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第一章 ご眷属の使者

さて!オオカミたちが登場します!基本的に、オオカミたちの毛色は、シーボルトの残した記録、全国各地に伝わる民間伝承、各地で保存されている毛皮や剥製、神社等で保存されている絵図に描かれたオオカミ、さらにはアメリカなどに生息する同種「ハイイロオオカミ」の毛色も参考にしました。

 ザッ、ザッ・・・。夏の山中にはわたしの足音だけが響く。

 わたしは御先愛美おおさきあいみ。福島県三春町に住む十四歳。

 話し方からわかると思うけど女子。おいの神社の巫女をやってるんだ。

 今日は土曜日、週に一度の「お炊き上げ」の日だ。

 「お炊き上げ」というのは、週に一度行う神事で、赤飯をたいてオオカミにお供えする。

 しばらく歩くと、木がない広場のようになった場所に出た。真ん中に石造りの祠があって、その前には、とぼけたような顔をしたヤマイヌ像が祠を守るかのように立っている。

 祠の前にお赤飯の入ったおひつを置くと、わたしは口を天に向けた。息を吸い込むように発声する。

「アオー、オオオン、オォォー」

 わたしの吠え声が山にこだまして消えていく。

 それとほぼ同時にもう一つの声がわき上がった。

「ウォォォン、ウォーン、アオーン」    

 カサカサ、カサカサ、ポキッ。

 森の奥から、何かの足音が聞こえた。木立の間から四頭の動物が出てくる。

 先頭の2頭をのぞいて、みんな灰色の毛をしていた。

 わたしを見ると、嬉しそうにしっぽを振る。

 この子たちはニホンオオカミ、生態系の頂点に君臨する動物。

 オオカミは犬に似てるけど、少し違う。大きさは最近人気の紀州犬や四国犬と変わらないくらいだ。

 でも、少しばかり胴長で、肺の奥ゆきが大きい。鼻筋から額にかけてのラインもほぼまっすぐで、犬のような段はない。

 犬のようにワンワンとほえないことも特徴だ。

 一番前で堂々としている黒いのがこの群れのリーダーの山津見。額に大きな傷跡がある。

 その次に控えている白くて四国犬くらいの大きさのが山津見の奥さんの吾妻。

 さらにその次の濃いグレーの毛色をしているのが山津見と吾妻の娘、春玲しゅんれい

 そのとなりにいるのがほかの群れからはいってきたオスの布引ぬのびきだ。

 ほかには、山津見の群れから独立してはいるけど、時々入ってくる山津見の娘、天玲てんれいとその夫の片曽根かたそね、娘の安達太良あだたらと息子の磐梯ばんだいがいる。

「山津見!!今日もお赤飯持ってきたよ!」

 そう言うと、山津見たちがかけよってきた。

 オオカミたちの中には上下関係があって、いつもそれに従って動いている。

 最初にお赤飯に口をつけるのが、リーダーの山津見だ。

 その次が二番目の吾妻。三番目の春玲、四番目の布引の順番で口をつける。

 みんなおいしそうにお赤飯を食べている。健康状態はよさそうだ。

《いつもありがとうな、愛美。》

 ふと頭の中に感情が伝わってきた。顔を上げると、山津見がこっちを見ている。

 そう、わたしは巫女の中でも特別な存在、動物と話せる「ご眷属の使者」なんだ。

 「ご眷属の使者」は、狼神社の巫女の中で、動物と会話ができるものが選ばれる。役目は、オオカミの「声」を聞き、それを里の人に伝えることだ。

 聞くといっても、耳に聞こえてくるわけではない。頭の中に直接、響いてくるんだ。

 オオカミたちは、神のお使いとされている。そのオオカミたちの言葉は、神の言葉であるといわれる。

「今日は片曽根たちがいないね。どうしてるの?」

《あいつらなら、どっかにでかけてるよ。》

 山津見が答えた。ほかのオオカミたちは、後ろでお赤飯を食べている。

 わたしが頭をなでると、山津見はきもちよさそうに目を細めた。

 オオカミたちが起き上がって、ブルブルっとみぶるいした。

《そろそろ帰るな。今日もありがとう。》

 帰るとき、山津見がふりむいて言った。

《ああ、言い忘れたけど、ミナグロが出た。》

 へっ?ミナグロって、なに?

御先愛美のオオカミ講座 第一限目「オオカミとは?」

 こんにちは!この物語の主人公で狼神社の「ご眷属の使者」御先愛美です!本日は、この「オオカミ講座」を受けていただき、ありがとうございます!

 本日は、基本となる「そもそもオオカミは何なのか?」ということについて話そうと思います。

 みなさんが普通「オオカミ」と呼ぶものは、世界中に広く分布している「ハイイロオオカミ」のことです。山津見たちニホンオオカミもその中の一亜種にあたります。

 ハイイロオオカミ「カニス・ルプス」という種は、「オッキデンタリス|(カナダ周辺の亜種)」や「コムニス|(ロシアのウラル山脈周辺の亜種)」などのいくつもの亜種に分かれています。そのうち、日本に生息するのは、本州の比較的小さい「ホドフィラクス(ニホンオオカミ)」と北海道の比較的大きい「ハッタイ(エゾオオカミ)」です。

 この二つのオオカミは、地球が氷河期で日本と大陸が陸続きの時、二ホンオオカミの原型が今の九州や沖縄など南方から、エゾオオカミの原型にあたる大型のものが北海道や樺太など北方からやってきました。

 この二つのオオカミは、お互いに南下と北上を続け、お互いに戦いながらも混血していきます。そして、今のニホンオオカミに近い小型タイプが南部に、エゾオオカミに近い大型タイプが北部に・・・というふうにすみわけができました。

 そして、氷河期が終わると同時に北海道や樺太を除く日本は暖かくなり、対応できなかった大型タイプのオオカミは、北海道以北のものを除いて絶滅します。その代わりに、小型タイプが南下してきて、今の「ニホンオオカミが本州以南、エゾオオカミが北海道」という勢力図ができました。

 さて、オオカミは、農業の神、盗難よけ、火伏の神としても信仰されました。頭蓋骨を神棚に飾ったり、牙や下顎骨の一部を根付にして持ち歩いたりもしたようです。

 では、みなさんにクエスチョンです。

 どうして、オオカミはこのように日本で信仰されるのでしょうか?

①農作物を荒らすイノシシやシカを食べてくれるから。

②怖いから

③カッコいいから

 これは宿題です。次の投稿の時に答えを発表します。

 それでは皆さん、また次回お会いしましょう!

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