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#4「欺き欺かれて」【1】

「レイ殿、無事か!」

 フレデリカが衛兵を伴って寝室に踏み込んだとき、レイは刺客に覆い被さり、その首を絞めながら射精を終えたところだった。フレデリカは慌ててベッドに駆け寄ると、白目を剥いて痙攣している女からレイを引き離した。

「殺す必要はないだろう。尋問して情報を引き出す方が有用だ」

「殺すつもりなんてないさ。こうすると締まりが良くなるんたよ。女の反応も良かった」

 そこまで言うと、レイはフレデリカを振り返り、その顔を覗き込みながら声を潜めて付け加えた。

「おまえにも試してやろうか」

「あとにしてくれ。今は勤務中だ」

 フレデリカはレイから目を逸らした。視線がベッドの脇に落ち、レイのものだと一目でわかる衣服が散らばっているのが見えた。レイの忍び笑いが聞こえたが、フレデリカはそれを無視してズボンと下着を拾い上げ、持ち主の顔に投げつけた。

「服を着ろ。さっさとしまってくれ」

 それだけ言うと、フレデリカは持参した縄を使って刺客の手足を拘束し直し、部屋のカーテンを勢いよく開いた。レイが日光を嫌うことをフレデリカは知っていたが、そうでもして気力を萎えさせなければ、次に何を言い出すかわかったものではない。共に寝室に踏み込んだ別の部隊の衛兵は、レイのフレデリカに対する要求については、見て見ぬ振りをするだろう。救世主である勇者にはいかなる法も介入できない。それが現在の人間社会で広く知られる常識だったが、理由はそれだけではなかった。

 リゼット王女が生死不明のまま消息を絶って三年が過ぎても、王女の親衛隊が解散されることはなかった。しかしそれは法制度上の都合で存続しているだけに過ぎず、その任務は勇者レイの身辺警護へと変わっていた。人身御供に差し出した婚約者がいなくなれば代わりを用意しなければならない。その点、若い女性ばかりで構成されたリゼット王女の親衛隊は、勇者専属の慰安部隊として転用するには都合が良かった。

 リゼット王女は自殺した──そう囁く者は少なくない。王女は勇者との関係に疲れ、死をもって決別するために勝てるはずのない魔王に戦いを挑んだ、それほどまでに勇者レイは悪辣な男だったのだと彼らは密かに噂した。しかしそれに続く言葉は哀悼ではなく非難だった。リゼット王女は逃げた、無責任だ、彼女が責務を果たさなかったせいで別の娘が犠牲になる。そんな声を耳にするたびにフレデリカは胸の奥底に怒りが渦巻くのを感じた。しかし彼女にはどうすることもできなかった。人が心に思うことを検閲することは不可能だ。それに聖剣を扱えるのは勇者レイただ一人。魔王軍との戦いにおいては聖剣が唯一の効果的な武器であり、故にその戦力を勇者に依存する以上、彼がどれほど厄介な問題を抱えていたとしても、人類社会はその男に隷従せざるを得なくなる。フレデリカにできることは、リゼット王女の代わりにレイに身体を差し出すことだけ。そして彼女は、心理的には相手と対等であり続けなければならない、そう己に課していた。

 窓辺から振り返ると、刺客の女を衛兵に引き渡すレイの様子が見えた。

「わざわざご苦労だったな。この女は好きにしていいぞ。俺からの労いの品だと思ってくれ」

「レイ殿、勝手な真似をしてもらっては困る」

 フレデリカはつかつかとベッドに歩み寄る。

「その女は犯罪者だ。法に則って取り調べをおこなわねば」

「フレデリカ、この女はエルフだ。エルフに人間の法が適用されるのか?」

「いや。エルフは法で裁けない。しかしこの女の持っている情報は……」

「俺にはおまえの持っている情報の方が重要なんだがな」

 レイは小声でそう言うと、フレデリカをベッドに押し倒した。フレデリカは声を発する代わりにぐるりと視線を巡らせた。衛兵たちは女を抱えてそそくさと部屋を出た。さっき、この部屋に入るまでは、王女の親衛隊長に敬意を払っていた彼らだったが、誰一人としてフレデリカと目を合わせずに去っていった。

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