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20 閑話・オレンジクッキー

ゲテモノ系の表現があります。軟体動物等苦手な方はご注意ください。

読み飛ばしても特に問題のない回です。


(やばいやばいやばいやばい)


 莉子は超高速で同じ言葉を心の中で繰り返していた。




 小梅と千花を見送りふらりと寄った砦の厨房。

 あきらかに料理人とわかるひとと執事が入り混じって何やら作業をしていた。料理人はもちろん料理。執事たちは銀食器を磨いたりクロスをたたんだりしているようだ。

 「あのー」と声をかけオレンジのクッキー作りをしたいと申し出た莉子にうれしそうに近寄って来たのは、若い料理人でもなくパティシエでもなくなんと料理長。

 セバスチャンにはちょっと劣るがそれでもなかなかのナイスミドルだ。この砦にはハゲもデブも存在しないらしい。だって見たことがない。


「いっつも教えるのむさい野郎ばっかりだし俺だってたまには楽しく料理したいっちゅうか楽しく料理させろ!」


 ということらしい。厨房には二人だけ女性がいるがひとりはベテランかつ料理長のおくさんで、もうひとりの若い女性、パティシエな彼女は料理長の娘だった。


 そんなわけでその他の料理人のやっかみやからかいをにこにこしながら受け止めつついそいそと準備をした料理長の横に立った莉子は目の前の調理台を見ながら固まっていた。

 粉や砂糖、たまご、バターなどは日本にいたころと見た目だけはほとんど変わりがない。ただひとつ違うのはオレンジ色の物体だった。

 香りはオレンジ、皮の感じもオレンジ。

 形状だけが地球のそれと異なっていた。


 これが木に生っているいるとしたらどうぶら下がっているのか。

 目の前にあるのはA4サイズの下敷きくらいの大きさの四角いひらべったいものに産毛のようなものがみっちりと生え、そこからまだらにオレンジ色が生えているのだが産毛の中から出てオレンジとつながっている茎のような部分がどうみても雨上がりのなめくじ。この質感はやばい。

 しかも見間違いではなくそのなめくじな茎の部分がゆっくりではあるがむにゅむにゅと動いているのだ。これは相当やばい。やばいを通り越してヤヴァイ。


(動いてるってどういうこと?植物じゃないの?動物なの?なんなのこれ???)


 へんな汗が出ていることを自覚しつつ莉子は料理長にたずねた。


「これって植物ですか?」

「ああ、オレンジっていうんだ。リコちゃんの世界にはなかったかい?」


 性格なのかリコさまと呼ばずにリコちゃんと気安く呼んでくれるのはとってもいい感じだが、目の前の通称オレンジは残念ながら全然いい感じではなかった。


「ここで甘さや鮮度がわかるんだよ」


 にこにこしながら料理長がなめくじな茎に手をのばす。


(あー、やーめーてー)


 年上に対する遠慮だったのか莉子の叫びは声にはならなかった。

 料理長の右手のナイフがなめくじをぶった切る。

 ぶちゅんと勝手な効果音を莉子の心に響かせて切れたそこからは赤いどろりとした液体が流れる。


「赤い方が甘いんだ。こういうのは生食用」


 料理長が切り取られたオレンジをかごにポイと放り込む。

 そして二度目の、ぶちゅん。


「こういうふうに黒いのは酸味が強いんだ。これがクッキーやジャムにするのに向いてる」


 黒と言うが流れ出したのは黒と深緑が混ざった非常にやばい物体だった。


「慣れなくて見た目だけでわからない場合は舐めれば鮮度がわかるから。古いのはやっぱり味が落ちる…」


 料理長がそう言いながら小指にどろりをつけ口元に持っていく。


(おーまいがー)


 背中の汗が引力の法則よりも速い速度で流れ落ちるような感覚とともに莉子はそこで意識を失った。






 ん?

 なんとなくよだれを垂らしているような気がすると思ってあわてて目を開いた。右手で口を拭う前に何かが口を拭う。


「起きましたね。気分はどうですか?」


 銀髪美形なリオンがハンカチを片手に自分を見下ろしている。

 周囲に目をやればどうやら砦の広間のバルコニーに近いソファの上。頭の下にはクッション。下半身にはひざかけのようなもの。


 あれ?

 上体を起こして周りを見る。


「厨房で倒れたんですよ」


 ああ、思い出した。


「体調が悪かったのですか?」


 リオンに聞かれて首を振る。


「オレンジが衝撃的すぎて…」


 リオンが不思議そうに首を傾げる。ああ、生まれた時からあれが普通なら衝撃的じゃないかもね。

 だけどわたしには超衝撃。もしかしたらこっちにきて初めてのカルチャーショックだったかも。っていうか、わたしこれからオレンジクッキー食べられるかな。

 大好きだったのに。調子に乗って自分で作りたいとか言わなければオレンジクッキーはオレンジクッキーのままだったのに。




 昼食のあと、料理長がお見舞いといって出来たてのオレンジクッキーを持ってきてくれました。

 もう二度と食べることはないと思っていたけれど、オレンジの正体を知らない千花ちゃんがおいしそうにオレンジクッキーを食べる姿を見て結局わたしも食べてしまいました。

 なんとなく自分が残念でした。おわり。




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