとソーンの感想聞きたかった〜)
ーーー
ーー
ー
一行はトレンが御者を務める馬車に揺られ、王の待つ国城へと向かった。
道中、行われる式の内容。
所作の説明。
そして、タナナ特性の朝食を摂った。
美味しさに興奮するルドル。
未だにドレスでテンションの上がるリンビア。
余裕を漂わせながら、ソーンを何度もチラ見するリエル。
如何に目立たないようにするかを考えるソーン。
皆のベクトルは完全に別の方向を向いていた。
「皆様これよりこの馬車は最速で国城へと向かいます」
「しばしおくつろぎ下さい」
いつも歩いていた道をそれ馬車は進んでいった。
完全に朝日は昇り、気持ちのいい日差しとそよ風が入り込む。
ー
ーー
ーーー
しばらくすると、馬車が止まった。
トレンは御者台を降り、馬車の扉を開けた。
「皆様、到着いたしました」
「タナナ」
「はい」
タナナは反対側の扉から外へ出て、リエルとリンビアをエスコートした。
「お足元、お気をつけください」
「ありがとうございます」
「何かお嬢様になった気分ッス〜」
「ソーン様、ルドル様もこちらへどうぞ」
そう言われ二人はトレン側から降りる。
「す、すげぇ…」
そこは前に通ったことのある門ではなく、王室へ入るための専用の門だった。
多く配置されている門番は皆、真剣な眼差しで立っていた。
豪華な造りというよりは、静かで威厳や迫力を感じる様な雰囲気で石造りの門柱には、派手な金細工などは一切ない。
ただ規律よく等間隔にそびえ立つ。
無言の美と圧力は一介の冒険者はおろか、王国ギルド関係者すら不用意に近づくことすら許さない。
ゴクリ。
思わずソーンの喉が鳴った。
(今からここに入るのか…)
(王様に感謝をされに…)
(やっぱり、行きたくない!!!)
先頭と最後尾を確認する。
先頭をトレン。
最後尾をタナナ。
(…前も後ろも逃げ場はなし!!)
そんなソーンの心は無関係に、一歩一歩と近付いてくる門。
「この作りもかなりカッコいいな!!」
「はぁ…これはどう見ても綺麗と言う言葉が、相応しいと思うけど?」
「こんな石見たことないッス!!」
(なんで皆そんなにいつも通りなの!?)
「ソーン様。いかがされましたか?」
(…この人は後ろにも目が付いてるのか)
先頭を歩くトレンが振り返り聞いてくる。
「いえ、こう言う雰囲気に慣れなくて…」
「流石ソーン様ですな」
「どういう事ですか?」
「ここの石の柱には“特殊な魔法”が掛けられているのです」
「特殊な魔法…ですか?」
「左様で御座います」
急に小声になるトレン。
「強者であればあるほど、ここを通る際に不快感や不安感のような何とも言えない感覚に陥るのです」
「ですので、その今ソーン様がお持ちの感覚は至極当然で強者の必然なのです」
「自信をお持ち下さい。何も恐れる事もございませんので」
(そうなの!?)
(でも皆も相当な強者なのに不安そうでもないな)
「御三方はその妙な感覚に触れ、払拭するように気丈に振る舞われているのでしょう」
「それを出来るのもまた強者の証」
(あ、心も読めんるだ)
(じゃあ、このジャケットは止めて欲しかったです!)
「そのお召し物はよくお似合いです」
「堂々と胸を張って下さい」
(……)
何も考えないことにしたソーン。
ザッ!
ガキンッ!
統制された一糸乱れぬその敬礼を一身に浴びながら、トレンは歩みを進める。
(中はもっとすごいんだろうなぁ…)
(早く帰りたい…)
門をくぐった瞬間、外の喧騒が嘘のように消え去った。
足元の石畳は、鏡面のように磨き上げられた漆黒の石材。
一歩踏み出すごとに響くはずの足音がソーンの気持ちと共に、建物の持つ圧倒的な威厳に吸い込まれ、霧散していくような錯覚に陥った。




