3-16 相変わらずすごいわね、移動遊園地って。
すすまないったらすすまない((T_T))
シトリが気づいたときには、夜が明けかけていた。周りに大勢の人間がいて、大半は眠っている――そのことから、どうやら野営地らしいと見当がつく。だが本来、野営地は管理するものがいて申請した上で利用料を払わなければならないはずで、と困惑する。自分たちはしっかりと毛布を身体に掛けているし(必要はないのだが)、焚き火だったのだろうそれは、熾火状態でほんのり温かい(これも別に必要性はない)。更に言うなら、イーリスがいなかった。隣にもう一人分の毛布もあるし、たぶん一緒に眠っていたのだろうと思う反面、そもそもここはどこなのか疑問である。覚えている限りは、丘の上で街を見下ろしていたはずだ。
「ああ、あれは丘の市だからな。夜明けとともに消えるから、それを見せようと思ったんだが……お前、あっさり寝たな」
「なによ、それ。そんな面白いところが見られるなら起きてたわよ……」
一生の不覚とばかりに、シトリは頭を抱えた。また来年があるさとイーリスは笑うが、そこに首尾良く行き会える保証はないことは秘密である。一応、彼らが好む道筋やおやつは承知しているので、呼び出せるとは思うけれど。
そして今、彼らがいるのは、間違いなく野営地であった。丘が消えた後に現れたそこへ、寝入ったシトリを抱き抱えて手続きをすませ、仮眠まで取ったのである。
「悪い、勝手に財布を使ったぞ」
「別に、かまわないけど。…戴きます」
とりあえず、目の前に差し出されたスープが冷めると一口、飲んでみる。裏漉し野菜の熱々ポタージュは甘く、肌寒い朝にはぴったりだった。
「美味しいわね」
「だと思った。この早朝から、人が並んでたからな」
そう答えると、シトリは変な顔をした。もちろん、その列に並んだのかと、そういう意味で。それはもちろん、とイーリスは笑う。さほど並んでいなかったのと、捌けるのも速かったので大した時間は並んでいないというがしかし。自分たちは妖魔であって、食事などはっきり言って趣味の世界だ。なぜわざわざ並んでまで買ってきたのか。
「美味そうだったから?」
「……そうね。そういう男だったわね」
そう言えばそもそも料理が好きだった。作るのはあくまで家庭料理だと嘯くが、その品数はけっこうなものだ。味覚もしっかりしているし、と更に一口、スープをすすった。…そこへ、ばりべり、と音が立つ。そこには自分の分を飲み終えたらしきイーリスが、器を囓っていた。堅そうではあるが、とシトリも試しに囓ってみるが、味はしなかった。
「……なに、これ?」
「食べられる器だそうだ。砕いたものを水にふやかせば、乾パンの代わりになるそうだが」
「したくないわね」
味がないものを食べ物とは認めない。不味くとも、味があるからこその食べ物であるとシトリは理解している。人間と違い、糧食を必要としない妖魔の身として、そこだけは譲れなかった。
ちなみに人間たちの間でも、そういう意味では浸透していない。そもそも、器を食べなければならないほど切羽詰まった状況でスープなど作っている余裕があるものかという話である。単純に、軽くて壊れにくく、持ち運びが楽であり、例え捨てたところで何れはなくなるものでゴミにならないということから旅人の間で少し、広まっているだけなのだ。このスープの店でも、祭に来る人々なら面白がるだろうという読みで、希望者にのみ追加料金で出していたのである。
二人して囓りきって食べてしまってから、さてどうするかと周囲を眺めた。
「流石に着替えないと、よねぇ」
黒いドレスに三角帽子とごくシンプルな魔女は溜息をつく。黒い外套に燕尾服の吸血鬼と並んでいると、そこそこ目立つ。それでなくても目立つ二人ではあるが、ハロウィンの夜が明けてしまった今、その姿で彷徨くというのは、考え物である。見蕩れてくれる視線は心地よいが、時折顔を顰められたり、あからさまに嘲笑されたりするのは面白くない。実際今もそんな感じで、居心地はあまりよろしくないのだ。
「向こう側が市になってるそうだ。行くか?」
「ええ、行くわ」
気負い無く差し出された手を取って、シトリは立ち上がる。軽く砂を払っていると、毛布はイーリスが纏めて担いだ。かわりとでも言うつもりか、財布が戻ってきて苦笑する。この辺りは本当に律儀であると。
毛布を返して辺りの情勢を確認して、ついでに遊園地までの距離――徒歩でも数時間で着く辺りだが、馬車もあるらしいと教えられて、シトリが迷わず乗車券を買っていた。別に歩いてもいいけれど、その傍らを馬車に追い抜かれていくのはあまり楽しくない、そんな心持ちである。それに、出来るだけ目立たないほうがいい。一応自分たちは、追われている身である。どうせ移動遊園地を目指すことはばれているだろうが、ここまで来られるような”興図”の使い手はいないし、そうなるとどうやっても三日はかかる。気配を断って人に交じってしまえば、そうそう簡単には見つからない。であるなら馬車に乗ってしまって、そこから気配を断つのが確実であると、イーリスは諭された。
反論できなかったイーリスは、楽しげに衣装を選ぶシトリを制した。遊園地を楽しむなら、それこそ動きやすい服装にしなければならない。ドレスを着たシトリはもちろん美しいが、何処の貴族の令嬢かと噂になると何かと面倒ごとが涌く。だからあくまで街人風に、それでいて気品を隠さず――と選びに選び、音を上げさせた。やり過ぎたことに気づいた彼だったが、その中からシトリの好みに合わせたものを買い上げて、自分はあっさりとした一式で誤魔化した。実はそれが着せ替え人形にされることを回避する彼の策だとシトリが気づくのは、このずっと後である。
そしてギリギリまで時間を費やして、二人は予定の馬車に乗った。たぶん、追っ手が追いついたとしても、彼らを見つけるのは困難だっただろう。衣服は言うに及ばず、妖力の一切を覆い隠して術も使わず、髪型も変えた。イーリスはカツラを使ったし、シトリは迷わず、ばっさりと切ってしまった。曰く「別に魔法使いじゃないもの、切っても何の問題もないわよ?」である。そこまでして子供のようにはしゃぐだけの男女二人など、どこにでもいるのだから。もちろん、そこまでも計算の内である……はずだ、一応。たぶん。おそらくは。
「相変わらずすごいわね、移動遊園地って」
「ああ、本当にな」
何しろ全てがからくり仕立てで、動力に魔法を使っているだけなのである。回転木馬は上下に動くし、時々撥ねる。ティーカップはくるくる回るし、回せるし(回されすぎてイーリスが酔い掛けたのは秘密である)、海賊船は振り子のように大きく揺れた。笑ったのは空飛ぶ絨毯で、何やら全然飛ばなかったが、本来はぐるりと一週、移動遊園地を上から見せてくれるらしい。是非にもとイーリスはそれを切望したのだが、動力が壊れてしまったとかで修理中であった。手を出そうとした彼を無理矢理引きずり出したせいですっかり疲れたシトリだったが、屋台の果実酒が美味しかったので、機嫌は悪くない。どれくらいかというと、「魔女だっ」と反応する子供たちや、「悪戯か祝福か」と仕掛けてくる通りすがりの人々に、手持ちの菓子を差し出してしまうくらいである。
ちなみにどうして魔女なのかというと、遊園地の中がまだまだハロウィン仕様であったがために、安物ではあったが三角帽子を購入したためだ。当然のように、イーリスも付き合わされているし、菓子も配っている。もちろん、当人たちも時折仕掛けて戦利品を獲ているが、配る量が圧倒的に多くて、幾度買い足したか分かっていない。そう、遊園地の中のはずなのに、全く関係の無い菓子が大量に売られているのである。一口で食べられるパイやクッキー、ちょっと上等なところだとチョコレートに砂糖人形、飴細工。酒の入った砂糖菓子は子供たちには渡さないとだけ決めて、イーリスがその中から選び抜いているので、どれも美味いのである。
「相変わらずなのね」
「……お褒めにあずかりまして、光栄至極?」
乗り切れないのか、ちょっとだけ照れたような応えにシトリは笑う。イーリスの不思議なところは、その地でいちばん美味なものを嗅ぎ分けるという性質だ。飴細工や綿菓子でも、実は腕によって味の差が出るし、見た目の繊細さは格段に変わる。彼を連れ歩いて祭を楽しみたいという裏には、そんな理由があったりもするが、気づいているだろうか。
全ての乗り物を幾度も楽しんだ二人は、いつしかベンチに座り、人々の流れを見守りながら酒を酌み交わしていた。そうなると流石に仕掛けてくる者はいないから、ちょっとした休憩である。彼らを注視する者がいれば、とんでもない量の酒を飲んでいるのだと気づけるが、何しろ一本を飲み干しては移動して、また別の酒を求めてと、延々それを繰り返すので、なかなか気づかれない。もちろん、それを狙って移動しているのだ。下手に一つの店に長居すれば、目立ってしまうと。
「呑まない手はないわよね」
「呑まずにいられるかという話でもあってな」
移動するたびにそんな会話が繰り返される辺り、けっこう酔っているのだが、どちらも気にしない。いちおう、相手が潰れそうになるか自分がまずいと思えば、打つ手を持っている。打たなくても頭痛に襲われる程度で死にもしないから、なんの心配もしていないのである。
「でも、危ない騒ぎは御免だわ」
目の前で燃え上がった灯籠を、シトリは一瞥することもなく潰し消した。驚いたような店主ににっこりと笑って、内緒だよと合図をする。
「流石にそのやりようは噂になるぞ」
向かう方で弾け飛んだ角灯を、イーリスが目を向けないままで絡め取って奇妙な物体を仕立て上げた。ざわざわしているが、確かめに行ったりはしない。
「酔ってるわね」
「お前こそ」
互いのやり口は気配で分かる。周囲がざわついているが、二人は何ら気に掛けることなく、見慣れぬ酒を立ち飲みで楽しんで、気に入ったら瓶で買ってと歩いていく。
角灯が点ったことからも分かるように、すでに薄暗い。子供たちの姿はなく、あってもせいぜいが街へ帰る乗合馬車へ向かう家族連れだ。そろそろ二人も、この後をどうするか決める頃合いであるのだが。
「常夜祭だものねぇ」
ぼふっと煙が上がった屋台で火を消してやったシトリは、焼いた串を何本か押しつけられて。
「まあ流石に疲れるから、休みたいとは思うんだが」
喧嘩の巻き添えを食らいそうになった酒樽を保護してやって、一瓶をせしめたイーリスがいた。
だが二人とも、この街を出ることなど考えていない。それには一応理由もあった。何しろここは、祭のための野営地である。しっかりと衛兵もいるし、移動遊園地の主催者がきっちりと傭兵を用意することもあり、安全な地なのだ。更に言うなら、身分証不要で動き回れるので、今の彼らには都合がいい。街の出入りには身分証が必要なのだ。
「ねえ、あれは? 宿泊域じゃない?」
シトリの見つけたそれは、パオと呼ばれる移動式の家である。そう言えば、移動式の宿屋なんてものがあったなと懐かしく思い出したイーリスが交渉に立ち、とりあえず一夜の宿が手に入った。が、浮かれきった二人が素直に就寝するはずもなく、抱えていた酒を置いて、また祭へと繰り出していく。その辺りは宿屋も承知だし、前金を払った二人を拒否する理由もないので快く送り出してくれた。
そしてまた祭を楽しみ出した二人は、其処彼処で意識せぬ人助けをし、時折それが見つかって礼代わりに商品を渡されて、一杯奢られてと、時を過ごすうちに、無口になっていった。
「……」
無言で自分を見てくるシトリに、イーリスは視線で答えてから周囲を見る。ああ、とその目を眇めたのは、遠くに見える火柱だ。流石に詳細が分からない位置では手が出せず、それは自警団か傭兵連中かに任せることにした。実際、慣れているのかそれはすぐに消し止められて、さほどの騒ぎには成らずに終わる。
イーリスはただ、首を振った。ふと、足下にあった奇妙な物体に目を留めて拾い上げる。それは先ほど、自分が創り上げたものだ。街灯の役目を担っていたであろう角灯だが、すでにその面影はない。硝子と枠が奇妙に曲がった、よく分からない何かである。
「――それ、術具? 油の臭い、しないみたいだけど」
「だな。油の臭いはしない……」
二人無言となり、顔を見合わせた。先ほどこれは、確かに爆発したのだ。角灯自体が壊れたり爆発したり、それはないことではないので気にもしなかったけれど――油がないということは、火を使わないということでもある。どうしてそれが、爆発出来る?
「蒼夜の使うあれは? 出来ない?」
「あれは長期間発光するようなものじゃないし、出来たとしても経費がかかりすぎる。それこそ魔法使いを雇ったほうが安いし安全だ」
「そうよね。…貸して」
シトリとしても可能性を潰すために聞いたに過ぎないので、それよりも受け取った残骸の確認に意識を向けた。原型など残っていないそれから何がわかるのか、イーリスは戸惑い半分興味半分でそれを見ている。やがて、シトリの顔が険しくなった。
「イーリス。貴方の”興図”、どこまで詳細に調べられるの?」
「何処までと言われても」
「例えばこれ。この紋章がついたものをこの町の中から探し出すとか。出来る?」
「紋章?」
シトリに示されたそれは、歪んではいたけれど確かに紋章だった。それも、イーリスが知るものを簡略化し損ねたような代物だ。つまりそれは、エレーミアに関するものと考えていいわけで――しかし、己の国はこんな簡単に壊れたり火を出したりするようなものを作るほど、間抜けではない。
「……そういうことか。妖力に余裕はあるな?」
「一晩寝たから、なんとかね」
宿へと戻った二人は、とりあえず入手出来た地図を広げた。移動遊園地内での迷子用のそれは有料だったが、安いものだ。それを素地としてイーリスが”興図”を立ち上げると、崩れた紋章が次々と浮かび上がる。数としてはさほどでもないが、どうやら彼らが行かなかった区域に集中しているらしい。どちらかと言えば裏側で、おそらくはここで働く人々が寝泊まりする区域なのだろう。客であれば、足を踏み入れることがないはずのエリアである。s
「意外と少ないわね」
「数自体はな。見ていろ」
ぼむ、と現れていた紋章の一つが爆発する。続けて、破裂するものや発火するもの、亀裂が入って崩れ落ちるものと、次々に壊れていく。全部で十三、それは彼らが行き遭った数よりも幾つか多い。ちなみに過去に遡って情報を集めたとかではなく、残されている痕跡から再現してみせただけである。そのうちの一つが、新たに破裂した。
「フェ……イーリス、繰り返さなくていいわよ」
「そんな無駄はしてない。いま、破裂したんだ」
「え?」
現実同調再現中であるが故に実現したそれは、現行で発生した破裂である。同じ場所であるのは、おそらく交換品として用意されたものが壊れたのだろう。それは全体の数からすればごく一部、ほんの一厘ほどの確率だ。だが、そもそも術具がそんなふうに壊れること自体、希である。まして、正規のエレーミア製品であれば、有り得ない数だ。
「ていうか、ねえ。どうしたら明かりの術具があんなふうに壊れるの?」
「単純に考えるなら、強度不足だろうな。あれは長時間にわたって一定の圧がかかるようなものだ。材料次第でなんとでもなるんだが……彼の程度の紋章すら再現に失敗する技量で、そんな材料が作れるとは思えん」
「そうなの?」
「ああ、無理だ。実際――」
残骸を握る手に妖力を通してみせれば、ぼむっと爆ぜた。慌てたシトリが手当をしようとするが、実は予想済みで痛みは切ってあるし、きっちりと結界も纏わせたので問題は無い。ただせっかくの証拠の品は砕けてしまった。シトリが復元しようと手を翳すが、全く反応がないばかりか砂のように崩れていく。
「何これ……?」
「んー……異質の力を感知したら壊れるようになってるな、たぶん。――ん?」
砕けた中から小さな欠片――赤黒くも透明な、ほんの米粒ほどの石をシトリが拾い上げた。それはまるで水のようにくちゅと溶けて、その指先に痕を残す。気持ち悪いと顔を顰める彼女の手を引き、イーリスは水差しの水でその手を洗わせた。
「なあに? 別に洗浄術でいいんじゃない?」
「ダメだ。”神人の石”は妖力に異常な反応をする」
それは、『主教国』の錬金術師たちが使う触媒である。その製法は極秘とされていてイーリス自身も知らないが、その危険性だけは身に仕込まされていた。嘗て、これのせいで窮地に陥ったこともあるほどだ。今し方のそれが指先を汚す程度で済んだのは、すでにイーリスによって半壊状態であったためだろう。或いはこれもまた、粗悪品か。
「難しいな……どちらもあり得るか」
何しろモノは、エレーミアの製品を真似た――いや、紋章までも再現した模造品だ。愚か者の金稼ぎ程度なら粗悪品に粗悪品を突っ込んだところで何の不思議もない。だが、もしも『主教国』が事故を狙って引き起こしたのだとしたら?
そんなふうに考え込むイーリスの傍らで、また別の紋章が崩れて消えた。爆ぜなかっただけマシかもしれないが、どうしてこんなに、と顔を顰める。
「どうしても何も、妖力に異常な反応をするのよね? ……私たちがいるから、じゃない?」
「いや、それにしたって踏み入ってない区画での異常が――あ!?」
焦ったかのような声と同時に、”興図”が消えた。術を妨害されたかとシトリが警戒を見せるが、解いたのはイーリス自身である。それも、シトリの一言が助けとなって、だ。
これまでの分で何があったのかは分からない。だが、今し方連続したのは、下手をすると己が放った”興図”のせいではないかと思い至ったのだ。そう説明すると、シトリはそれを理解し、その上で頭を押さえた。詰まるところ、術が封じられたわけだ。少なくともこの壊れる角灯をどうにかして廃棄させない限り、この町中で術は使わない方がいい。
だがそんなこと、どうやって?
「……寄付するくらいの余裕はあるが」
「まあ、それがいちばん楽ではあるわね。純正品を回すくらいなら、難しくないし。けど、連絡がつくかしら」
「…それは、任せろ」
またも彼女を頼ることになり渋い顔のイーリスであるが、当座はそれで凌いだ方が安全である。それにしても問題はそれだけで済むのかということだ。ここはたまたま自分たちが出くわしたが、他にも同様のことは起きているのではないかとの推測は難くない。なので、イーリスは白群を呼び出した。
「え、なに。可愛いわ、この鳥。どうしたの?」
現れたそれが何であるか、魔王には分からないらしい。そうと知って、イーリスは微笑う。どうやら美味く擬装できているようだ、と。
「蒼夜への伝令だ」
さらさらと手元の紙――部屋に備え付けてあった紙片に何やら書き込んで、白群の足に結びつける。古典気味の手法にシトリが呆れたが、まあこの大きさだし、いちばん目立たないし、少なくとも皇国が気づくことはないだろうと納得もした。問題は夜中だというのに彼がそれを放したことくらいだろう。目立たないし急ぐからと言って、どこか間違っていると思う彼女だったが、敢えて指摘はしなかった。
「それはいいとして、これからどうするの?」
ものがものだけに、揃えるには時間がかかる。それを知るシトリは、少なくとも同時に話を進めるべきだと主張した。それは確かにその通りだが、そもそもそのとっかかりを作るために蒼夜への伝令を飛ばしたのであって、今取れる手段があるのかと言う問題である。手としては、自分たちの徽章にものを言わせるのが簡単なのだが。
「だめだろう」
「だめよね」
家出しながら即時実家に頼るとか、阿呆の子の仕様である。無論、必要になれば躊躇わないが、流石にこの程度の騒動でそれは、ない。
「とりあえず、詰め所で話でも聞いてみるか」
「……そうね。この残骸、見せれば話くらい聞いてくれるでしょ」
ラストまで突っ走りたいのに。




