表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王が逃げて、何が悪い?  作者: 冬野ゆすら
第三章
46/64

3-5 よっしゃぁ、フェネクス様泣かせたぞーっ!!

再始動といっておきながらごめんなさい、更新滞ります。

予定の話とかなり変わってきてるので、いったん書き直します。

書き直しが出来た分から★マークをつけるので、お暇なときに読み直してやってください。

「まったく、有能にもほどがあるぞ」

 部屋の風呂に浸かりつつ、酒を飲みつつ、イーリスは呟いた。氷まで準備した冷や酒なのは、単に彼の好みである。湯船から召還されて、意識を失ったアヴィと焦る──狂乱一歩手前の夕闇を見たときは流石に肝を冷やしたが、話を聞けば何のことはない、どうするべきかが分からなくて処理停止に陥っただけではないか。まあ一応、肺の中に残る水は取り除いてやったし、身体や髪の水分も取り除いて、布団に寝かせてある。そもそも飲んだらしい湯はその時点で分解されているので、水を吐かせる必要もない。この程度、夕闇でも対処出来るはずなのだが……いや、出来るのだが、アヴィが関わるとポンコツになるようだ。

 まあ今回は、自分が無理矢理に湯船に引きずり込んだようだし、焦る気持ちは分からなくもない。どうして湯船に引きずり込むような事態になったのかとか、あの身体を見ただろうアヴィの反応も気になるところではあるのだが、それは落ち着いてからでいいだろう。

 で、飲み直しているのが今の彼である。

 これから先、かなりの面倒事が待っている。それを考えると、楽しめないので、取りあえず今日くらいは、好き勝手に過ごそうと決めているのだ。


「まずは彼奴等に連絡……いや、蒼夜がやるか。となると情報を受け取る拠点がほしいな。トランジットは便利だが……あの結界の中となるとなぁ…」

 妖力を持ってしても見通せない、そんな地で妖魔(彼ら)からの連絡を待つのは、得策ではない。といって、今の世界情勢を知らない自分では適切な場所が分からない。いやそれ以上に、追っ手が来たら面倒だし。

 どうするかなと湯船に沈みつつ考える。もともと、頭脳派ではないのである。ある程度は考えられるし、予想もつけられるから計画は立てられるのだが、それはあくまで計画なので、番狂わせが当然のように発生する。帳尻合わせが面倒になると、本来の予定をすっ飛ばして結果だけを得る、というやり方でずっとやってきたのだ。なお、それの後始末は蒼夜以下、彼を慕う部下たちである。蒼夜は配下を離れつつも各地の情報を送ってくれたし、いつの間にやら旅団を率いる身となっていているとか、驚きの転身だったが、変わり者ぞろいと言われている上に自分が筆頭だという自覚もあったので、さもありなん。


(気ままに旅をして世界を見せてやるだけのつもりだったんだがなぁ)

 拾ってしまった以上は、世話をする。約束もしたし、違える気はない。それにまあ、…あの国を継がされるよりは、面白いだろう。


「イーリス? 食事が用意出来たって……、ちょ、おい、なにやってんだ!?」

 何と言われても、と湯船から身を起こしつつ、アヴィを見る。


「お前も出来るぞ?」

 ずざざっ、と音を立ててアヴィが後ずさる。夕闇が何をしたか聞いていないイーリスだったが、なんとなくそれで予想がついた。夕闇なら遠慮なしにやりそうだ。


「引きずり込まれたな」

「おう。…その後どうなったか覚えてないけど」

「? 夕闇が言わなかったか?」

「ごめんなさいって」

 意味が分からず、取りあえず浴衣を羽織った。髪や身体の水気は術で飛ばして片づける。他に誰もいないので、問題はない。

 そうしてから部屋に入ると、夕闇が部屋の隅で小さくなっていた。今までの彼女とのあまりの落差に、イーリスが苦笑する。


「次は気をつけろよ?」

 その頭をポンと叩いてやると、はいとか細く応えが返った。

 食事場所は広間だということで、仲居に先導されるままついて行く。落ち込み中の夕闇はアヴィが構っていたので、放っておくことにした。当事者同士でとっとと話をつけてくれ、の心境である。


「……なるほど、部屋に食事を出さないのはこのためか」

「すっげ……何これ、めちゃくちゃ広い!?」

 はい、と案内した仲居が自慢げに微笑む。


「当宿自慢の大囲炉裏でございます」

 その名に恥じぬ広さである。その大広間には、八畳を越える大きさの囲炉裏が設えられていた。中央には大鍋、そして赤々と燃える炭。炉縁に近い辺りにも炭が燃えていて、そこには魚が炙られている。一匹や二匹ではないのだが、他に客人がいる様子もないのにと、少しだけ疑問に思う。それに、鍋の中身はどうやって取るのだろう?


「魚はお好みのものを、お好きなだけお取りください。他にお客様はいらっしゃらないので、どうぞお気になさらずに」

 え、と夕闇が振り向き、アヴィも驚く。流石にイーリスとしても、『好きなだけ』ということには驚いた。


「板前が張り切っております。裏の川から釣りたてですし、足りなければまた焼きますので、どうぞご賞味ください。あ、もちろん他の料理もお出ししますので、ご堪能くださいね」

 一礼して奥へと姿を消した仲居に思うところはあるけれど、とりあえずとイーリスが焼かれた魚の吟味を始める。


「うん、これだな。あと、これもいい。あ、アヴィ。お前の前にあるそれ、いい感じだぞ」

 食べ頃を見極める目はけっこう真剣である。選んだ魚を更に乗せるのは、油が垂れないようにするためらしい。そして真剣なだけあって。


「あ、旨い」

「……美味しいですね」

 滴らない程度に炙られた焼き魚は、二人とも気に入ったらしい。そして魚となるとイーリスとしては白飯を希望する。むろん、裏切られることなく飯櫃が用意はされているのだが、茶碗がない。おかしいなと思いつつ蓋をあけると。


「あら、お握りですね。ほらほら、お握りですよ、アヴィ」

 つまみ上げたそれをアヴィにぐいぐいと押しつける。と。


「”お握り”。──握り飯を丁寧にした言葉で、炊いた米を、手づかみで食べられるように加圧・整形した食べ物。そのまま食べる場合はのりを、食べない場合は柏の葉で包んでもよい。俵形、三角形、丸形などがあり、中身は自由。保存を目当てとするなら梅干しが最適。加圧・整形というと仰々しいが、要は手で握るからお握りである」

 諦め顔のアヴィがそれだけを告げた。まあ、分かっている彼らしかいないから、別に構わないのだが、何やらだんだん、反応の範囲が広がっているような気がしてならないアヴィである。


「聞いてて楽しいから、そういう意味では歓迎……っと、おわっ」

「……中身は自由だが、欲張って大量に入れると崩れるので、適量を心がける必要がある」

「……ですね」

 海苔も柏も巻かれていなかったためか、イーリスが手にした握り飯が崩れていた。中に入っているのは、…肉の塊のようである。


「私じゃないからな、これ作ったの!? てかなんだそれ、お前の意見か!?」

「んー、違うと思うよ?」

 にひひ、と笑う彼の様子からは、それが本当がどうか判別つかない。まあイーリスとしてもそれ以上気にする様子はなく……いや、気にする余裕はなく、崩れた握り飯を食べることが優先であった。

 食べている間に、言われていた料理が運ばれてくる。前菜として白身魚の手鞠寿司、魚の木芽焼き、緑豆の寄せ物(ムース)、独活の味噌和え、芹の白和えと、これだけで五品である。そこに吸い物椀もある。

 用意された酒は手酌しようとしたイーリスから奪い取るようにして、夕闇が注いだ。…イーリスにというよりアヴィに注ぎたかったようだが、先の話のとおり、アヴィは酒が苦手であり、意気消沈していたのが面白い。

 その間にも魚が焼けるので更に取っているのだが。


「……いつ、追加された?」

「──気づきませんでしたね」

 彼ら二人、食事を楽しんでいたとは言え、すぐ傍らに囲炉裏があるのだ。気づかないとは、どうしてだろう?


「ん? さっき向こうから飛んできたよ?」

「…飛んで? 魚が?」

「うん、そう。んで、すごくいい感じにそこに刺さってた」

 示された魚をよく見ると、半身だけ焼かれている。焼けていない方が炭に向いているということは、焼けるまでの時間は半分で済むのだろう。至れり尽くせりである。


「「……」」

 おかしいだろうと二人の心が一致する。少なくとも片方は魔王を名乗れる実力者なのに、的ではなかったからと言ってそんな至近距離に刺さるほどの勢いで飛んでくる物に気づかないなど、あり得ないだろう、と。


「あら、やりましたか。元は旅芸人だった料理人がおりましてね。食べ頃の見極めが出来る方限定ではございますが、お邪魔せず、途切れさせずにお召し上がり頂きたいそうですよ」

 次の膳を運んできた仲居が会話に加わり、種明かしをしていく。ちなみに運ばれてきたのは、川魚のお造り盛り合わせである。

 不可能とは言わないが、とイーリスは眉根を寄せる。自分たちならいくらでも食べられるが、それを人間相手にやろうと思うとどうだろう。すでにかなりの量を食べているが、これを同じだけとなるとそうとうな大食いのはず。その上で見極めが出来るとか、それはなんて化け物だ。

 夕闇は違うところで引っかかった。宿そのものがすばらしいことは認めるが、…魚を際限なく出し続けるとか、食べ残したりしたらどうするのだろうか。というかこれらの料理、…特に川魚は、冬に取れるものだったか?

 というかこら、素直に焼き立てを持ってくるとか、この場で焼き加減を見極めたものを差し出すとか、いろいろあるだろう!?

 アヴィは深く考えずに食べているが、この場ではたぶん、彼が一番楽しんでいる。そのあたりは少しうらやましいと思うイーリスである。


「わ、何これ?」

「牡丹肉の味噌漬けでございますよ。しっかりと焼いてからお召し上がりくださいね」

 一人用の炉に陶板、その下で燃える火を利用して肉を焼く陶板焼きである。こちらは数が用意出来ないからと一人前だけだったが、味噌漬けについても簡単に説明してもらい、イーリスたちのことは忘れているかのようである。


「…アヴィ、楽しそうですね?」

「楽しいってか、旨い」

「……そうか、何よりだな」

 渾沌領域から連れ出した直後は、味が分からなかった彼がここまで言うのだ、大した進化である。

 そして彼につられて、警戒するのも馬鹿馬鹿しくなった二人は、ようやく膳に手を着ける。


「…同じ油でも、違いますね。わたし、魚の方が好きです」

「おれ、肉が好きだけどなあ」

「私はどちらも好きだな。煮物はどうだ?」

「好きな味ですね、濃すぎないのがいいです」

 好き勝手に感想を交わしつつ、それぞれに用意された小皿を平らげていく。そんな中、ふとイーリスの動きがとまった。


「……イーリスさま?」

「どうし……」

 動かない彼を見て、二人はあわてて目を逸らした。逸らしつつも、彼が動きを止めたその小鉢をそれぞれが引き寄せてのぞき込む。


「…あ、芋ですね。里芋の揚げ団子かな?」

「なんかねっとりしてて旨い。てか、面白いな」

 口々に感想を言い合っていたら、板前らしき男が姿を現した。


「本日はようこそ、迷い家へお越しくださいました。料理担当の天籟(てんらい)と申します」

 え、とイーリスが男を振り向く。その拍子に、ぽろりとその頬を涙が伝う。


「よっしゃぁ、フェネクス様泣かせたぞーっ!!」

 わーっ、と周囲から拍手が飛んで、夕闇とアヴィが呆気に取られる。それはもちろんイーリスも同様であって、流した涙はその一滴きりで引っ込んだ。


「なっ…!?」

「て、フェネクス? え、なに、知り合い?」

「みたいですね?」

 揉みくちゃにされるイーリスからちょっとだけ距離を置いて、こそこそと二人が話していると、そそそそそーっと、女が寄ってきた。


「初めまして、お二人さん。飛白(ひはく)といいますー」

 結い上げた白髪が目立つ少女である。…そう、少女。いやどうみても、十かそこらの童女である。


「蒼夜さまから連絡がありましてー、お待ち申し上げておりましたー」

 あー、とその一言で納得する。彼らが何者かまでは分からないが、とりあえず、彼の仕込みなら納得だ。


「私どもー、フェネクスさまにお救いいただきましてー、それからずっと、諜報のようなことをしておりましたー」

 えっと、と顔を引きつらせつつ夕闇は話を聞いていた。アヴィは苦笑しつつ、見た目どおりの子供なんだろうかとか、それで白髪は可哀想かもとか考えつつも、同じく話を聞いている。

 要約すると、彼らは皆、イーリスが外遊官になる前に救い出された妖魔だということだった。一口に妖魔と言うがその差は大きく、魔王になるような妖魔は滅多に生まれないらしい。彼らも自我こそあったものの、そこらの魔術師に捕らえられる程度の能力しかなく、そこで無理やりに交わされた契約のために成長してからも逃げることも反抗することも出来ずにいたところを、彼に救われて惚れ込んだらしい。


「へ? 惚れ込んだ?」

「あの、普通そこは、忠誠を誓うところでは?」

「えー、同じですよぉ? フェネクス様は素敵ですしー、あこがれますー」

 夢見る少女にしか見えない飛白から目を逸らし、アヴィは夕闇を見る。


(これさ、この子だけだよな?)

(だと思います、ね?)

 念話を交わしつつ、視線を流せば、こちらに向かって手を合わせ、ペコペコと頭を下げる数人がいる。ええ、そうですよねと夕闇は鷹揚に頷いた。


(大丈夫です。分かってらっしゃる方がいます)

 安心しようとアヴィに笑いかけた、そこへ。


「ですからぁ、あの方についていくならそれなりの方でないとぉ、認められないんですぅ」

 その一言に周囲が変化し、喧騒が遠ざかる。発動は鮮やかですね、と夕闇は微笑んだ。

 何これ、とアヴィから念話が来るが、流石に応えようがない。何しろ向こうが見えるし、声も聞こえる。こちらの身体は動かないようだが、これは恐らく、向こうにも見えているだろう。


(あ、見えてますね間違いなく)

(だなー。……てか、うん。どうしよう、これ?)

(好きにしていいのでは? 試験のつもりみたいですし)

 先ほど頭を下げていた数人が幼女を捕まえて、締めている。容赦がないのはたぶん、人間ではないからだろう。一応人間を模している身体なので、痛みなどはあるのだが、切れるし。

 うん、どう考えても手加減する理由がないですね、と結論付ける。


「ちょまっ、止めろって!」

「やらないって言ったじゃないですか!」

「お前なぁ!?」

 そんな風に声も聞こえてくる。なんというか、…いや、この術は何を目的にしたのだろう。確かに動けないが、時間をかければ解ける気……というか壊せる気もするけれど、と内心でため息をつく。

 術を解く、或いは壊す方法はとても簡単だ。その術を構成する魔力より多くの魔力を注ぎ込むだけでいい。イーリスには及ばないが、夕闇自身、そこそこの魔力がある。

 だがまあ、その必要はないだろう。


「え、あれ? なんで解けた!?」

 好きにさせたアヴィが、あっさり壊したのだから。どうやら改変する前に壊れてしまったようだが。


「術が甘かったのでしょう。この程度の術しか編めないようでは、妖皇宮への滞在も適いませんね。ああ、だから国外にいるのですね」

 追い討ちをかけるのは、その程度でイーリスの配下を気取る童女に憤りを感じるからだ。見た目どおりの童女であるならまだしも、妖魔である。魔力の限界があるとは言え、時間をかけて丁寧に編み上げれば、もっと強固な檻が作れる。まして、イーリスが外遊官だったのは百年以上前の話で、そのころから成長していないということでもあって。


「――それが解けるようになるまで、お傍によることは適わぬと知りなさい」

 その一言で、童女を縛る。もっとも、自由に動けるし話せるし痛みもない、そんな術だけれど、幼女――飛白は姿を消した。


「……夕闇? 何やった?」

 周囲の彼らが蒼白になって夕闇を見つめている。あら、と夕闇が笑うとほぼ同時、ざぶんと音がした。なにやら悲鳴も聞こえた気がしたが、むろんこの広間の外に、温泉などはない。あるのは美しく整えられた池である。


「とりあえず、イーリスさまの視界に入ると近場の水に落ちるようにしましたが」

「わー……」

「水と指定しないと、鍋の中に落ちそうでしたし」

「そこ!? そこなの!?」

 すまし顔で夕闇が応えると、アヴィがその肩を掴んで揺さぶる。


「お、ありがたい。実はそこ、豚汁なんだ。あ、食べごろだと思いますので、よそいますよっ」

「あら、ではお願いしますね」

「それでいいの!?」

 何が、と天籟が首を傾げる。十分でしょうと笑う夕闇に、アヴィが一歩を退き、その視線の先にいた仲居その他の面々が、ちょいちょいと彼を招くが。


「あら、皆さんこちらへどうぞ? わたしもお話したいですよ?」

「え」

「や、あの」

「ね?」

 夕闇の迫力に負けて、恐る恐る近づいてきたので、アヴィは逃げ損ねたことを悟った。


「…とりあえず、飛白に伝えておけ。私が連れ歩いている時点で気づけ、ってな」

「あー……はい、承ります」

 イーリスまでもその輪に加わったら、もう逃げ場などあるはずもない。


ちなみにこの旅館、イメージは寝殿造りです。

あとお料理は、花水木本館のメニューをちょっぴり変えました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ