第37話『朝から元気なのはとても良い事だが…』
「ソーン…助けてくれ…」
「……」
セブンスヘブンの四人は、王国騎士団の二番隊隊長マルコの計らいで国城の“王の間”へ招待されていた。
「…全くこれだから野蛮人は」
こういう場面に強いリエルは凛とした立ち姿で、ルドルに呆れる。
「この服は最上だが、こんなかっちりした空気、息がしにくくてたまんねぇ…!」
「それは同意ッス〜」
「そして眠いッス〜」
ふぁ〜
大きなあくびをする。
「ほら!二人ともしゃんとして!」
「ソーンの姿を見てご覧なさい」
「あんなにも堂々とした姿…!」
ソーンはただただ真っ直ぐ立っていた。
(何でこんな事になってるだ…)
それは今朝のことだった。
ーーー
ーー
プルグ、マノンとの激闘が終わり傷も癒えた頃。
まだ日が昇り切る前かどうかという時に、拠点に早馬が来た。
コンコンコン
(ん?こんな時間から何だ?)
朝から土いじりをするソーン耳に、木の扉をノックする音が届いた。
コンコンコン
再びノックの音がした。
(はいはい、分かったよ!)
(二人が起きちまうだろ!)
(良いところだったのに…)
二人とはルドルとリンビアの事である。
リエルはミラー家の自宅へ荷物を取りに帰っていた。
至福のひとときを一旦やめ、音がする玄関の方向へと向かう。
「はーい、どちら様ですかー?」
ーーーそこには
一切の皺を許さない、漆黒の礼装に身を包んだ男が立っていた。
燕尾のように長く割れた裾が、夜明けの風に静かに揺れている。
胸元には汚れ一つない純白のスカーフタイが、銀のブローチで留められている。
ノックをしたその手は、雪のように白い手袋に覆われていた。
その横には
足首まで隠す重厚な濃紺のロングドレスに、一切の汚れのないエプロンを重ねた、凛とした佇まいの女性。
髪は一切の乱れもなく纏められ、小さな白いヘッドドレスが静かに朝陽を反射している。
(…この人たちは誰だ?)
(!)
こちらに気づくと、男の人は胸に手を当て深々と。
女の人はスカート持ち上げその分足を曲げ、頭を下げお辞儀をした。
「お初にお目にかかります」
「私は国城で王の執事を仰せつかっております、《トレン=ドエネ》と申します」
「同じく、私はメイド長を仰せつかっております、《タナナ=レンダン》と申します」
「以後お見知りおきを」
「は、はあ…」
(何なんだこの静かで威圧感のある雰囲気の二人は…)
(何の用があるって言うんだ…)
「して、ソーン=クリーガー様、並びに“セブンスヘブン”の皆さんはいらっしゃいますでしょうか」
(な、名前もパーティー名も知られている!?)
「えーっと、俺がソーン=クリーガーです」
「他の皆はまだ…」
「ソーーン!」
敷地の外側から大きな荷物を持ったリエルがやって来た。
「あら?こんな早くからお客さん?」
(そう言うリエルもかなり早いぞ…?)
「ああ、俺達に用があるみたいなんだ」
トレンとタナナはリエルに向き直る。
「これはこれはリエル=ミラー様」
「お初にお目にかかります」
「王の執事のトレン=ドエネです」
「同じく、メイド長のタナナ=レンダンです」
「“天光ノ女列”でのお噂はかねがね」
(テンコウノジョレツ?何だそれ?)
(王の直近の方たちが何のようかしら?)
ドサッ
荷物を置く。
「初めまして、リエル=ミラーと申します」
「天光ノ女列とはもう関係ございません」
「今はこのセブンスヘブンが私のパーティーであり、居場所ですわ」
優雅に挨拶を返した。
「存じております」
「この度はその事で参った訳ではございませんので、ご安心を」
一礼。
「本日はこちらを皆様にお渡しすべく参りました」
「タナナ」
「はい」
メイド長であるタナナが、1枚の小さな手紙を取り出しソーンへ手渡した。
「お受け取りください」
「これは?」
「なになに?」
ーーー
招待状
この度は我が騎士団二番隊隊長のマルコより、ソーン様、並びにセブンスヘブンの皆様のご活躍を拝聴いたしました。
さぞ、ご苦労があった事でしょう。
街の一大事、ひいてはこの国の一大事となるべく危機をお救いいただいた事、心より感謝申し上げます。
その名誉を讃え、一度皆様で国城へ足をお運びいただきまして、是日とも直接お礼を申し上げさせていただきたい所存。
国王 マーデン=ゴルク
ーーー
「マーデン=ゴルク王が是日皆様にお会いしたいと仰られております」
「ですのでお時間が許しますれば、早速ご準備をしていただきたいのですが」
「え、準備って…今からですか!?」
「左様でございます」
この招待状に目を輝かせるリエル。
「王様自らのご招待!」
「凄いじゃない!!ソーン!!」
「これはとても名誉な事よ!一介の冒険者何かが王様に直接会える機会なんてないんだから!」
(…何でこうなるんだ!)
(くそ…何かいい方法はないか!?)
「でもまだみんな寝てるし…」
ガチャ
「…何してんだ?…朝からうるさいな」
騒がしい声を聞いたルドルご目を覚ました。
「うるさいとは何よ」
「それよりこちらの方たちにご挨拶でもしたら?」
「…ん?」
眠い目を擦り見覚えのない二人と目が合う。
「ルドル=マフティス様、ですね」
「お初にお目にかかります」
「王の執事のトレン=ドエネです」
「同じく、メイド長のタナナ=レンダンです」
「…ルドル=マフティスです」
(これ何回聞くんだろう…)
「ルドル様のご武勇は聞き及んでおります」
「ご自身の事は二の次で仲間を守るその気高さは、まさに冒険者の鑑にございます」
「…」
ルドルの目が全開になる。
「何だ何だぁ!!この素晴らしき最上のお二人はぁ!」
「俺のファンなのかぁ!?そうなのかぁ!?」
「うおーー!!」
「ささ!汚い所ですが、外に居るのも何でしょうから、どうぞ中へ!!」
トレンとタナナは一礼をして
「お招き、痛み入ります」
ルドルの先導で拠点の中へと入っていった。
(ルドルを一瞬にして取り込むとは…)
(執事さんとメイド長さん…恐るべし)
「ソーン、ごめんこれ手伝ってもらってもいい?」
ここまで一人で持ってきたリエルが、ここに来てしおらしくなる。
「ああごめん!気づかなくて!」
「もちろんだ」
ヒョイと軽々持ち上げる。
「部屋まで持っていけばいいか?」
「うん!でも、私の部屋ってもうあるのかな?」
「昨日夜遅くまでリンビアがせっせと何かやってたみたいだから、完成してるんじゃないかな」
「中は見てないけど」
「楽しみだわ」
「おかげでリンビアは夕方まで寝てるだろうけどな」
フフフ
「徹夜で作業してくれたのは嬉しいけど、起こさないとだね」
アンギャーッ!!!
ゴゴゴ…!!
「何!?地震!?」
「…いや、起こす必要がないって事だ」
(リンビア=オリル様、ですね)
(お初にお目にかかります)
(王の執事のトレン=ドエネです)
(同じく、メイド長のタナナ=レンダンです)
中からは小さくもよく通る、何度も聞いた声が聞こえた。
(みんな朝から元気だなーー!!!)
朝日が昇る。
ソーンの気持ちとは真逆に、晴れ渡る気持ちのいいに日なりそうなほどに眩しく。




