#4「欺き欺かれて」【3】
「俺の研究室に通い詰めているそうじゃないか」
フレデリカは小さく息を飲み、レイの顔を直視した。その目からは警戒心がうっすらと見て取れる。フレデリカはそれ以上表情を変えることなく、無言で先を促した。レイは彼女の上着のボタンを一つ一つ外していく。
「意外だな。親衛隊長殿がまさか聖剣に興味をお持ちとは」
レイは不遜な口調のまま、へりくだった言い方をした。今に始まったことではない。リゼットやフレデリカと二人きりになるとレイはしばしばそうしていた。このような態度が相手の屈辱感と被虐心を煽ることを看破していたからだった。
フレデリカは渋々といった様子で口を開く。
「……誰がそんな話をしている?」
「さて。誰でしょうねぇ」
「貴様にわたしの動向を好んで告げ口する者が何人もいるとは思えんが」
「告げ口、ねぇ。何かやましいことでもおありですか?」
「まさか。貴様の存在以上にやましいものなどあるものか」
「しかし人々はわたくしを……、勇者を欲しているのです。わたくしは彼らの要望に応えて差し上げているだけですよ」
レイはせせら笑いながらフレデリカの太腿を指先でなぞり、褐色の足を包む白いブーツを両手で持ち上げた。上着のボタンは外し終え、スカートのベルトもすでに緩めた。ブーツの編み上げのリボンをほどき、うやうやしい手つきで片足ずつ脱がせていく。フレデリカが逃げ出さないように、己の体重をかけておくことは忘れなかった。
「それに……、ああ、親衛隊長殿はご存知ではないのですね。研究室ではわたくしは女性受けがいいのです。眼鏡をかけて常に白衣を着用しておりますから」
「意味がわからん。野蛮人が着替えたところで野蛮人に変わりあるまい」
「今度お見せいたしますよ」
言ってから、レイはブーツを放り投げた。二足のブーツはそれぞれ別の方向に飛んでいき、部屋の隅に転がった。フレデリカが抗議の声を上げる。レイはそれには耳を貸さず、薄手のストッキングを素手で破った。こうして衣服を乱しておけばフレデリカが逃げ出さないことをレイはすでに知っていた。
「……勤務中だと言っただろう」
「そうでしたね。失礼いたしました」
レイはフレデリカに覆い被さり、彼女を抱き寄せながら自らの腰を押しつけた。フレデリカの息が震える。レイはその目を覗き込み、あらん限りの嘲笑を込めてフレデリカに囁いた。
「衛兵たちを追い出さない方がよろしかったでしょうか?」
「何を言っている……」
「あのような女よりも親衛隊長殿の方が労いの品として歓迎されたでしょうね」
「レイ……」
フレデリカの表情が変わった。眉根から力が抜け、穏やかな顔つきになる。
「誰にも邪魔をさせないでほしい。せっかく二人きりになれたのだから」
恥じらいを秘めた優しげな声を聞いていると、これが彼女の本心なのだと錯覚しそうになる。しかしレイは知っていた。フレデリカには演技力がある。彼女はかつては捕虜やスパイの尋問を担当する部署におり、その功績が評価されてリゼット王女の親衛隊長に任命されたのだった。尋問官としての彼女の最大の武器となったのは、卓越した演技力だった。フレデリカはどのような人物でも完璧に演じることができた。ただしそれは敵対者を前にしたときのみだったという。
それを知っていてもなお、今の彼女こそが真実で、先ほどまでの彼女の姿は対外的な、仕事用の、虚構の人格だったのではないかと信じそうになる。レイは彼女のブラウスを力任せにはぎ取った。ボタンが弾け飛び、褐色の肌と豊かな胸元が露わになる。フレデリカはレイの名を呼ぶが、レイは答えなかった。レイの脳裏には先ほどのフレデリカの彼女らしからぬ言葉選び、告げ口、その一言が違和感となってこびりついていた。




