第10話『なんたよ、大袈裟だな』
勇者になる為の朝。
窓から差し込む太陽の光。
これからの輝かしい未来を照らしてくれるようなそんな気分で目が覚める。
鳥のさえずりが聞こえてくるような、静かなで落ち着いた空間でソーンはテキパキと身支度を済ませる。
玄関の所に置いておいた《勇者への推薦状》をしっかりとしまい扉を開けた。
「行ってきまーす」
誰もいない家に当然のように言う。
あの日以来、父マクラウルは
「ちょっくら遊びに行ってくるわ」
と言い残して帰っていない。
自分が冒険者になったことで一つ荷が降りたのか。
と想像をした。
王国のギルド向かう道。
この一歩一歩が自分の想像する最高の未来へと誘ってくれるそんな想いで歩いた。
(晴れて今日から冒険者改め、勇者ソーン!か)
ふふ。
(これで「あの冒険者は何もしない」、これだけじゃあちょっと弱い。)
(それよりも「ソーンは居るだけ勇者で底辺のなかでも底辺だ!!」って言われるようになるんだろうなぁ…)
(これなら確実に俺に向けた言葉で)
「そんな勇者はこのギルドには要りません!」
とか
「最初から分かってたけど、ホントに居るだけだな」
「その辺にでも突っ立ってれば?」
(とかになるんだ…)
くくく。
自然と口角が上がってしまう。
(これで俺はギルドから見放され、パーティーから見放され)
(父さんと母さんは多忙でなかなか帰っこない)
(つまり!)
(俺のまだ見ぬ奥さん!まだ見ぬ子供たち!)
(悠々自適な自給自足の最高ライフが手にはいる!!)
軽やかな足取りが逸る気持ちを体現していた。
七福亭のある街を越え、王国へ入る。
(今日も相変わらず人混みだ)
だけど心は晴れやかだった。
商店街のお店や楽しそうな大道芸など他には目もくれず、一直線で王国ギルドを目指した。
この前とは違うの門番が立っていた。
どうもー、と笑顔で通ろうとしたソーンだったが。
キンッ
武器や鎧の金属音が鳴る。
「待たれよ」
「本日は何用で?」
怪しいものを見るような目でソーンを見る。
(あ、今日は父さん居なかった…)
「あ、えーっと勇者になりに来ました」
「勇者に…なんだって?」
「勇者になりにです」
「…聞き間違いではないようだな」
「そんな事を言う奴は帰った帰った!ここは王国ギルドだぞ」
「遊びに付き合ってる暇はない」
(あれ?勇者ってここでなれるんじゃなかったっけ?)
(もしかしてそんな低級称号をこんなとこで取るな!って意味なのかな?)
(でも推薦状はここのギルド宛だしなぁ。一応聞いてみるか)
ガサゴソ
しまってある推薦状を取り出そうとするソーン。
キンッ
再び金属音が鳴る。
「おい、貴様!何をしようとしている!動くな!」
門番が戦闘態勢に入る。
「え、ちょっとこれを見てほしくて」
「何だその紙っきれは!」
「あの、推薦状です!」
危険物じゃないと門番に見えるように前に出す。
「推薦状?」
「何だそれは広げてみろ」
武器を構えたままの間合いで開いた。
そこにはデカデカと国璽が押されていた。
「国璽が押されている…見せてみろ!」
「どうぞ」
パシッ!
「んー、なになに」
ーーーーーー
ここに記す事は《ラヌシア=クリーガー》本人が書いたものである。
ソーン=クリーガーを勇者へと推薦する。
以上。
異論は認めない。
文句のある奴はいつでもかかってきなさい。
我が愛する息子の壁となるものは全て打ち砕く。
容赦はしない。
P.S
いつでも愛してる。
勇者になって私を助けに来てね♡
ーーーーーー
「……た、確かにこれはラヌシア様が書かれそうな事だ…」
(そう言えば中身は読んでなかったけど、何が書かれてるんだろう…)
ラヌシアが息子を溺愛しているということは、騎士団やギルドの中では有名な話であった。
「失礼しました、ソーン殿…」
「ラヌシア様のご子息とは…非礼をお許しください」
礼儀正しく頭を下げる。
「あ、いえ!非礼だなんて!頭を上げて下さい」
「むしろ俺の方こそこことは関係ないのに、突然の訪問失礼しました!」
「いえ、いつでも誰でもご訪問は歓迎です」
「冒険者の方たち以外でも、食堂などの利用は可能となっておりますので」
「そうだったんですね。知らなかった」
「ここのシェフの作るご飯は絶品です。機会があればご賞味下さい」
「ありがとうございます!」
「ではソーン殿お通りください」
スッと道をあける。
「これからのご活躍をお祈りしております」
「はい!これからが俺の道です!(最高の未来への!)」
意気揚々と門を抜けて行った。
「あの歳でもう勇者に…」
「末恐ろしい…」
ーーー
ーー
ー
いつ来ても広々として少し淋しさがある大理石の床に差し掛かった所で、ソーンは辺りを見渡す。
シーン…
(今日はこの前に比べてより静かだな)
屈強な冒険者の姿や、騎士団の隊員達の声、裏の修練場からの音もない。
(それより早く済ませてしまおう)
(ここで誰かに見られても何か恥ずかしいしな…)
受付には一人の女性が立っている。
これといって愛想を振りまくような感じではない。
淡々と業務をこなすような雰囲気を醸し出していた。
(街のギルドとは違って受付嬢さんも静かだな…)
「あの」
「こんにちは。ご依頼の受付でしょうか」
「こんにちは。いえ、今日はこれを提出しに」
手に持っていた推薦状を差し出す。
「拝見いたします」
ーーー
ーー
ー
「内容確認いたしました」
「騎士団総指揮ラヌシア=クリーガー様よりの推薦。ここに受諾いたします」
「ありがとうございます」
「……」
「……」
「え?終わり…?ですか?」
「はい。以上です。ただいまよりソーン=クリーガー様は勇者になられました」
(思った以上にあっさりだったなぁ…)
(まあ誰でも取れるものだしそんなにやることも無いか!)
「わ、分かりました」
それ以上は本当に何もなかった。
実感も湧かないまま受付嬢に会釈をし来た道を戻る。
(これで俺も勇者かぁ…!よし!)
人知れずソーンは勇者になった。
自分の最高の未来に向けて。
門番の無言の敬礼を背中に浴びながら門を出るとそこにはルドルの姿があった。
「ルドル!」
特に何も普段と変わらない様子で挨拶をした。
その声に反応し即座に目が合う。
「大丈夫か?ソーン」
以外にもルドルの第一声は心配の声だった。
もっと熱い一言がとんでくると思っていた。
「ん?大丈夫だよ。特に何も変わらないよ?」
「そうか…何も変わらない…それが一番なのかもしれないな!」
(俺は早くのんびりとした生活に変わりたいよ…)
「よし!今日はパーッとなんか楽しい事しようぜ!」
「お、おう」
(なんだ、喜んでくれてるんじゃないか)
何だかんだ言って、
ちょっとは反応があるのかと期待をしていた。
「よし!そうと決まれば我らが円卓の酒盛り場、至高の逸品…黄金に輝く麦の喉越しを求めて…七福亭だ!」
(これはもういつもの流れになりそうだな)
「行くか」
こうして二人は朝から七福亭で、一人は“祝い“、一人ら“思いやりと気晴らし”のつもりで向かう。
ギィー
チリンチリン♪
この音も毎日のように聴いてると心地よく響いてくる。
「いらっしゃーせー!!」
「「いらっしゃーせー!!」」
この時間からでもお店は賑やかで繁盛していることが分かる。
席につき適当に注文をし、静かに向かい合う。
神妙な顔つきで真っ直ぐこっちを見る。
「んまぁ、何だ。今日はあれだったな」
「いや、ホント驚いたよ!ってルドル見てたの?」
「ソーンの顔を見れば分かる」
(そんなに顔に出てたかなー?あっという間過ぎて何か変な顔してたかな…)
「でも今は少しずつ飲み込んできてるよ!」
「それでいいんだ」
「今まで信じてきた事が覆るってやっぱりキツイと思うんだ」
「ゆっくりでいい。俺たちはまだ始まったばかりだ。な?」
(覆る?いや、俺は誰でも取れるって言われてた勇者の称号を普通に取っただけだけどなぁ…?)
(まぁ実感はそこまでだけど)
「こんな時はまずは腹をみたそうぜ!」
「お待たせしましたぁ!」
ちょうど良く注文した品が出そろう。
二人の前に置かれたジョッキは
シュワシュワと音をたて、
今までキンキンに冷やされていた事がわかるくらいに水滴が付いていた。
同時にジョッキを持ち合わせた。
「「乾杯!」」
ガチンッ!
ングング。
ゴクゴク。
「ッッッカァーーッ!」
「ッッッハァーーッ!」
「この時間から飲む酒はまた一段と美味いなぁ!」
「”勇者”になってからの一杯はまた違う!」
「ホント格別に美味いな!」
口の周りに泡をつけて楽しむ。
「…え?」
「ん?」
「今、ソーンなんて言った?」
「格別に美味いな。って」
「いや、その前だよ!」
「勇者になってからの一」
「…なれたのか…?勇者に」
「そりゃそうだよ!そこに対してのパーッと、じゃなかったの?」
「なんだとーー!!!なんでもっと早く言わねーんだ!コノヤロウ!!」
ドンッ!
持っていたジョッキを興奮のあまり勢いよく置き身を乗り出す。
「え、だってただの勇者だよ?分かってると思った」
「ただの勇者ってなんだよ!」
「いや、ただの勇者でいいんだけど!すげーな!!おい!!どうやったんだよ!」
「ほら、書類だよ書類!母さんからの推薦状出しただけだよ」
「母さんの…推薦状…」
「向こうでもあっさり終わったよ」
(なんだそれ…ソーンの母さんって何者だよ!)
「もしかして、王国のギルドに登録とかになったのか…?」
「まさか!今日から勇者です。って言われただけで実感もまだあんまりだね」
「それに頼まれても行きたくないよ」
(よっしゃぁぁぁ!セーーーフ!!)
「この事他に誰かに話したか?」
「いや、別にそんな話すことじゃないでしょ?」
(いや!話したくなることだろ!勇者だぞ!!だが幸いこの賑やかさで他の人達には聞こえていない!)
「そ、そうか。ならこの事は俺たちセブンスヘブンの中だけに秘めておこうぜ!な!」
(他のギルドや騎士団に引っ張られる訳にはいかない…)
「元々言いふらすつもりなんてないからいいけど」
「今度は急にそんなに興奮してどうした?」
(興奮せずにいられるかよ!ここに勇者が居るんだぞ!しかも同じパーティーに!!)
「あ、いやぁ、本当にソーンとならどこまでもいける気がしてよ」
椅子に座り直す。
「なんだよ、大袈裟だな」
(薬草の件といい、母さんからの推薦状といい、勇者なってる状況…謎だらけの男だなソーンは…)
「んまぁいいか!そしたら今度は本当の乾杯だ!」
「さっきもそうじゃ」
「乾杯!!」
ソーンが言い終わる前に晴れやかな表情でジョッキを高く持ち上げた。
「乾杯」
ガチンッ!
さっきよりも熱くしっかりと乾杯をするルドル。
それに引っ張られるようにして続くソーン。
乾杯の音が賑やかな店内に同調するように響き渡っていった。




