第21話『まぁ枝のためだな… 』
帰路に着きながらソーンはハッとした。
(やっちまった…)
ーーー
マルコさんやアイニーさん、ノーリスさんにあったらよろしくお伝え下さい。
ーーー
(あの人になんてことを言ってしまったんだ…)
自分のやってしまったことを後悔する。
共通の会話であの空気を乗り切ろうとした。
ただそれだった。
「しっかしあの龍カッコよかったなー!」
未だにカッコよさに染みてるらしい。
「それにあの青髪のネーちゃん、王国ギルドに所属なんて凄いな!」
(そう…凄いことなんだよ…)
「でもソーンも負けてなかったな!」
ハハと笑う。
(くそー…)
ドンドンと落ち込むソーン。
「どうした?そんな浮かない顔して?」
「あ、いや…」
「さっきのネーちゃんの事考えてたんだろ〜?」
「まぁ。…そんなとこだね」
「うんうん。分かる分かるぞソーン!」
(出来ればもう会いたくないな)
(隊長の名前を出して、変に勘ぐられてしまってないかな…)
「また会いたいな!あの龍もう一回みたい!」
噛み合わない二人だった。
ガチャッ
「ただいまー!」
「ただいま」
そこにはリンビアの姿はなかった。
「あれ、リンビアのやつまだ地下にこもってるのか?」
「そうかも知れないな」
ふぅー。
ルドルはドサッとソファーに腰をおろした。
「ふげぇ!!」
「ん!?」
落ち着く暇もなく飛び上がる。
誰もいないはずのソファーからリンビアの声がした。
「痛いッスよ〜、ルドルさん〜」
寝ぼけた顔だけが浮かんできた。
「うわーー!!リンビアの首だけお化けだーー!!」
「リンビア居たのか」
瞬時にソーンの後ろに隠れる。
「お化けってそんな酷い顔してるッスか…ショック…!」
スルスルっと落ちる布の音共に、リンビアの姿が出てきた。
「な、何だ何だ…急に全身が出てきた…」
「あ、透明布団で寝てしまってたッス」
「「透明布団…?」」
ーーー
透明布団。
リンビアが発明したもので、熱を外に逃がさず内部に反射する構造になっている。
可視光だけを通すため、結果的に姿が見えなくなるらしい。
寒いのは苦手ッス!
ーーー
「はい、これ暖かくてどこでも寝れるッス!」
「予備もあるんで今度寝てみてくださいッス!」
透明のそれを持ち上げて見せる。
「す、凄い発明だな…」
「透明になれる何てすげー!これならどこ行ってもバレないな!」
「まぁ、そうッスけど重いのでこれを被って歩き回るのは推奨しないッス!」
慣れた手つきで透明布団をたたむ。
「こう見てると不思議な光景だな」
「確かに。見えないから一人で動いてる様にしか見えない」
たたみ終えると、
テーブルの上に置いた赤い実が目に入った。
「おぉ!綺麗な赤い実!」
「そうだ、リンビアに聞きたかったんだこの実のこと」
「これめっちゃ美味いんだぜ!」
カチューイーン。
リンビアの掛けているメガネが音をたてる。
「この実はリゴンッス!」
「鬼猪の好物でこの辺だと、あんまり流通はしてない果実ッスね」
「王国付近の街だと普通に売ってるッス!」
ーーー
リゴン
みずみずしく、かじると果汁が溢れる。
スッキリとした甘さの中に蜜の香りが鼻から抜ける。
赤く実ったタイミングが一番の食べ頃である。
ーーー
「これってうちの庭でも育てられるか?」
「はい、もちろん可能ッスよ!」
(よし!初めての植物だ!これが上手く行けばこれからに勢いがつく!)
心で大きくガッツポーズをする。
「やったな!ソーン!これでネオギガンティックの始まりを告げるな…」
「でも問題は…」
「この実だけでは育てられないって事ッスね!」
「それはどういう?」
「リゴンは種を持たない種類で、幹や枝と言った木の一部が必要ッス!」
「木の一部…」
(ここに木を植えられるのか…!!)
「って事は、また行かないといけないってことだな!」
ふと、鬼猪との出来事を思い出す。
「そうだ、リンビア教えてほしいんだけど」
「はい!どうぞソーンさん!」
鬼猪の異常個体やルドルの覚醒など、
依頼中の出来事を話た。
「フムフム」
「どれも興味深いッスねぇ…」
メガネをクイッと戻し考え込む。
「まずルドルさん!」
「おう?」
「アナタにもそんな才能が眠ってたんッスね!見せてくださいッス!今!」
鼻息荒くルドルに言う。
「おう!いいぜ!俺の最上!」
「うおーー!!」
全身に力を入れる。
「こい!!」
「灼熱爆裂猪拳」
森で見せたような湯気や赤みは出てこなかった。
「…」
「…」
「あれ?おっかしいなー…」
「変化無し…」
「まぁ火事場の馬鹿力タイプっぽいッスもんね」
「分かってました」
「チクショーー!!」
「まぁまぁ二人とも」
「ソーンも見てたよなぁ!俺の技!」
「あぁ、もちろん見てたよ」
「凄かったしカッコよかったよ」
「そうだよなーーー!最上にカッコよかったよな!」
「すぐモノにしてみせるからな!その時は見て驚け!」
「えーっと、そして本題の鬼猪の異常個体ッスね…」
「こっちも本題だろ!」
「まぁまぁ」
「話を聞く限りそんな個体は、この私も見たことも聞いたこともありません」
「だよな」
「異常な知能、気性の荒さ、突然死」
「いっぺんに起こるなんて説明が付けにくいッス」
「例えば、異常な知能があったらとしたら人間と正面から争うような事はそこまでしないと思いますし」
「気性の荒さ、原因があるとしたら子どもや家族がやられるなどは考えられますが、殴って飛ばしたくらいでそこまでになるか…」
「突然死、これが一番の謎ッスね」
「老衰や病気なら倒れるのも分かりますが突然とは言いにくい」
「そしてそんなに闘える状態ではないですし…」
ボタボタ。
リンビアから嬉しヨダレが溢れてきていた。
「リンビア!ヨダレヨダレ!」
「うわぁー!汚すなよ!」
ジュルリ。
「おっと、これは失礼しました」
袖で口のヨダレを拭く。
「やっぱりおかしいよな…」
「ですが、このスーパー科学者のリンビアちゃんに言わせれば簡単な話ッス!」
「なんだ?分かるのか!流石スーパー科学者!」
「“外部的要因”って言うのが、状況的に見ても考えやすいッスね!」
「外部的要因?」
「そうッス!まぁ簡単に言うと変態科学者とか変態生物学者とか、そんな感じッス」
うげー。と気持ち悪いやつらだと動きで見せる。
「変態…」
「気持ち悪そうな奴らだな」
「その通りッス!自然を研究対象にするのはいいてすが、もしこれが本当にそうだとしたらやり方を間違えてるッス!!」
少し苛ついた雰囲気で言う。
(リンビアが珍しく苛ついてるな)
「じゃあそいつ等を倒せばいいってことか?」
「倒すと言うか、止めさせられれば一番ッスね」
「他に研究の熱を注いで欲しいッスよ」
(ちょっと大変そうな話になってきてる…)
「でもギルドには報告しておいたから、とりあえずは任せていいんじゃないか?」
「いや、ソーン。枝を取りに行くついでだ!俺たちでも調査してみようぜ!気になるだろ!?」
「私も何かしらの痕跡があるかもしれないッスから、同行するッス!」
(俺はリゴンの枝を取りに行くだけのつもりだったのに…)
「時間的に遅くないか?外もそろそろ暗くなってくるぞ?」
そろそろ日没になろうかと言う時間であった。
「夜の森は危険が伴う。今日のところはやめておいたほうが…」
「ありがとう、ソーン。でも俺たちは大丈夫だ!な?」
「そうッス!なんならこれもありますから!」
ポケットから小さなアイテムを取り出す。
デデーン!
「ビカビカに夜も朝になっちゃうライト!ッス」
(どんなネーミングセンスなんだ…)
「これを使えばたちまち一帯は明るく、まるで夜だってことを忘れるッス!」
「おぉ!スゲー!こんなにちっちゃいのにそんな事できるのか!!」
「へへーん!これなら痕跡を見落とすわけないッス!」
「こうしちゃいれねー!これを使って深淵を切り開く!」
「前は急げだ!!今から行くぞー!」
(…目的変わってないか)
「おー!ッス!」
「まぁ枝のためだな…」
渋々気持ちを切り替えるソーン。




