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魔王が逃げて、何が悪い?  作者: 冬野ゆすら
第二章 
26/64

2-8 迂闊にそういうことを言うと、身体乗っ取りますよ?

遅くなりました、本編再開します

 イーリスが言っていたとおり、ほどなくして街壁が見えて来た。と言ってもまだ距離はあり、地平線が街壁に変わった、程度の認識でしかない。

 アヴィはけっこうがんばって、イーリスに合わせて歩いている。少女のときは楽だったが、男に戻ったイーリスの足は結構早く、気を抜くとすぐに距離が離されてしまうのだ。

 砂の上よりはましだけど、と考えてふと、気づく。いつの間にか、地面の上を歩いている。まばらとは言え、草も生えていた。

 アヴィの足が止まったことに気づき、イーリスが戻って来た。


「どうした?」

「いや…いつの間に砂漠を抜けたんだろうって」

「? この辺りも砂漠だが?」

「え?」

 ふむ、とイーリスは考える素振りを見せた。その上で、試してみるかと口中で呟き、アヴィに問いかける。


土砂漠(つちさばく)砂砂漠(すなさばく)の関係性について、答えられるか?」

「──土砂漠は、岩盤や粘土などの地層の表面を砂が覆う地域を指す。その砂が風などで飛ばされた結果、隣接するかのように砂砂漠が生まれることもある」

「……ま、そういうことだ」

「めんどくさがるなよ。……てか何、俺の知識って異世界のものじゃないの?」

「共通部分があるとは聞くな」

 呆れたようなアヴィに、イーリスはあっさりと答える。ついでに、至って真面目顔で付け加えた。


「お前の説明のほうがわかりやすい」

「──なにそれ」

「そのままだ」

 質問されれば丁寧に答えるが、丁寧すぎて相手の理解が追いつかない段階まで掘り下げて説明し、その結果、敬遠される……という寂しい経験が、外交官時代の苦い思い出として未だに忘れられないせいなのだが、…説明したくないイーリスである。


「まあ、こちら側が土砂漠に当たるわけだ。今のところ、向こうには森があるし、伐採にはその地の魔王が対処することになっているから、広がることはないだろうけどな」

「あ、そんなこともしてるんだ」

「まあ、伐採するような奴が居ればの話だけどな」

 何しろ、砂漠を越えるのである。如何に手つかずに近い原生林ですばらしい木々の宝庫と言っても、砂漠を越えて命を危険に去らすような価値があるかと言う話なのだ。今のところ、それに価値を見いだしたものは一人もいないと答えておこう。

 砂漠が(ようよ)う白くなりつつあるころ、ようやく二人は街壁に辿りついた。そのまま壁沿いに進み、門を探す。人の姿はまったく見当たらない。見回りの兵士くらいはいるものではないかとアヴィとしては疑問に思うが、イーリスはあっさりと否定した。


「普通の街や国境ならいるだろうけどな。私たちがその気になったら、簡単に墜ちるし、この程度の砦」

「言うなあ」

「事実だからな」

 物騒なことを告げるイーリスである。しかもこの”私たち”は、この場にいる三人のことを指している。あいにくとアヴィはそこまで読みとることは出来なかったが、言わんとすることは分からないでもなかった。

 要は、戦力が違いすぎるのだ。妖魔に抵抗など出来ないと、端っからその可能性を捨てているのだろう。

 緩衝地帯に砂漠を挟み、その向こうは山裾に広がる広大な森。住まうは人に非ず、妖魔のみ。時折は魔獣が現れるかもしれないが、砂漠からしか来ない以上は、見回りの人員を用意する理由にならない。


「んー…塔の上部で見張りに立っているくらい?」 

「まあ、そんなところだろうな」

 肯定したものの、イーリスはふとアヴィを見て問いかける。


「……なんで、聞いてもいなのにそんなことがわかる? 私はてっきり、生活に必要な最低限の知識だけを持っているものだと思っていたんだが」

 つまりは会話であるとか、衣服であるとか、そう言うことについては困らない程度の知識がある…というのが、メモリアという存在だという認識である。しかし、砦の構造などは、生活に必要な知識とは考えづらい。


「あー…なんていうか、そのー……まあ、俺自身は、それで間違いないんだけどさ。……夕闇が、ね?」

 イーリスはそれで諒解したらしい。

 核に戻っていても意識は覚醒した状態にあるはず──つまり、暇を持て余してもいるわけだ。先ほどから次々と質問されており、散々回答させられている(と言っても自動回答状態だが)。不思議と自我を乗っ取られるようなこともなく、先のような会話も成り立つのだ。


「今もか? ……夕闇でも答えられるのか?」

「今もだよ。全部ってわけじゃ、ないみたいだけど…」

 時折、答えられない問いかけもあり、それは夕闇が補足したことで該当する答えを引き出せたり、それでもまったく答えられなかったりということはあるが、今のところ、夕闇だから(主ではないから)答えられないということには、なっていない。


「普通は、そうじゃない?」

「──それは……」

 アヴィの不安げな問いかけに、イーリスは答えに窮した。彼の認識では”異世界の知識の宝庫”であり、当然にその答えは主にしか開示されないとされないものだ。だが、それも…主となった妖魔が囲い込み、他者と触れ合わせないせいだとすれば、事情は違ってくる。それに、考えようによってはこの場合、”主からの質問”として扱われるのかもしれない。夕闇は単独で存在出来ず、核はイーリスが作ったものなのだから。


「普通も何も、事例が少なすぎるな…」

 ようやく絞り出した回答に、アヴィは笑って納得を見せた。


「後、疲れるなら答えなくていい。夕闇も、ほどほどにしろ?」

 答えるかのように指輪が明滅し、アヴィに確認すると”矢継ぎ早ではない程度”に、質問は落ち着いたらしい。

 助かった、とアヴィは笑い、歩き出す。今度はさほどがんばらなくても、イーリスについていくことが出来た。


「……あれ? ゆっくり歩いてくれてる?」

「いや、さっきはそう思ったが」

 夕闇か、とアヴィが頬をかく。夕闇だな、とイーリスは苦笑した。どうやらこんなところに、影響が現れていたらしい。

 歩く速度が速くなったせいか、ほどなくして正門にたどり着くことが出来た。

 薄明から曙へと変わりつつある空だが、まだ影が目立つほどではない……つまりは、まだ早朝とされる頃合いだ。


「……とりあえず、時刻を考えに入れても、なんだけどさ」

 アヴィが砦を見上げながら、問いかけた。


「静かすぎないか、ここ?」

 そうだな、とイーリスもそれを認めた。既に城壁に沿って歩いているのだ。少なくとも、見張りには動きがあって然るべきだろう。しかし、その気配がない。


「まさか、誰もいないとか?」

「いや、気配はある。寝静まって…いや、違う──アヴィ、魔力を借りるぞ」

 アヴィの手を掴み、イーリスは空いた手を正門に触れた。流し込まれる魔力に呼応してか、扉の金具が淡く光を放つ。


「よし、通った。入るぞ」

「えー!?」

 説明する暇はないとばかりにイーリスが門を開き、中へと飛び込む。そのまま駈け出す彼に従い、アヴィは後を追う。


「──なん、だ、これ」

 幾人もの兵士たちが、床に転がっていた。毛布を敷いているから自分たちの意志なのだろうが……あちらこちらから咳も聞こえるし、どう見ても宴会の後の雑魚寝には思えない。それに、見知らぬ人間が飛び込んでなお、身じろぎすらせずに眠っているのは異常と言えた。

 アヴィの硬直には構わず、イーリスは近場の兵士の額、首筋を調べる。脈はさほど早くないが、かなりの高熱だ。


「……流感か? それにしては……」

 高熱と咳、身を縮めているところから悪寒もあるのだろう。喘鳴も聞こえてくるし、おそらくそれで見立ては問題ないと判断する。ただ、砦勤めの兵士が……下手をするとほぼ全員が感染しているのではないかと、そこが疑問だった。もともと、体力がある者にはさほど症状が酷くならないし、治癒も可能な伝染病なのだ。


「アヴィ! 室温を上げられるか!?」

 原因は後だと、イーリスは指示を出す。アヴィに声をかけたが、実際には夕闇が応えるだろうことを見越して。その声に目を開き、アヴィは正気を取り戻す。しかし、その指示には従わなかった。


「室温だけじゃ、ない」

 アヴィの周囲に、霧が立ち(のぼ)る。それが夕闇の手助けであることは明白だったが、何を思っての真似なのか、イーリスには分からない。


「──流行性感冒。咳、高熱、喘息、頭痛、関節痛、腰痛などの諸症状に同時に襲われる流行病。感染者は隔離し、暖かく湿度の高い室内で、十分な水分を取らせた上で休ませることで回復に向かう。その際、喉や口を清潔な布で覆うと症状の悪化や感染を防ぐことに繋がる」

 呆気にとられたイーリスに笑って見せて、術を解き放った。乾いていた空気が、まるで雨上がりであるかのように濡れた匂いに入れ替わる。一斉にとはいかないまでも、咳をする人間が減ったことで、イーリスはそれに効果があったことを知る。


「室温は、暖炉を着けた方が安定するって。あと、そこに鍋置いて水張れば、湿気も大丈夫だから」

「え? ……ああ、夕闇か」

 言われてみればその通りなので、イーリスはとりあえず、積んであった薪を暖炉へ放り込んだ。軽く風を送り込み、暖炉に炎が上がることを確認する。ちなみに湿気についてはアヴィの発案だが、流石にそこまでは気づけない。


「後は食事と、…薬だな。備蓄にあればいいんだが」

 問題は、それらが何処にあるか、探し出さなければならないということだ。砦の図解などあるわけがない。


「あんた…、医者か……?」

「悪い、起こしたか。…薬師みたいなものだ、医者ほどの技能はない」

 その薬師としての技能自体は、隣国からの書物や輸入品の中にある薬学本を使って学び続けたから、まあ別に古い知識と心配することはないだろうと、イーリスは考えている。それに、事実を告げて不安がらせる理由もない。


「薬草の備蓄なら、外の、飼料塔だ」

 喘鳴を響かせつつ、兵士が応える。無理をさせる気はなかったが、その他に必要そうなもの…薪、食料、井戸などの場所を聞き出し、任せろと請け負った。


「あー…食事が一番、ありがたい…」

 それだけ言って、兵士は目を閉じた。程なくして寝息が聞こえてきたから、疲れてしまったのだろう。


「食事か」

「まあ、病気の時は食事だよな。俺がやろうか?」

「ああ……いや、それは」

 イーリスが渋るのは、まだアヴィの味覚がはっきりしていないためである。加えて、夕闇は極度の甘党のようだし、味付けがどんなものになるか、予想が着かない。

 そうなると、…野営料理とは言え、まともに作れる自分自身が作るべきだという結論に達するが、それをしていると薬を作る時間がない。薬を先にしてもいいが、この人数に行き渡らせるとなると、相当な量がいる。必要な材料がなければ取りに行くなり、代用品を使うなり、考えなければならない。流石にそれと料理の平行には無理があるだろう。


「ん? ──なあ、なんか夕闇が薬創るって言ってるけど」

「え?」

 思いがけぬ打開策を示されて、イーリスは一瞬考えた。たしかに、薬草の調合なら味は関係がない。だが、夕闇にそんな、薬の知識があるのだろうか?


麻黄(まおう)杏仁(きょうにん)桂枝(けいし)甘草(かんぞう)。…これでいいかって」

「……合ってる。それなら、任せよう。杏仁の分量、間違えるなよ?」

「お任せを。だってさ」

 役目は決まったと、それぞれが動き出す。

 イーリスは厨房に向かい、調味料、香辛料の類を確認する。むろん、病人に刺激物を与えるつもりはないが、汗によって体温が下がりすぎることが怖い。汗を掻くくらいの体温を保てる料理が一番だろう。


「それだと着替えもいるか……」

 まあそれはまた何処かにあるだろうと、後に回した。

 各種野菜はあり、包丁もある。大鍋も幾つかあるし、竈もある。肉は保存用の魔法が掛けてあり、少々手間取ったが鶏肉を取り出せた。豪快にも、骨ごとぶつ切りにされた腿肉だ。


「水炊きだな」

 盛りつけの手間もなく、大量に作ることが出来る優秀な鍋料理である。出汁は鶏肉から出るし、骨もついているからまず問題はないだろう。味付けは、単純に塩でいいと決めて、鍋に水、肉だけを入れて火に掛ける。

 沸くまでの間に見つけた野菜を洗い、白菜(しろな)は大きめの短冊に、玉菜(たまな)は芯を別にして、同じような大きさに切り揃えた。人参(にんじん)はごく薄い輪切りに。清白(すずしろ)も同じく薄い輪切りに。蕪も試そうとしたけれど、筋が張りすぎていたので諦めた。病人に食べさせる必要はないだろう。

 このやり方だと手間ではあったが、その分の出来上がりが早い。さくさくと作業を進めたこともあり、湯が沸騰し始めた頃に、必要とみた野菜は全て処理を終えていた。野菜を鍋に放り込み、蓋をする。


「粥もあったほうがいいかな……」

 そう思いはするものの、見つかったのは堅麦焼と小麦粉である。小麦粉を粥にする方法は知っているものの、発酵乳やら牛酪やらがいるし、食べ慣れないものはかなり苦手とするものなので止めておく。まあ、堅い分はふやかせばいいから、そこまで考えなくてもいいだろう。麦焼を使って牛乳粥という手もあるが、鍋物に合うかというと微妙である。

 後は煮上がるのを待つだけで、やれることがない。ようやくそこで息を付き、同時にここが”砦”であることを思い出した。


「──やってみるか」

 自前で用意する机は、調理場の台で代用すればいい。


  ※ ※ ※


 周囲に浮いた幾つもの乳鉢の中で、細かく刻まれた薬草が摺られている。

 地に置かれた薬研(やげん)は乳鉢に入れる前の薬草を挽いていて、ある程度の細かさになると乳鉢がそれを受け取って、さらに細かく摺っていく。

 乳鉢が足りなくなるとアヴィの手によって増やされて、同じ作業が続けられる。その乳鉢には大きさが幾つかあって、丼大の乳鉢にはすり下ろされた粉が集められている。空気の壁でも作っているのか、けっこう適当に流し込んでいるのに、舞い散る様子がない。

 薬草は時折分量を量られて、薬研に追加されていく。その際にも、種類ごとに分かれているから──要は薬研が四つ、乳鉢がそれぞれに三つから五つ、大乳鉢が四つと秤、それらが全て、自動で動いている状態だ。


『すげー……』

 アヴィは他人事のように呟いた。が、その呟きは声にならない。


「そうですか? イーリスさまもこの程度は出来ると思いますよ?」

 自分の台詞ではない声を、自分の耳で聞くという貴重な体験を味わいつつ、半端ではない違和感に悩まされつつ、アヴィは応える。


『イーリスはこういう方面やると思えないけど……』

 何の根拠もないが、なんとなく──である。本当に何の理由も根拠もないが、同時に幾つもの作業を平行して行う……ということを、イーリスが好むように思えない。

 

「そうですね。でも、もしイーリス様がやらないのでしたら…貴方には、出来るようになってもらいますからね?」

 出来ることは今、わたしが証明していますし。と楽しげに夕闇が告げる。

 

『じ…時間を下さい……』

 身体の主導権を一時貸し出したために、アヴィの能力はほぼ、把握されていた。ことあるごとに言われる”垂れ流しの魔力”も、完璧に制御されている現状では、彼に逃げ場はない。


 なぜそうなったかと言えば、少々時間を遡らねばならない。


「えっと…これ?」

 アヴィは棚の幾つ目、と指示された場所にあった薬草を取り出し、確認する。


『ええ、それですね。後、その上にあるのが杏仁(きょうにん)です。これは割って中身を取り出すんですよ。ちなみにこれ、毒薬になりますから気をつけて』

「毒!?」

 夕闇の警告に薬草を取り落としかけ、慌てて持ち直すアヴィに、夕闇の苦笑が伝わった。


『濡れた手で触ったりしなければ平気ですよ。イーリスさまが量に気をつけろって仰ったのは、服用するからですね。…まあ、一粒程度ならお腹を下す位だと思いますけど…それでも人に寄っては命取りですからね。ああ、杏仁豆腐(あんにんどうふ)というお菓子がありますが、あれに使うものは種類が違いますから。覚えておくといいかもしれませんね』

「役に立つ日が来るとは思えんが」

 

 雑談も交えつつ、指示される薬草を一通り揃えて、作業が始まった。


『せっかくですから、術を使ってみましょうか』

 薬研の使い方、乳鉢の使い方を飲み込んだと見たのか、夕闇がそんなことを言い始めた。

 術を覚えるのは願ったりだと喜び勇んで始めてみて、手元で乳鉢を摺りながら薬研を動かしたり、その逆はすぐに出来るようになった。が。


『では、薬研は術に任せて二つ同時に。乳鉢も術に任せて、手元でもやってみましょうか』

 少々手間取ったが、難なくこなせるようになると。


『では、乳鉢三つも術でやりましょう。ああ、空気の壁で覆うのを忘れないように、粉が飛んでしまいますから』

 いきなり難度を跳ね上げた。とりあえずは持ち前の負けん気でこなしてしてみたものの。


『乳鉢が足りませんね。複製して動かしましょうか』

「無理、もーむりっ! 身体貸すから好きにやってくれ! てかおれ、複製すると縮むから!」

『あらあらあら』

 そういえばそうでしたと、夕闇が笑う。小さい乳鉢にも需要はあるのだが、今は流石に不要である。

 とりあえずせっかく作った物をこぼさないよう、乳鉢は机の上にゆっくりと、薬研は放り出さない程度に静かに動きを止めた。


「てか何で出てこないんだよ? そのほうが手が増える」

『実体化しても、各種の術を使うほどの余裕がないもので。…でも、迂闊にそういうことを言うと、身体乗っ取りますよ?』

 乗っ取るとか出来るのか、というのがアヴィの感想だ。出来ないから指示を出しているものだとばかり、思っていたのに。


「薬作り終えるまでなら、いいよ。貸すよ。任すよ」

 それはけして、薬作りが嫌だからではない。あくまで、夕闇の要求が高度すぎて追いつけず、結果として薬を作る時間が長くなりそうだからだ。と、アヴィは内心で思う。


『じゃ、借りますね。…そうですね、魔力の流れを肌で感じて下さい。そのほうが飲み込みも早いでしょうから。あと、思考するときと私と話すとき、区別しないと全部伝わってますよ。それも学んでしまいましょうね』

 あっさりと告げられたと思ったら、もう身体の自由は利かなかった。視界はそのまま、動いている手足の感覚もあるのだが、まったく自分の思い通りにはならないという状態が、さきほどの台詞につながるのであろう。


「うん、悪くないですね。とりあえず何も考えずに、魔力の流れだけ感じていてください。下手に覚えると先へ進めませんから、感覚だけ掴みましょうね。……あと、この垂れ流し……ちょっと制御しますよ、こんなにいりません」

 けっこう辛辣な言葉を吐いて、夕闇は作業を始めた。手慣らしに、と薬研を動かし、乳鉢も複製する。何もないところからの複製で、それはまだアヴィに出来るところではない。そのうちには出来るようになるのだろうとか遠い何処かを彷徨いながら、魔力の流れだけを追っていた。

 イーリスが言っていたとおり、”核”から流れ出している。それを体外へと放出するのではなく、血の循環に乗せることで全身へと巡らせて、広い領域から干渉することで、空気の壁を作っている。


(ん…あれ? 空気の壁?)

 感じ取れたのは、空気の壁だけだった。複製…はもう終わっているようだから省くとしても、薬研を二台に乳鉢を……行つ野間煮や六つも同時に操っている。元の魔力は自分のものなのに、それ以上が感じ取れないというのは、かなり悔しい。


「それが”術”ですよ。身体強化くらいならまだしも、これを簡単には見抜けません。……言ったでしょう、魔力の流れを感じるように、と。空気への干渉はけっこう適当にやってますから、わかりやすいんでしょうね」

 そういうことか、とアヴィは納得した。同時に、「実はこいつも、規格外の能力持ってるんぢゃ?」とか思ったことが夕闇に伝わったかどうかは、不明である。

作中に出した薬は「麻黄湯」としてツムラ漢方さんが作っていますが、市販されていません。体力がある人にのみ処方される漢方薬です。まあ、兵士が飲む分にはいいだろうと。

キョウニンについては、「青酸配糖体」の一種が含まれるのだとか。薔薇科の未熟果や種にも含まれるそうです。だから、生の梅とか食べちゃだめですよ?

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