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21 運担当は特にすることがありません




 小梅が島を出てから数日が経った。

 千花の魔法は相変わらず進展があまりない。自分の中の魔力を魔法に変換するにはイメージが重要なのだがその変換がうまくいかないのだ。魔法少女への衣装チェンジしかまともに出来ないってどういうこと!と千花の機嫌がちょっぴり悪い。

 ステラの提案で今日は海岸には行かずに砦の中で魔法陣のことを勉強するらしい。魔法陣は覚えるのが大変で書くのも大変ということだが(簡単そうに見えるが順番とか線の太さとか魔力の注ぎこみ方とかの『バランス』が重要らしい)機械のように正確無比に書ければ千花の苦手な『イメージ』をしなくてもどっかん系な大きな魔法が使える。

 もしかしたらこっちの方が向いているのかも、というステラの意見で今日は実践ではなく座学らしい。基本的に婚姻していない男女が密室に二人きりというのはよしとされないらしいが内容が内容なので千花とステラは現在千花の部屋にこもっている。







「暇っていう言葉はよくないですよね」


 莉子は砦の広間にあるソファに座り足をパタパタさせたあとそんな自分に気付いたのか居ずまいを正してからリオンをみた。

 リオンは莉子に「立っていられると落ち着かない」と言われ莉子の向かい側ではなく右手の横の一人掛けのソファに座っている。


「リオンさんもわたしにくっついてるだけって暇ですよね。お仕事にいってくれていいですよ、っていうのも無理なんですよね、おそらく」


 莉子としては放置されて全然構わないのだがさすがに勇者である客人を放っておくわけにもいかないというのもわかる。

 午前中のなんちゃって護身術の稽古はすんでいるし、厨房でお菓子作りは諸事情により選択肢から外れている。千花は魔法の勉強、コブシは巫女のお仕事、砦の執事たちはなんだかいろいろ…。自分がいわゆる穀潰し的状況にある気がしてならない。


「リオンさん急ぎのお仕事とかないですか?わたしに構ってるせいで深夜に時間外労働とかしてませんか?」


 心配そうにたずねる莉子にリオンは心配いりませんよと微笑む。

 しかし、ない。することが、ほんとに、ない。

 眠気もないしここで沈黙が続くのも居た堪れないので莉子は特に考えなしにリオンに話しかけた。


「リオンさんつまらなくないですか?」

「はい?」

「小梅だったら剣術とかそういうのの特訓とか出来るし千花ちゃんだったら魔法の練習とかやることがあるけど、わたしの相手だとこんな風にのんびりお茶してるくらいでリオンさんの実力というかそういうの全然発揮できませんよね。なんか申し訳なくて」

「まだ具体的なものは見たことありませんがリコさま、いえリコさんは『運』がすごく良いんですよね」


 莉子に様付けはやめて欲しいと頼まれているリオンが呼び方を言いなおす。莉子としてはさんづけでもなんだか落ち着かなくて呼び捨てかせめてちゃん付けにしてほしいのだが今のところちゃん付けで呼んでくれるのは千花とコブシと料理長だけである。


「コウメさまの人間離れした身体能力の高さは実際に見ていますし、チカさまの魔力が膨大であることも証明済みです。それに匹敵する『運の良さ』を間近で見ることが出来るのかと思うと楽しみではありますがつまらないとかそういうことはないですよ」

「でもその運がいつやってくるかわからないんですよね」


 はぁーとため息をつく莉子を見てリオンは口を開いた。


「リコさん、外に行きましょうか」

「外、ですか?」

「飛ぶ練習をしましょう」


 今まで二回ほどドラゴン形態になったリオンの背中に乗せてもらい空を飛んだ。一回目は千花の魔法練習の見学に、二回目はきのう、前回とは反対、島の南東部の海岸まで行って戻ってきた。

 遊園地の絶叫系が大好きな莉子でもさすがに最初は安全バーがないあの状態に少々落ち着かなかったが一回目の帰りにはもう空の散歩を楽しむくらいの気持ちでリラックスして乗れている。降りてからリオンに「ドラゴン騎士になる素質がありますよ」なんてほめられてちょっといい気になっていたのだが。


「もしかしてわたし乗るの下手でした?」

「いえ、初めてにしてはお上手でしたよ。男女問わず高い所が苦手なひとは結構いますからね、パニックにもならず怖がってっらしゃる様子もありませんでしたし。練習すればもっと上手なドラゴン乗りになるでしょうね」

「えっと、じゃあちょっと着替えてきますね」


 さすがに同じ服を着続けられないので莉子もコブシに頼んでこちらで衣服と下着を調達した。下着はやはり現代日本のクオリティーに慣れた体には違和感があったが千花の「オーガニックコットンだしナチュラル系の女子になったと思えば、ね」の言葉に伸縮性の足りなさには目をつぶることにした。オーガニックコットンのタオルとか結構高いしね、うん。ある意味高級品だよ。

 そして今日はこちらの服、この島で一般的な(世界的に一般的かまではわからない)生成りのワンピースひざ丈、を着用していた。


 莉子は部屋に戻るとクローゼットからきれいに洗われてたたまれた自分の服を取り出す。こちらに飛ばされたとき、小梅はジーンズに五分袖のシャツにキャスケット。シャツといってもいつものブランドなのでかわいい生地にちょっと凝ったボタンやデザイン。千花はしわになりにくいてろんてろんした生地のロングスカートにキャミとカーデのアンサンブル。莉子は莉子的にはかなり奮発した9800円の甘すぎないガーリーなひざ上ワンピース(お気に入り!)にスキニーを合わせていた。サークルの先輩にスキニーやレギンスは邪道中の邪道だ、もしも彼氏出来たらデートには絶対履いていくなよ、とさんざんセクハラまがいのことを言われていたのだが今回はデートじゃないけどほんとに履いていて良かったと思う。生地がそれなりに厚いのでリオンの鱗に当たっても破けたりしないのだ。もちろん伸縮性もあるし。

 こちらのひとはドラゴンに乗るときはぶっちゃけセンスはあまり感じられないなめし革で出来た専用のズボンのような保護のためのへんてこなものを履くのだ。莉子はスキニーがあるのであれを履かないですんでいる。

 ワンピースを着たままスキニーを履いて、それからワンピースを脱いでゆったりとした上着に着替える。島の女性はみな長いか短いかだけで基本ワンピースで上衣下衣とわかれていないということでこの上着は少年用だ。


 いそいで着替えて広間に戻り、リオンと合流し並んで歩いて外に向かう。


「ふと思ったんですが」

「はい」

「リコさんの運がよいというのが『よいことが偶然勝手にやってくる』というだけだったらよいと思うんですが」

「ええ」

「『危機的状況に陥った時に偶然それを回避できる』というものだったら大変だなあと」

「えーと、なんとなくどっちもあるんじゃないかな、とは思ってますけど」

「そうですか、それなら話は早いですね。ちょっとひねくれた考え方なんですが、ひとより運が良いということはひとより運が試される機会が多いという風になりはしないかと。その場合勝手に良いことがやってくるのは構わないんですが危機的状況がひとより多くやってくるのは大変だと思いまして」

「なんだか驚きのマイナス思考ですね。それは考えてなかったです」

「執事長に常に最悪の状況を想定して対処法を考えておけ、と言われているので」

「マイナス思考じゃなくて危機管理的思考ですか」

「そうかもしれませんね。万が一の場合に二人で全力で逃げる練習をしておきましょう。砦の中にいるよりもリコさんもわたしものびのび出来ますしね」


 そこで莉子を見下ろしてにっこり笑顔になったリオンに莉子も笑顔を返す。いろいろ難しいことを言っているが気分転換に莉子を外に連れ出してくれたのだろう。いいひとだ。いや、いいドラゴンだ。そしてイケメンだ。目の保養かつ心に潤い。


 前回と同じ場所で(リオンさんもいいけどすらりとした女性騎士に護衛されたりしたら萌えるよねー、ここの執事は全員男性なのがねー、ちょっと残念といえば残念だよねー)などと妄想しているとドラゴン形態になったリオンがゆっくりと歩いてきた。

 ちなみに莉子は自分の母親ほどではないが宝塚が好きだったりする。


 ドラゴンに乗るには方法が三種類ある。

 ひとつはドラゴンに籠をぶら下げてもらいその中に乗る。乗るというより運んでもらうという方が正しい。

 ふたつめは鞍をつけて乗る方法。ドラゴン騎士が戦闘のときなどに使用する鞍は非常にしっかりした作りで大きく安定がよい。あぶみが特殊で乗った騎士が落ちることはまずない。ただし鞍の装着に多少時間がかかる。

 みっつめが一番簡易な方法でドラゴンの鱗に紐をかけて簡易な鐙とし、命綱をドラゴンの首にまわして自分と結ぶ。ドラゴンがゆっくりと飛ぶ場合には特に問題がないが乱暴に飛んだり乗るひとが暴れたりすると落ちる危険性がある。命綱さえ外れなければ落ちずにぶら下がるだけだが。


「あれ?鞍をつけて乗る練習じゃないんですか?」

「切羽詰まって逃げるときに鞍をつける余裕はないですよ」

「それもそうですね」


 リオンが器用に羽に挟んでいた紐を受け取るとそれをリオンの首にかけ端と端をたすきがけのように自分の体に絡めてからおなかの前で結ぶ。それからすでに輪になっている紐をリオンの鱗にひっかけそこに左足をかけてえいやっと自分の体を持ち上げて一気にリオンをまたぐ。ドラゴンはちょうど馬の鬣にあたる部分が幅30cmくらい平らになっているので座っても安定している。そのままうつぶせに近い形になりもう一個の輪になった紐を鱗にひっかけ右足を突っ込む。


「鞍は問題外ですけどこれもこれで切羽詰まったときには時間がかかりすぎな気がしますけど」

「本当に最悪の場合、わたしが口にくわえて飛ぶことにします」

「ええっ?!」

「じゃあ飛びますよ」


 リオンが羽を動かしてふわりと浮かび上がった。

 



 空を飛ぶ練習のはずだったのにな。おかしいな。

 ナントカベリーの実をもぐもぐと食べながら莉子は首をかしげる。

 リオンは上空から島を眺めるられるようにとのんびりと飛んだあと、森に降りた。そしてこれは食べられますよ、なんて教えてくれるので莉子はその野生のナントカベリーを摘まんでは食べ摘まんでは食べ…。

 一方リオンはそこらへんの木をばっさばっさと倒しては鋭い爪で器用に枝を落とし、丸太状にしては近くにある川へ蹴り落としている。

 最初何が起こったのかと驚いたがよくよく聞けば大工さんに頼まれているとか。木は水につけておくと腐らないし樹皮のあいだにいる虫とかも死ぬらしい。

 この森を抜けて町に入る前の川沿いに製材所があるので帰るときにそこに寄って何本流したよ~と報告すると製材所のひとが待ち構えていて流れてきた丸太を製材所のため池にひっぱりこむんだって。

 ……。

 これって遠足兼社会科見学なんじゃ?

 わたし全然勇者やってないけどいいのかしら?

 疑問はあえて心にしまい莉子はリオンとともに砦へと帰った。

 

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