23 つながる世界
どれくらい震えていたでしょうか。
ようやく体の震えがおさまってきました。手の中の携帯はいまだに圏外のままです。
リオンさんはわたしの背後でじっとしています。話しかけてこないのはありがたいです。なんだかいまいろいろとごちゃごちゃですから。
吸って吸って吐いて…。
産むわけじゃありません。ちょっと深呼吸です。
あたりを見回して目当ての物を見つけるとわたしはそこに向かって高速ハイハイしました。スキニーの膝が草の汁で汚れるのもなんのその。
もぐもぐもぐもぐ……。
「リコ、さま?」
後ろからリオンさんのちょっと戸惑い気味の声が聞こえました。
はっ、両手にナントカベリーを持ったままゆっくり振りかえりました。
「リコさま?」
あれ?リオンさんの視線がちょっと痛いな。リオンさんは何かあったときはリコさんじゃなくてリコさまと呼ぶらしいのでこの姿がいけてないのかな。
この姿勢で赤い実を食べていると初号機が使徒をもぐもぐしてるのとかぶりますかね。ってリオンさんは知らないか。
「喉がカラカラで、水分補給をしようかと」
「そう、ですか…」
両手のナントカベリーをすべて口に入れ咀嚼する。
「終わりました」
わたしはまた高速ハイハイでリオンさんの足の間に戻る。あ、別に戻る必要ないじゃん。
そして-。
わたしとリオンさんはラブラブモードでわたしの右手に握られた携帯を見つめています。
試行錯誤の結果、というより意外とあっさり判明したのですが、わたしとリオンさんがくっついているときにアンテナが三本になるんです。布越しではだめなんです。素肌と素肌じゃないと。どんな設定だよと文句のひとつも言いたいところですが、銀髪イケメンにそんな偉そうなこと言える容姿じゃないのは自覚しているので何も言いません。
横に並んで手をつなぐので全然問題ないはずなんですが、リオンさんがさっさとこの体勢になってしまったのでリオンさんの足の間でおとなしく座っています。
わたしの右手には携帯電話、左手は上からリオンさんの左手が重ねられてなぜか恋人つなぎ風にいちいちわたしの指と指の間にリオンさんの指が。だからどんな設定なんだと(以下略)
「いいですか、かけますよ」
わたしの粛々とした電話開始宣言にリオンさんが重ねた手をぎゅっと握ることで答えます。もうこの設定いいから。イケメンは無駄が多いぜ。
考えたすえに兄にメールではなく電話することにしました。もしも、もしもですよ、わたしが死んでいた場合、父や母に電話がつながっちゃったら卒倒するのではないかと。あとは死んだ娘から電話とか信じてもらえないことはないと思うんですが、もしも、もしもですよ、信じてもらえなかったら地味にショックだな、ということで回避したともいえなくはないです。ええ、歯切れ悪くてすみません。わかりやすくいうと両親から1gでもわたしのことを受け入れられないという雰囲気を感じ取ってしまったらわたしが耐えられないと、そういうことです。すみませんビビリで。
兄は神経図太いので。
それだけじゃないんですけどね。
兄はちょっとシスコンの傾向があるのでそこの一点に過剰に期待をしております。
「出てくれますように」
電源切ってたり大学の授業中だったら出られないですから。
出ろ出ろと念じつつ着信履歴から兄の番号を選びぽちっとな。
おおう、心臓がばっくばっくしてきました。
・・・・・・トゥルル。
ふんむー。コールしたー。ボタン押したら即コールしろよ!ここまでの三秒間が心臓に悪すぎる。思わずリオンさんの左手をぎゅっとしてしまったことについては目をつぶってください。
トゥルル、トゥルル、トゥルル。
二、三、四。
トゥルル。
五。
出ない、のかな。
「すまん莉子。お兄ちゃんが悪かった!」
出 た し。
いえわたしが出てもらうことを前提にかけたんですけどほんとに出られると…。
「もしもし?莉子?」
懐かしいお兄ちゃんの声に安心したのか涙腺が。これが噂の目から汗ってやつですか?
わたしは断じてブラコンではないんだからね!
「もしもし?莉子なんだろ?莉子だよな?」
落ち着こうと深呼吸をしようとしたのに、まともに息を吸えなくて小刻みになる。小刻みすぎて肺に入る量が少な過ぎて酸欠になりそう。なにこれ。まるで泣いているみたいじゃないですか。
「莉子、泣いてるのか?」
お兄ちゃんがそうやさしい声で問いかけるのと、リオンさんがわたしとつないだままの左手と自由な右腕でそうっと抱きしめてくれたのはほぼ同時でした。
くそうこのイケメンどもめ。あ、うちの兄イケメンなんです。枕詞に『残念な』ってつく方のですけどね。




