第12話『なんでどいつもこいつも手が先に出てくるんだ!』
翌日
ーーーとりあえずの金の工面は親父がやってくれるみたい。
ルドルにそう聞かされた。
今日はその関係でルドルは家に帰ってしまった。
とは言え、自分たちの拠点を作るのに人のお金を借りるのは申し訳なかった。
(どうするかぁ…)
ギルドの掲示板の前に立つ。
そこには色々な依頼書が貼られていた。
ーーー
薬草採取
迷子の子犬探し
荷物運び
畑の害獣及び害虫駆除
ーーー
(んー、この辺は100〜180ジューロンくらいの同じような報酬だなぁ)
拠点費用 : 5000ジューロン
(全部やれば少しは足しになるけど…)
(俺の最高の未来のための投資に依頼をこなしまくる、っていうのもやる気満々だと思われるし…)
(本末転倒だなー)
ん?
掲示板の隅に一枚黒い依頼書が貼られていた。
それは他の依頼書とは違い、高級感が漂う厚い紙が使われていた。
そこにはこのギルドに似つかわしくない金色のインクで綴られていた。
ーーー
「人に隠れてお金を作りたい!そんな君にうってつけ!年齢性別関係なし!必要なのはその肉体だけ!!
金を信じ金に信じられているこのドワユ・ドンにお任せあれ!君の未来は俺が買った!! 依頼の詳細はこちらで↓ ーーー金貸し屋 ドワユ・ドン」
P.Sこれはギルドを通さなくてオッケーだよ♡
ーーー
胡散臭い依頼書の下に地図のようなものが載っていた。
その地図によると指定された場所は、ギルドからはだいぶ離れた所だった。
(金貸し屋…んー、かなり怪しいけどギルドを通さなくていいのは良いな)
(それに必要なのは“肉体”だけか)
(まぁ多少の肉体労働が待ってるだけだろ、それで少しでも足しになれば万々歳だ)
(話だけでも聞いてみるか)
そんな思いを胸に依頼書を掲示板から剥がした。
父からの自分の事は自分でやると言う教えがソーンを動かした。
地図を片手に歩くソーン。
(どんどん暗がりの変な路地に連れて行かれるな…)
少し不穏な空気の漂う道。
地べたに座り込む者や、複数人で集まりタバコを吸っている者。
この街の闇の部分を見ている気になる。
路地の奥。
その雰囲気とは明らかに異質な空気を放つ建物があった。
ビカビカとネオンが光っている。
「ここ…か?」
その建物の前に屯していた男たちがこっちを見るなり寄ってきた。
「なんだぁ?お前は?」
線の細いモヒカンの男が言う。
「兄ちゃんみたいなやつが来るところじゃないぜ?」
硬そうなマスクをしている男が続く。
「ここってドンさんのお店であってますか?」
ブッ!!
「ギャヒハハァ!」
「ドンさんのお店だとよぉ」
「兄貴!こいつどうしましょうか!?」
奥に座ったまま微動だにしなかった男を《兄貴》と呼んだ。
「…好きにしろ」
特にこちらに目配る訳でもなくタバコを吸い続ける。
「だとよぉ!?やっちまうか!?」
「あぁそうだな!」
(ちょっと、どういう事!?輩過ぎるだろ!?)
ポケットからナイフを取り出すモヒカン男。
マスクの男は廃材から小さいハンマーを拾う。
「はぁー、なんでこうなるんだ…待ってくれ俺は別にドンさんに話を」
「死んで身ぐるみ剥がされてから喋りなぁーー!!」
正面から二人が襲ってくる。
(そこの兄貴さんこの二人を止めてくれよー)
突然でもソーンは冷静だった。
モヒカンの直線的な刺す動作。
マスクの大振りな振り下ろし。
「オラァーー!」
「フンッッッ!」
(仕方ない。直接頼んでみるか)
兄貴へ直接止めてくれるよう頼むため、二人の間を縫うように一歩を踏み出した。
「あの」
「ちょっとあの二人をどうにかしてくれませんか?」
!?
「……いねぇ!!」
「…今ここから消えたぞ!」
モヒカンとマスクはその一歩が余りにも当たり前で、綺麗な動きを目で追うことさえ出来なかった。
「フーーー」
タバコの煙が宙を舞った。
「あんた、何もんだ?」
「俺はこの街のギルドの冒険者です」
「ドンさんの依頼書を見てここに来ました」
「冒険者?」
ハンッ
と少し馬鹿にしたように反応する。
「テメェらの事しか考えない脳みそしかない冒険者様が、ドンさんに金でも借りようってか?」
タバコを消しこちらを見ながら立ち上がった。
「金を借りるっていうか、俺は依頼の話を聞きに」
シュッ!
見えない角度から拳が飛んできた。
「ほう、これを避けるか」
(ほう、じゃないよ!なんでどいつもこいつも手が先に出てくるんだ!)
(こんな事になるなら、来なきゃ良かった…)
グッと拳を握り戦闘態勢に入ろうとした時、怒号が耳をつんざいた。
「金ばっかり数えてないで仕事しろ!!」
「オイ!聞いてんのか!!」
「コラァァ!!」
ドガァン!!
「ングェッ!!」
音と共に扉から、一人のド派手な毛皮を身に纏った男が転がってきた。
「テメェ!!また逃げられてんだろが!!」
「こっちの身にもなれ!!」
そして中からその男を見下ろす一人のスーツ姿の女性。
(この人がドンさんか)
そう確信した。
「そのために君が居るんじゃ〜ん」
床に寝そべりながら言う。
「口答えするな!!」
「いいか?私はあくまでも、返さない奴の取り立て業務を行ってるだけ!」
「ガキの使いじゃないんだよ!!あ?!?」
「そんな怒らないで〜」
「せっかくの“べっぴん”が台無しだぜ〜」
軽口を叩く毛皮の男。
「そ、そそ、そ、そんな、お、お、お、おおオベッカ使ったって……!!」
一瞬で顔が真っ赤になる。
「はぁ、まぁべっぴんの私はこれ以上起こりませんけど」
「次からはしっかりしてくださいね」
!?
(今一体何が起きたんだ…!?)
(めちゃくちゃに怒ってたのに狼狽えたあと、敬語になり優しくなり、落ち着いた…)
(それにどころか少し照れてる!?)
「分かってるよ〜」
目線に気がついたのか毛皮の男が、サングラス越しにこっちを驚いたように見る。
「君は誰だ〜い?」
床に倒れた状態で聞いてくる男。
(あなたこそ何者なんだ!!)
「えっと、俺はそこのドンさんに用があって…」
扉の前で立つ女性に向かって言う。
「おい!誰がドンだってぇ!!?訂正しろ!!」
「今すぐだ!!!」
(ええええ、急にめっちゃ怒ってる……)
(沸点どこぉーー!?)
「ハハハ、相変わらず切れポイントが全然分からないな〜、リリちゃんは」
(リリちゃん?この人がドンさんじゃないのか?)
「ご、ごめんなさい。間違えてしまったみたいです」
「分かれば良いのです」
「こんな金の亡者と一緒にしないでくださいね」
「金の亡者って酷いじゃないか〜」
「僕はただ未来をお金で諦めて欲しくないだけさ」
「そんな事よりさっさと立って下さい」
「おっと、こりゃ失礼〜」
「客人を前に相応しくない態勢だったね」
パンッパンッ
ゆっくりと立ち上がり土ぼこりを払う。
倒れていた時は分からなかったが、大きな身体とそれに伴う威圧感があった。
オホンッ!
「では、改めて」
「僕こそがお金を信じお金に信じられている男。《ドワユ・ドン》〜です」
「ドンちゃんでいいぜ〜」
ひらりとお辞儀をする。
(この人がドワユ・ドンさん…)
「そしてこちらの”可憐な”女性は〜、僕が持つには相応しくない〜?」
「いや、僕とだからこそ相応しい《リリ=フリカ》ちゃ〜ん」
「リリちゃんだぜ〜」
「どど、ど、ど、どどうも。可憐なリリ=フリカです」
正しい姿勢45°できっちりお辞儀をする。
(また真っ赤に…!感情の起伏が凄いな)
「それで〜?黙ってるけどお前ら、大事なお客さんに何してた〜?」
かけていたサングラスを少し下にずらし、静かに覗き込む。
「…何も」
「ハハハ、何も…か〜」
「じゃあそこのナイフとハンマーは何だ〜??あ?」
威圧感が一層と増して来た。
ガタガタッ
「…あ……ご…」
さっきまでの威勢は消えて、今あるのは恐怖心のみ。
この二人には震えることしかできなかった。
「ドンさん。すいません」
「ちょっとこの依頼書についてちょっと伺いたくて来たんですけど」
モヒカンとマスク、ドワユ・ドンの間にソーンは入り込んだ。
(こいつ全くビビってない…)
兄貴と呼ばれた男はソーンと言う男に少し興味を持ち始めた。
「そうだったそうだった〜!」
パッと雰囲気がスイッチする。
「リリちゃんお茶出して上げて〜」
「はい」
「ささ〜、小汚いところですが中へどうぞ〜」
背中を押されながらネオンの中へ誘導された。
振り返ると二人の男は気が抜けたように座り込んでいた。
「チッ」
舌打ちが聞こえた。
多分あの男だろう。
その舌打ちの意味は、“今”はまだわからなった。




