第17話『あ!武器…』
「受けて来たぜー!」
依頼書をはためかせながら戻ってきた。
「ありがとう」
「またソーンは居ないのか?って聞かれたわ」
「また?」
「そんなによく聞かれてるの?」
「あれ?言ってなかったか」
「勇者になってから聞かれる様になってきてよー!」
(やっぱり、勇者くらいじゃ受けられない危険な依頼があるから聞かれてるだろうな…)
「悪いな、世話をかけるよ」
「悪いことなんかねぇぞ!」
「それだけソーンが気になる存在って事だ!」
(ギルド全員で守るって言ってたもんな…)
ーーー
ーー
ここ最近鬼猪がよく出没すると言うポイントについた二人。
辺りを見渡すと木々がえぐられ、自然が食い荒らされていた。
「こりゃひでーなー」
木の傷を指でなぞる。
「結構な威力でえぐられてる」
「ボスはデカくて強いってことだな!久々に腕がなるぜ!」
(この群れが街に来たら被害は小さく無いだろうな…)
ーーーあっ!
ソーンは重大な事にここで気付く。
(武器がない…)
マクラウルとの修行時代に使っていた重い武器。
それはもう使わないと思い、拠点には持ってきていなかった。
ソーンは討伐など、戦う依頼を受けるつもりは一ミリもなかったからだ。
薬草採取や子犬の捜索、荷物運びなどを小さくこなしていく未来を想像していた。
(あるのはこの小さなナイフだけ…くそ…)
このナイフは森で生き抜くためにと、マクラウルから渡されたものだった。
(出来ればこのナイフは使いたくない…)
(即席で木剣を作るか…いやそれでは舐めているように映る…)
(ここは素直に俺の武器はナイフだと言うか…いや今後これを使い続けることになる…)
(素手か!いや、武器もなくて素手で余裕だとも思われたくない…第一ルドルと被る…)
(うむ…どうしたものか…)
シュッ!
パシッ!
ソーンが一人で悩んでいると赤く実った果実が飛んできた。
「そんな怖い顔して何考え込んでるんだー?」
ルドルが木の上から投げた様だった。
「そう言えば俺たち何も食べてなかったろ?」
「戦闘前に腹が張ってたら思考も鈍るぞ!」
シャクッ
アムアム
「ソーンこれなかなかイケるぞ!」
いっぱいに頬張った口で言う。
確かに腹が減ってきたな。
シャクッ
「うん!みずみずしい!これ何の実だろうな」
(是非俺の庭でも栽培したい!)
「持ち帰ってリンビアに聞いてみるか!」
もう一つ実を取ろうとした時
ゴブッ!!
茂みが揺れる。
荒い鼻息。
「甘い果実の匂いに誘われて来たぞ!」
「そうみたいだな」
二人に気付かれた鬼猪は、茂みを突き破りルドルのいる木へと突っ込んでいった。
「ルドル!」
「問題ないぜ!」
シュンッ!
軽やかに宙を一回転して突進してくる鬼猪の上を越える。
スタッ!
前を見てニヤリとする。
(決まったーー!!今のは最上だー!)
そんなルドルに見向きもせず、大木を大きく削り
その勢いのままソーンへ方向を変えた。
(動きは直線的で大木を一撃であそこまで削る威力)
自然と相手の動きを分析するソーン。
(これは避けるか…いや!受ける!)
ドン!!
ズザーーッ!!
(よし!完璧だ!)
ーーソーンの作戦はこうだった。
以前のケルベロス戦を思い出す。
あの時のように避けたら――
また出来るやつだと思われるかもしれない。と
そしていなす事はせず単純に押される。
これによって力で押し負けると言う状況を作っていた。
(嘘だろぉ!素手であれを正面から受けた!?)
チラッ
ルドルを見る。
(よしよし!ソーンのやつこれくらいのヤツに押されてやがる!って思ってるに違いない!)
ブゴォォ!!
鬼猪の脚からは“湯気”が出て徐々に模様のように“赤く”染まっていく。
「おい!ソーンコイツ何かする気だぞ!」
ドゴォォン!!
止まったところから一気に地面に脚がめり込み、更なる力を発揮してきた。
(ルドルが何か言ってるな…焦るなソーン)
(よくタイミングを計れ!)
ルドルが駆け寄る。
その足音を数える。
(一歩、二歩、)
精神が研ぎ澄まされていき、ルドルの動きがスローモーションの様に見えた。
(…五歩……この距離で!!)
「うあぁ!」
ルドルの助けまで耐えられませんでしたー!を演出。
衝撃を逃がしながら体を捻る。
鬼猪はそのまま弾かれるように横へ流れた。
(この調子でこれを何度か繰り返すぞ!)
「大丈夫か!ソーン!」
「あ、あぁ。何とかな…」
ハァハァ。
無理に息を乱す。
チラッ
鬼猪を凝視するルドル。
「アイツ…今俺何かしましたか?みたいな感じでピンピンしていやがるな…」
(ソーンは優しいから傷付けないようにしてるのか)
フ、フゴ??
鬼猪は今どうなったのか分からず目を丸くしていた。
「この依頼なかなかしんどくなっちゃうかもだな…」
「この前の薬草採取の依頼は、ソーンに負けちまったからな!」
「今回は俺に任せろ!」
(そうだ!勇者とは言えおんぶに抱っこは俺の性に合わねぇな!)
…ふぅー
ここでルドルの天性の武の才能が発揮される。
これが拳王への第一歩となるのはこれからの話。
(見様見真似だがやってみるぞ!)
ーーー酸素
ーーー血液
ーーー魔力
俺のエネルギーが体中を巡るイメージ…。
ーーードクンッ
(あの猪に出来て、俺に出来ないことなんかない!!)
ルドルの腕に、先程の鬼猪の“赤い模様”のようなものが浮き出る。
ーーー熱を帯びる腕。
ーーー固く握る拳。
「灼熱爆裂猪拳」
真剣な眼差しで鬼猪に臨む。
「ルドル…なんだその腕…!?」
「おう!今の俺“最上”に乗ってるぜ!!」
集中力を切らすことなく気合を入れる。
「行くぞ!オラァー!」
ルドルが鬼猪に突撃。
怯むことなく向かい合い先程よりも大きな湯気を発しながら、正面からぶつかりに来る。
ブゥゴォォオ!!
大地を踏み砕くような突進。
ドカドカ!!!
「お前の技は俺のがもらったー!!」
鬼猪との衝突の瞬間。
最上のセンスが光る。
とてつもない勢いで近寄る鬼猪の鼻を、軽く小突き方向をズラす。
そしてその勢いを利用して回転。
広く空いた大きな横っ腹に真っ赤な拳をぶち込む。
ブギィィーー!!
(クリティカルヒットォ!!)
人より大きな巨体が宙に浮き、草木の方へと吹き飛ぶ。
これはせめてものルドルの“優しさ”だった。
ドォーーン!!
巨体が草の上へと落ちる。
「す、凄いな…!」
「だから、任せろって…」
ハァハァ。
額から汗が一筋。
「流石に初めての技は出力が分からないから、疲れる…」
ドォォゴォォ!!
ビリビリと大気を揺らす低く大きな音。
「まだ元気な奴がいるか…」
ハァハァ。
ふぅー…。
息を整えるルドル、
「あれがこの群れのボスか!?」
先程の鬼猪など比べ物にならない。
遥かに凌駕する巨体だった。




