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第13話『まばゆいぜぇー、俺の未来!!』

建物の中は、外の雰囲気とはまるで別世界だった。


赤いネオンの光とは違う、柔らかな金色の照明が店内を照らしている。


床には分厚い絨毯が敷かれ、足音はほとんど聞こえない。


壁には見たこともない高級そうな絵画が並び、奥には大きな革張りのソファが置かれていた。


「いやぁ〜、色々と失礼したね〜」

「そこにでも座って、めっちゃいい座り心地だぜ〜」

「失礼します」


ボワァン。


(なんだこれは…今までに味わったことがない感覚だ…)

(こんな物がこの世に存在していたなんて!世界は広すぎる!!)

(これはもう決まった…俺の未来の家に置く!!)


「ハハハ、どうだ〜?とろけるだろ?」

「はい、これ欲しいです」


(しまった…心の声が出てしまった)


「なんと素直な男だ〜!でもあげられないぜ〜」

「お茶です」


カチャ。


とても丁寧で綺麗な所作。

目の当たりにしたのにも関わらず、さっきの人と同一人物だとは想像がつかない。


「いただいたきます」


ゴク


(んん!この芳醇な香りと味わい…)


「美味しい…」

「そうだろ〜?僕は人をもてなす時は全力なんだ〜」

「金は使って使って、やっと力を発揮するじゃ〜ん」


カチャ。


ドンの前にもお茶が置かれる。


「ありがとう〜」


ングッ


「熱っつーー!!」


猫舌なのかそんなに熱くないお茶に悶絶する。


「リリちゃ〜ん、人が悪いぜ〜」

「俺にはぬるいお茶にしてっていつも言ってるじゃ〜ん」

「……」


謝ることも申し訳ない素振りもなく、ただ華麗に無視をするリリ。


ゴホンッ。


「それで〜、えーっと…」

「あ、ソーンです。ソーン=クリーガーです」

「ソーン君。君いくら欲しくてここへ来たんだ〜い?」


サングラスの奥から、心の奥深くを覗かれているような気分になる。


「ご、5000ジューロン…です」

「5000ジューロン!?」


リリを一瞥するドン。


(やっぱり、いきなりは高い金額だったかーー)


「いや、でも仲間と折半するんで半額でも稼げたらなって…」

「ハハハ〜、いや〜ソーン君」


軽やかな口調で笑う


「別に僕は値段の高さに驚いた訳じゃないんだ〜」


少しサングラスをズラシ目を見て言う。


「むしろ逆で安すぎないか〜い?」

「“君の未来”はその程度で買えるものなのか〜?」


(俺の未来…)


「それで〜」

「はい」

「君は何が出来る〜?」


手を口の前で組み威圧感が増した。


「え、っと何が…」


黒い依頼書を思い出した。


ーーー必要なのは肉体だけ


(肉体…でも父さんほど強くない…)

(王国のギルドで出会ったマルコさんより遅い…)

(母さんのように体を張って指揮を執るなんてことは出来ない…)

(俺が今までやって来た事…)


「人並み程度に体を動かす事は出来ます。重いものを持つとか…?」


これはソーンが自身を卑下する言葉ではなく、自己分析した結果の精一杯であった。


ドンはしばらく黙っていた。


「……」


サングラスの奥の視線が動く。


「ハハハ」


突然笑い出した。


「いいね〜」

「え?」

「僕はさ〜」

「自分を持ち金以上に大きく見せる奴が一番嫌いなんだ〜」

「は、はあ」

「だけど、君は自分をちゃんと分かっていそうだ〜」


指を立てる。


「そう言う人間にはね〜、同じ共通点があるんだ〜」

「共通点…?」



「そう。金をちゃんと使える」



この言葉には軽さがなく重く静かに響いた。


「だからさ〜、5000ジューロンは用意してもいい」


リリが黙ったまま金庫を開けお金の束を取り出す。


ガチャッ

ドサッ


「見ての通りだ〜、金は重い」


確かにテーブルの上に置かれたお金からは、聞いたことのない重い音がした。


「君にこれを背負う覚悟はあるか〜?」


紙幣の小さな山を指しドンが言う。


(背負う覚悟…)


「ドンさん」

「俺は一体どんな依頼をこなせばいいんですか?」

「その目〜いいよ〜。リリちゃ〜ん」

「はい」


声がかかると今度は一枚の紙を目の前に出してきた。


スッ


「こちらは誓約書です」

「誓約書?」

「僕は金貸し屋だよ〜、依頼は一つ」

「貸した金を返すってだけだ〜」

「貸した金を返すだけ…」


(借りたものは返す…当たり前だな)


「でもドンさん」

「ん〜?」

「俺金を借りに来たわけじゃないんです」


ドンの表情が硬くなる


「金を作りに来たんです」


少し冷ややかなムードが漂う。


「この依頼書には肉体があればいいとそう書いてありました」

「だから俺は依頼を受けて正当な報酬を貰いたい」

「ハハハ〜。正当な報酬で〜金を作りに〜?」

「はい」

「なくはないけどね〜」


リリをチラッと見る。


「でもね〜、うちにはリリちゃんが居るんだよ〜」


ドンは肩をすくめる。


静かにお茶を飲むリリ。


「私は可憐で強いので」


こっちは向かずに言葉を発する。


「そう…ですか…」


(やっぱり人知れず金を稼げる!なんていい話そうそうないよな〜)

(最初はルドルのお父さんに力を借りるか…そして地道に返していこう!)


「分かりま」

「でもさ〜」

「せっかく依頼書を見て来てくれたんだ〜」


顎をさすりながら考える。


「金は縁も結ぶ」

「つまりここで君と僕の縁を切ってしまうのは勿体ないんだよな〜」


パチンッ!


何かを思い出したように指を鳴らす。


「そうだ!リリちゃ〜ん。さっきの逃げた人いるじゃ〜ん?」

「逃げた人…」

「アァ!??テメェーが面倒くさがって逃がしただけだろうがぁ!!!」


(キレたーー!?)


「おい!!ドン!!コラァ!!なんとか言ってみろぉ!!」


リリに威圧されまくりながら、ドンがソーンの向かって身振り手振りをしてくる。


ーーーさっきの


ーーーリリちゃんを褒める一言を〜


ーーー言ってくれ〜


(さっきの褒める一言…可憐とかべっぴんとかそういう事…だよな)


こう言った言葉を言い慣れていないソーンは、どう褒めたらいいか今までの人生をかけて考えた。


「リ、リ、リリリリちゃ〜ん、めっちゃ強いね〜」


指先をリリに向けドンの喋り方を真似た。


「「……」」


一瞬この世の時間全てが止まった気がした。


「ドワァハハハハハハ!!」


ドンが腹を抱えて大笑いする。


「……」


リリの怒号はとまりキツイ眼差しをソーンへ向ける。


「それだけですか!?」


今にもまたキレそうなトーンで凄む。


ソーンの思考は既にパニック。


「え、えーっと、明日も〜きっと強いんだろうな〜…?」

「可愛いかって聞いたんだよぉ!!?おい!オラァ!」

「…」


その時、ソーンは閃いた


(そういう事か!)


「はい!お茶を置いてくれたときの所作に、無駄がなく美しいと思いましたぁ!」

「この洗練された動きは、一朝一夕では手にはいらないものだと思います!」

「常に相手を思いやれる気持ちを、お持ちなんだと思いましたぁ!」


(今度こそ正解か!?)


「「…」」


(この坊やよく見てるじゃ〜ん)


サングラスの奥で細く笑う


「そこまで聞いてねぇぞ!!」

「初めて会ったあなたに!」

「…何が分かるんですか」


頬を赤くし目を少しそらす。


「で、で、ででも…」

「無駄がなく美しい私は怒ってませんけど」


(あってたーー!セーーーフ!!)


「いや〜、ソーン君。君〜面白いねぇ〜」

「面白い…ですか?」


(俺は至って真面目に言っただけだけど…)


「部下を褒められて〜、今の僕は気分がいいよ〜」


リリは再びそっぽを向いてお茶を飲んでいた。


「りりちゃんも嬉しそうだしね〜」


(全然分からん…!)


「相手を思いやれる気持ちを持っている私は、別にいつも通りです」


「ほらね〜」


(どこがだよ!!)


「君に興味を持ったよ〜」


ドンッ!


お金が入ったバッグを机の上に置く。


「このお金は〜君と僕たちの縁の印だ〜」

「え?」

「誓約書は〜書かなくていいぜ〜」


サングラスをクイッと上げる。


「一つだけ約束だ〜」

「この金はしっかり使って、そして使ったらまたここに来てくれ〜」


(このお金を使ったらまたここに…)


「は、はい、もちろんです。仲間と一緒にまた」

「いやぁ〜、僕は君に渡すんだ〜。“他”はいらないよ〜」

「分かったか〜い?」

「…分かりました。ドンさん、ありがとうございます!」


深くお辞儀をしてお金の入ったバッグを受け取ろうとした。


グッ

バッグは全く動かない。


「あ、えっ、と」

「ドンさんじゃなくて〜、ドンちゃんでいいぜ〜」

「ドンちゃん……さん」

「ハハハ〜。まぁ今はそのくらいでもいいかぁ〜」


スッ

5000ジューロンと言う大金が入ったバッグは軽やかにソーンの胸へ。



「じゃあ、ソーン君〜。有意義に使ってくれ〜」


リリがサッと立ち上がり扉を開ける。


「また待ってるじゃ〜ん」


ドンは座ったまま手をヒラヒラと振る。


突然の事で理解が追いつかないソーン。


「……。あ、ありがとうございました。また改めてお礼に来ます!」


ドンとリリへお礼のお辞儀をして、扉を出た。


「よいマネーライフを」


これはリリがここを出ていくものに必ずかける言葉だった。


外に出ると兄貴たち一行は居なくなっていた。


(5000ジューロン…)


グッ


胸にあるこのとても重いバッグを握る。


(これで俺たちの力で拠点を作れる!)


(そして拠点でも居るだけ勇者ソーンになるぞ!!)


(まばゆいぜぇー、俺の未来!!)



ーーー

ーー


「良かったんですか?お金」


ソーンを見送ったリリがドンに聞いた。


「いいじゃ〜ん。5000ジューロンなんてはした金だしよ〜」


にこやかに言う。


「それに〜りりちゃんとも相性良さそうじゃ〜ん?」

「そうですか?」


引き出しから一冊の薄いノートを取り出す。


「これからが楽しみだよ…」


静かにその“ブラックリスト”に名前を書いた。


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