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薗木異世界総合法律事務所  作者: 園木まさ
第2章 廣田総合法律事務所の日常①

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第8話 魔界の林檎???

 あれはいったい何だったのだろうか……

 ふいに深夜に訪れた自らを「魔族」と名乗るマリンダさんの相談。確かに相談を聞いて色々と答えたが、未だに現実のことだったのかどうか……不思議な感覚だけが妙に残っている。

 しかし、その後はそういった相談者が訪れてくることはなく、平常運転の日常が続いている。あれはあれで人生の中のイレギュラーな出来事のひとつだったのだと思うことにした。なんだか妙にリアルな夢を見てしばらくその夢と現実が混同するというのは誰しも経験したことがあることと思う。でも、そんな感覚も現実世界で生きているうち、だんだん薄れていき、そんな夢を見たことすら忘れてしまう。それと一緒なのだろう。「あの相談」はそういうものであるということで脳内処理が進んでいたある日のこと、ひとつの小包がおれ宛に届いた。


「薗木先生宛てに、何か木箱が届いてますよ」

 廣田法律事務所の事務員の松井直子さんがずしりと重い木箱を渡してくれる。

 確かに「薗木先生へ」と書かれている。

「はい。ありがとうございます。結構重いですね」

「何ですかね?これ?配達員さんが届けてくれるでもなく、事務所の玄関の前にポンて置かれていたんですよ」

「うーん、何ですかね?」

 まさか爆発物……なんてことはないと思うけれど。この仕事をしていると、誰かの敵にならなければならないこともある。この仕事に就く前は、「弁護士は正義の味方だ」なんて勘違いしていたこともあった。むしろ逆になることさえもある。先日のマリンダさんの相談で言えば、「殺人事件の犯人側」の弁護をしなければならないことだってある。マリンダさんの相談内容を借りれば、夫を殺したという勇者を弁護することが仕事になることだってあるんだ。

「勇者は、人間たちの権利を守るために戦いました。仮に殺人罪が成立するとしても寛大な処分を」

 そんな弁護をする弁護人たる弁護士は、勇者に恨みを抱いている遺族たちからすると、敵でしかないだろう。敵の味方は、やっぱり敵だ。


 そんなわけで、時に誰かに恨まれてしまうこともある弁護士という仕事だが、今誰かに殺意を抱かせてしまう程恨まれているかというと……心当たりがない。

 木箱は重いけれど、ちょっと上下左右に振ってみる。


 ゴトゴトッ

 ゴロンゴロン


「何か、中身が中で転がっているような感触がありますね」

 続いて、箱に耳をあててみる。

「音は……しませんね。爆弾だったら秒針の音かなんか、しますよね」

「先生、心配し過ぎですよ。そういうとこ、ちょっとかわいいですよね」

「か、かわ……??」

 松井さんは、廣田先生ともう30年以上も一緒に仕事をしているベテラン事務員さんだ。年齢も60代で、おれの母と同じくらいだったと思う。松井さんからしたら、おれなんて「先生」と呼ばれていても、子どもみたいに見えているのだろう。

「私は、わからないですけど、開けても大丈夫だと思いますよ」

「ええ!根拠は……」

「うーん。ベテラン事務員の『カン』ですかね。フフッ」

 松井さんは、この業界で、おれよりはるかに経験を積まれている。心配事の大半は起こらない、というやつだろうか。


「わかりました。じゃあ、開けてみますよ」

「工具持ってきますね」

「工具?」

「これ、結構釘とかでしっかり閉じられているから、手じゃ開けられませんよ」

「ああ、確かに」

 松井さんがもってきてくれた工具を使って、木箱の釘を抜いていく。

「こんな作業、なかなかやらないですよ」

「薗木先生、頑張ってくださいね」

「はい……」

 慣れない作業で悪戦苦闘したが、釘を4~5本抜いてみると、何とか木箱を開けることができた。


 中身は……

「あら、林檎ですね」

「ええ、ただの林檎ですね」

「すごく美味しそう!」

「でも、ちょっと不思議な色ですね。赤い……けど、何かリンゴの赤とはちょっと違うような……」

「確かに。どこの品種でしょうね」

 林檎が赤いのは何もおかしなことではないのだが、普通の赤とちょっと違って、何というか……血の色みたいに赤が濃いのだ。

「あら、手紙みたいのが入っていますね」

「あ、本当だ」

「先生宛ての手紙みたいですよ」

「そうですね」

 手紙を開いて読んでみる。


「薗木先生へ


 先日は、ご相談を聞いて頂き、ありがとうございました。

 遅くなりましたが、御礼の品を贈らせて頂きます。

 人間たちから奪ったものではなく、今暮らしている人間の土地に移植して育てた魔界の林檎です。魔界の植物も、人間の土地で育つようです。この木たちが、私たちを繋ぐ架け橋になってくれればと願っています。

 お忙しいところと思いますが、御身体を大切にご自愛ください。

                            マリンダ」


 マリンダ……先日の相談者のマリンダさんか!

 あの相談は夢だったという脳内処理が進んでいたが、やっぱり現実だったのか?

 急にまた頭が混乱してくる。

 あの話が本当なら、マリンダさんは魔族で人間ではなくって……

 しかし、なんで読める字で書いてあるんだ??


「先生、お手紙にはなんて?」

 松井さんが手紙を横から覗いて見ている。

「あ、こ、これはっ」

「なんて書いてあるかわかりませんね。外国の人ですか?」

「え?」

 不思議なことに、松井さんには読めないらしい。おれには読めるのに?

「そ、そうですね。以前相談対応した外国の相談者からの御礼の品みたいです」

 その場はとりあえずお茶を濁してやり過ごす。

「よかったですね。先生。冷蔵庫に入れておきます?」

「は、はい。お願いします」

「召し上がるときはおっしゃってくださいね。工具は苦手ですけど、包丁は得意ですから、私が切りますよ」

「はい。ありがとうございます!」

 松井さんは何も知らないから普通の林檎だと思っているようだが……


 これ、食べて大丈夫なの???


 疑問符が頭に大量に湧いて出てくる。

いや、しかし、マリンダさんは魔族とはいえ、いや、本当に魔族かまだ100%確信はないのだけれど、いい人だったし、相談の感触も悪くなかった。手紙の内容も決して恨みつらみがあるようには感じられないし、この林檎が「人間と魔族の架け橋に」って願っていたみたいだし、「御身体ご自愛ください」って書いてあったし……

 でも、魔界の林檎???


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