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#4「欺き欺かれて」【2】

 異様なまでの性欲の高ぶりを自覚したのは、聖剣に主として選ばれてしばらく経ってからのことだった。当時のレイは学者として王立魔導学院に勤務する傍ら、聖剣に関する研究室を立ち上げたばかりだった。この世界とそこに生きるすべての生命の繁栄のために未だ秘められたままの聖剣の力を活用する、そのための研究と称して資金と人員を集めたが、その真の目的は、聖剣の力を解放し世界とそこに生きるすべての生命を滅ぼすことだった。

 精神的な高揚感が原因なのだと最初は思った。しかしすぐにレイは気づいた。自分が世界とそこに生きるすべての生命に囚われていることに。自分の中の生命が、自分の密かな計画に反逆を開始したことに。レイの生物としての本能は、手当たり次第に子孫を残すことによって世界との間に絆を生み出し、彼の破滅への執念をへし折ろうとしていた。レイは愕然とした。誰一人として気づく者などいないはずの計画を、よりによって自分自身が破綻させようとしている。彼は自分の冷酷さに自信を持っていたが、それでもただ一つだけ、心から恐れたことがあった。もしも産まれてきた子供が、亡き妹メイシャに似ていたら。この世のすべての生命には等しく価値があると説く聖教会に見殺しにされたメイシャ。多くの命が救われた裏で人知れず死んでいったメイシャが顧みられることはなかった。メイシャが死んだとき、レイは世界のすべてを憎んだ。それ以上に妹を救えなかった自分自身を呪った。己の一挙手一投足を思い出しては後悔し、妹が死んだことに対して納得のいく理由がほしくて、あのとき何故あんな選択をしたのか、ひとつひとつ検証した。そしてレイは気づいた。この世のあらゆる選択は人知を越えた因果の結果だ。選択は環境の影響を受け、環境は太古から続くあらゆる因果によって形成される。己の選択が誤りだったというならば、──その結論が生涯覆ることはないだろうが──生まれてきたこと自体が誤り、いや、この世界に生命が誕生したこと自体が誤りだ。それがレイの結論だった。メイシャはレイを永遠に変えた。そんなメイシャにそっくりの娘が生まれてきたとして、果たして彼女の生きる世界を滅ぼすことができるのか。レイは即座に自身に対して断種処置をおこなった。手足は己の意図したとおりに動くからこそ価値がある。もしも手足が制御を失い、己に危害を加えたならば、そんなものは即座に切り捨て、ヴァルグリンデ産の義手に替えた方がいい。

 非合法の断種処置には高位の魔術師が必要だったが、エリオに声をかけたところ二つ返事が戻ってきた。勇者の立場を利用して、後腐れなく女遊びをしたい。そう告げたレイにエリオは妖艶な笑みで応えた。当時のエリオは十五歳にも満たない可憐な少年だったが、彼の態度はすべてを知り尽くした娼婦のようだった。エリオに興味を惹かれたレイは、謝礼と称して3Pに誘った。相手はフレデリカだった。エリオの様子はやはり年相応のものではなかった。彼はいったい何者だったのか、と時折思うことがある。しかしレイにとってエリオはもはや過去の存在だった。レイの目指す未来は一つ、深淵の虚無のみだ。そこには何者も存在しない。存在し得ないものについて懐かしむことはない。

 子孫を残す機能そのものを身体から消し去っても、底なしの性欲がレイから消えることはなかった。それは彼の中の生命が今もなお抵抗を続けていることを意味しているが、レイは人々を欺くためにその性欲を利用した。好色で女好きの勇者がまさか世界を滅ぼそうとしているとは思わないだろう。世界とそこに生きるすべての命が滅び去れば、どれほど素晴らしい女も共に消えてしまうのだから。レイはほくそ笑む。誰も俺の本心に気づかない。己の中の反乱分子を制圧したことを感じながら、レイはフレデリカの白い制服に手をかけた。

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