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魔王が逃げて、何が悪い?  作者: 冬野ゆすら
第三章
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3-18 やらないと断言するだけの確証がないんだ

GWですねぇ…この話の舞台、ハロウィンなんですよ……

「傭兵団”仰星”の新人か。ああ、確かに人を回してくれとは頼んであったから、歓迎はしたいんだが……」

 改めて、二人は移動遊園地の詰め所を訪れた。先だってとは全く違う対応ではあったが、反応はあまり芳しくない。それもそうだろうなと、イーリスは内心で納得していた。何しろこの詰め所、男だらけである。しかも見る限り、腕自慢が多いようだ。彼らから見れば、新人が生意気にも女連れで入って来た、というところだろう。実は彼女の方が世慣れていて、面倒事を避けて事を進める腕があるのだが、そんなことはたぶん、通じない。


「あら、ご不満? ここで相手にしてもらえなかったから、仕方なく入団試験を受けてきたのだけれど」

「いや、姐さんに不満はないってーか、それが問題っつうか」

 身内の欲目と自覚はあるが、イーリスから見ても文句なしの美女である。まあ妖魔という存在に生まれついた時点で、何故かある程度の美貌が約束されるので種族的な特徴とも言えて、本人にはあまり自覚がない。今、周囲から羨望やら色欲やらの視線が交錯しまくっているのだが、まったく気づく気配がないのである。纏め役が悩んでいる理由は、そこだろう。たぶん、自分一人だったからさほどは問題にならないはずだとシトリを諭す。


「いやあんたも大概だぜおい!?」

「そうか? 別に怪我というほどものはないし、一時もすれば目が覚めると思うが」

 とりあえず腕試しだと挑んで来た面々を屍の山にしたイーリスは、涼しい顔である。

 よくよく見ると、屍の中には程度があることに気づくだろう。純粋な力比べを挑んで来た者にはまともに、シトリを目当てに挑んで来た者にはそれなりに対処したためである。襲われたところで人間なんぞにどうにかされることはないと分かっていたが、手加減する気にはならなかったのだ。いや、夜警の人手がなくなっても不味いだろうから、ぎりぎりの状態を見極めてはいるのだが。


「で……まだやるのか?」

 そろそろ勘弁してくれという思いを隠そうともせず、おざなりに刀を振り回す。ときおりビュンと風を切る音がするほどの勢いで、うわぁ、とか。ずざざっ。とか、何やら聞こえるのだが、配慮する気が失せていた。一応は鞘のままであり、鯉口(こいぐち)も切っていないので、血が出るような事態にはしていない。


「……シラヌイさんよ。あんた、本当に人間か?」

「違ったか?」

 声を潜めて聞いてくる纏め役に、イーリスは努めて軽く、しかし声は潜めて答えた。

 傭兵団が用意してくれた身分証には、人間として記されているし、出身国も”ノルトインゼル”――エレーミアの隣国となっている。エレーミアに問い合わせようにもそこはやはりお役所仕事なので、返事が来るのはいつの日やらであるし、そこまでの暇人ではないだろう。ついでに言うなら術士やら魔法師やらに調べられても、今は全く問題がない。昔取った杵柄とはよく言ったもので、妖力の生成そのものを完全に押さえることが出来るのだ。だからそもそも術が発動しないし、更には武器にも仕掛けがある。


「魔法武具の使い手ねぇ……」

 同席した警備隊長の視線は、イーリスの手にある武器に注がれている。”仰星”からの貸し出し品だが、周囲の魔素を半自動で風に変換するという微妙な能力がついた代物だ。半自動というのが『使い手がその(つか)を握っているとき』なものだから、つまりは常時発動するのである。強さも調整出来ないし、自力で風を起こせるわけでもないし、しかし魔法武具である以上は貴重品には違いない。大小一組の刀で使い手もおらず、死蔵されていたそれが押しつけられたのだ。壊れたら買い取りと言われているが、事が落ち着いたら買い取る気満々のイーリスである。触れてみて分かったのだが、魔素どころか魔力妖力なんでもござれの悪食刀なのだ。今現在貸し出し中なのは、懐具合の問題であった。どうにかして自分の預金を引き出したいところである。


「まあ、人手は欲しいな」

「腕も確かだし、いいんじゃないか?」

 二人でうんうんと頷き合った後、纏め役が溜息をつきつつ、イーリスに条件をつけた。


「頼むからよ、兄さん。ぜったいあんた、姐さんから離れないでくれよ? ホントに頼むぞ?」

「あら、そんなの効率悪いわ?」

「いや、離れたほうが確実に効率悪いから。…主に、警備の」

 自覚なさすぎだとイーリスは苦笑した。警備隊長殿が何か言いたげだったが、とりあえず自分は、武器にする程度には自覚がある。彼女よりはマシだと思うので、素知らぬふりを貫いた。

 二人を案内することになったのは、纏め役殿だった。


「オレが子供の頃はなぁ、ここらは小さな村だったのさ」

 知ってるわ、とシトリは内心で答えた。初耳だと、イーリスは先を促す。


「街道が出来て、飛行艇が飛ぶようになってな。飛行場から一番近い村だ、さあやった、人が来るぞってんで喜んでたら、なんのこたぁねえ、みんな向こうの街まで行っちまうんだ」

「向こう?」

「トランジットだよ。街道が通ってるからな、あっちは」

 もちろんこの地も、街道は通っている。というより、南方への街道沿いの村というほうが正しいのだろう。対してトランジットは、隣国ノルトインゼルへの街道と、西方への街道が交差することから発展した街だ。西方は、香辛料街道と呼ばれる交易路である。飛行場からそこまで馬車でも半日、となればまあ、素通りされるのも無理はないだろう。

 多少は宿としての需要があったが、それだけではやっていけない。そこで村人たちは知恵を巡らせて、今のような催事を呼び込むことにした。結果、村の面影はなくなったもののしっかりと発展し、村人たちは生活に困ることもなくなったということだった。


「……街で開催したほうが、人出はあるでしょう?」

「人出はな。この規模の移動遊園地を長期間、開く余地があるのかって話だよ」

 シトリの疑問にはイーリスが答えた。交易路が交差する地であるなら、土地はあるだろう。市やちょっとした催しならば開催出来るし、そうやって発展してきた街のはずだ。だが、それはあくまで交易のためのものなのだ。移動遊園地、しかもこの規模のものであれば数ヶ月、長ければ半年は開催される。それだけの間、居続けるとなると隊商が割りを食い、街から離れることになる。それは本末転倒なのだ。


「これも春まではいてくれる予定なんだが、このままだと客の方が寄りつかなくなりそうでな。自警団じゃ追いつかないから街から警備隊まで借りたってのに、赤字になっちまう。あれもなあ」

 纏め役殿が示したのは、積まれたガラクタ――壊れた角灯の山である。


「何年か前にな、大量に買い込んだんだよ。ほら、エレーミアの術具って数が出回らないだろ。多少は壊れても数があれば、ってことでけっこう無理したのに、このザマよ」

 その言に、二人のエレーミア出身者は奇妙な顔をした。

 エレーミア製の術具は丈夫であるとして有名だ。浮かれ者どもが暴れるこの街ならではの選択肢で、そこまでは彼らも納得していた。しかし、蓋を開けてみればの現状で、買い集めたものは半数が壊れてしまったのだ。売り手が正規の印を持っていなかったのだと後から聞いて、つるし上げもあったらしいが後の祭りである。

 彼らが昨日訪れたときにすげなく追い出したのは、それを知った押し売りが多数発生していて、鬱陶しくなっていたからだと詫びられたが、まあそんなところへ身分証もなしに飛び込めば当たり前の対応なので、それについては逆に同情したイーリスである。


「それはそうとして、この街の結界――広域術陣は、誰が張ったんだ?」

「ん? なんだ、それ?」

「え」

 気づいているよなとシトリを見たが、そちらの反応も曖昧であった。”興図”を興したときの角灯の配置で気づいたのだが、どうやら知られていないらしい。

 確認のために、とイーリスは街図を取り出した。覚えている限りの配置を書き出し、線をつなぐ。幾つもの円が重なるそれは、術陣を知る者でなければ描けないだろう。


「……貴方が使う術陣に似てるわ」

「ああ、あれは”麻の葉”だ。用途が違うんだ。”七宝”は確か、円満とか調和の意味がある。まあ、意味だけなんだが、相乗効果を狙うならいい選択だ」

 地図の上には、広場を中心とした七宝模様が連なっていた。術陣としてはそれだけでも十分に機能するが、範囲を広げればそれだけ効果が弱くなる。効果を薄く引き延ばすようなものだからだ。効果を保ったままで広げるならば、起点を重ねて幾つも繋げる必要がある。そこにはまさに、三列三行で連なる円が描かれていた。

 ちなみに”麻の葉”はその名の通り、植物の葉である。森の中だからと言うそれだけの理由で選んだもの、らしい。


「マジかよ、これ。知らねぇぞそんな話!?」

「まあ、やろうと思えば秘密裏に出来なくはないんだが……そもそも、配置がそうなってるし」

 たぶん、とイーリスは読みを告げた。恐らくはこの地が行く末を決めたそのときに、何らかの伝手で術陣を描けるように設計されたのだろう。後から街にそれを組み込むのは困難極まりないし、警備隊にも知らせないなんて真似は不可能だ。それに、術具と言っても劣化する。ひとまずは簡易な術具なりで間に合わせておいて、後から載せ替えようとか、そういう心づもりだったのではあるまいか。

 それで辻褄は合うけれど、と三者は三様に考え込んだ。


(まさかあの嬢ちゃんか……?)

 纏め役殿は、流石に街の情勢や出入りする人間を把握している。その中に、言われてみればという程度の心当たりを思い出した。


(放置していいものか……?)

 術陣を制御出来るイーリスは、この状況で見ないふりをする結果を秤にかけた。

 二人を尻目に、シトリは独り、角灯を調べ始めて――やがて、呟いた。


「――習作?」

 二人の視線を受けて、シトリは幾つかの角灯と、そこに描かれた紋様を示す。紋様そのものが焦げているものは、さほど損傷していない。たぶん、直せばまた使えるだろう。だがそうでないものは、かなり酷い状態だ。紋様が千切れているものもあれば、紋様は無事なのに本体が壊れていたり、とても直せるとは思えない。またそういうものに限って、紋様の線が太かったり細かったりと、お世辞にも綺麗とは言えないガタつきだ。


「エレーミアの工房って、人間の弟子を受け入れるじゃない。その子たちの作品じゃないかしら?」

「――いたな、そんな奴らも」

 エレーミアは妖魔の国だが、人間を受け入れないわけではない。表立って歓迎しているわけではなく、来る者拒みきれず、というところではあるが、受け入れている。術具やそのほかの製品を作る工房への押しかけ弟子が中心だ。

 むろん、妖魔が作る術具を完璧に再現するなど不可能な話である。だが、そこに掘られた意匠なり術陣なりは、理解出来て描くことが出来れば利用出来る。そしてそれは、人間にとって利点なのだ。妖魔が作ったものは扱えなくても、人間が作ったものであれば利用出来るのだから。


「……あのよ? 習作って、そんなもんが世に出回るのか?」

「いいや?」

「絶対に出さないわね」

 纏め役殿が奇妙な顔をしたが、二人は断言した。

 それは、評判に関わるから…などというものではない。いや、ある意味ではそれも関わってくるけれど、術具が売れなくなったからと言って、妖魔たちが生活に困るわけではない。そもそも、心の赴くままに好き勝手に作るものだから、どれもこれもが有り得ない金額の一点ものという夢の産物なのだ、金額などどうでもいい。問題は、それで国の評判が落ちること。数百年を掛けて、ようやく世界中に”怒らせなければ無害な国”という評価を広めたのである。いい加減な代物を世に解き放つ国などと言われたら、それが無駄になる。全世界を相手にしたところで勝つことがわかりきっているとは言え、わざわざ敵を作る気はない。


「つまり?」

「簡単な話だよ。壊れた角灯はエレーミアに行き着くんだ。要は、そういうことさ」

「おいおい、物騒だな。エレーミアに喧嘩売ろうって国なんか、一つっきゃねぇぞ?」

「そういうことだろうさ」

「いやいやあまりに短絡的だぞそれ!?」

「やらないと断言するだけの確証がないんだ」

 乾いた笑いで答えるイーリスに、否定出来ねえと纏め役殿は空を仰いだ。

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