6話
分からない。
能力のおかげである程度、人の真意をつかむことができるがそれも大雑把。 普段から味わったことの嫉妬の目線や嘘をついた時の味は覚えていてわかる。 しかしそれ以外になると分からない。
何かを思っているのは確かだけど、その中身までは判らない。
あの刺激的な味はどっちになるんだろ?
悪いことを思っているのか、逆に良いことを思っているのか、自分でも判断ができない。 なんとも中途半端な能力。
あのとき、紬は何を思ったのか。 何かを思い出したようには見えたけど、それを言ってはくれなかった。 授業の終わりごとに聞きに行ったが、答えてくれなかった。 ただ単純に言いたくなかったからなのか、それとも————。
あんまり変なことは考えたくないが、どうしても考えてしまう。 大丈夫、大丈夫、紬に限ってそんなことはない。
が、悠長に構えているわけにはいかなくなった。 今の俺は紬の好きにあぐらをかいている。 大丈夫と思っているのは、今の状況に不安があるからだ。 互いが好き同士ならそんなことを心配する必要もない。
早く思い出せないと……。 せめて、どこで言われたのかが分かれば……。
「どうだ柊史、思い出せたか?」「なんか困りごと?」 海道と仮屋が話しかけてきた。 俺は仮屋に海道にした説明をし、紬が思い出せたっぽいけど教えてくれないことを話した。
「ふ~ん、そんなことがね~。 で、保科はまだ思い出せてないと」
「そういうこと」
「そればっかりは私たちがどうこうできることじゃないからね~。 まぁ一つだけアドバイスするとすれば、あんまり考えないことじゃないかな?」
「……その心は?」
「思い出したいものって思い出そうとしてもできるものじゃないでしょ。 でもさ、他のことやってる時にふと思い出すことって結構あるじゃん。 まぁ、そういうことで保科にプレゼントがあります!」
仮屋はポケットから遊園地のペアチケットを取り出した。
「商店街の福引で当てたんだけど、私にはそういう人いないから保科にあげるよ。 椎葉さんと行って来たら?」
「和奏ちゃん、俺がいますが?」 「海道とは嫌」二人がふざけ合っている間、「あっ」と声が漏れた。
「思い出したの、保科?」
「紬は!」
「椎葉さん? 部室にいるんじゃない? 綾地さんもいないし」
「チケットありがと!」仮屋にお礼を言って教室を飛び出した。 一番忘れてはいけないことを忘れていた。 人生の中で一番の出来事で一番大切な思い出。 それを忘れるなんて……!
部室にはみんなが集まっていた。 息を切らして入って来た俺を見て、みんなが困惑の目線を向けている。 そんなことはお構いなしに俺は紬に歩み寄った。 紬は不安そうな顔をしている。
「紬、今度の休みにここに行こ!」
「ここって……」
紬はチケットと俺を交互に見て、何かを思った。 口内に甘い味が広がる。
「どうかな? 何か予定でもある?」
「ないよ! 大丈夫、行けるよ!!」
「良かった……。 細かいことはまたメールするよ!」
良かった。 思い出せて良かった。 これで俺にもできる。 俺にも紬のために————。