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薗木異世界総合法律事務所  作者: 園木まさ
第1章 一人目の相談者 勇者に夫を殺された魔族の未亡人 -勇者に「ソンガイバイショウセイキュウ」できますか?

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第6話 勇者からの「回収可能性」は??

「慰謝料はだいたい私の国の考え方の相場でいくと、一家の大黒柱の方が亡くなった場合、2800万円ですね。ええっと、『円』というのがよくわからないと思いますけど、私なりの計算によると、2万8000ギロくらいということになります。合計すると、26万1330ギロくらいが、今回考えられる請求金額でしょうか」

「先生、ありがとうございます。それだけ請求できればきっと勇者たちを苦しめることができますね」

 先ほどの試算によると、2億5000万円を優に超える請求がどうやら考えられる。この金額は、マリンダさんの世界でも少ないものでないことはマリンダさんの反応からもうかがえる。でも、少し厳しい話もしなければならない。


「いや、でも、計算はできたのですが、そもそも請求できるのかどうかも考えないといけません」

「え、どういうことですか?」

 マリンダさんの顔が少し曇る。

「はい。ここからは少し厳しいお話もしないといけないのですけれど……」

「はい……」

「私たちが相談を受けるとき、必ず考えないといけないことなのですけれど、『相手からお金を支払ってもらえるのか』という問題です。我々の業界ではよく『回収可能性』なんて言い方をします」

「どういうことでしょう」


「はい。勇者たち一行というのは、それだけの大金を持っているのでしょうか」

「いえ、間違いなく持っていないと思います。だいたい勇者たちは、お金がたまったら魔族たちをやっつける装備や道具を買ってしまうでしょうし、手元にお金を貯めているということはほとんどないでしょう。それに、身に着けている装備だって、もうだいぶいいモノです」

「え?いいモノということになれば、お金になるのでは?」

「いえ、逆なんです。いいモノになるとだいたい『売れない』んだそうです。勇者たちしか使えないからでしょうね」

「ああ、そういう……」


 そういえばそうだ。ロールプレイングゲームで経験したが、だいたいそのゲームの最強装備とか大事な価値がありそうなイベントアイテムは「売れない」と表示される。マリンダさんの世界でも、つまりはそういうことなのだろうか。

「そうなると、仮に請求する権利があったとしても、それを実現するのは難しい、絵に描いた餅になってしまう可能性が高い、ということになってしまうんです。そういうことは、よくあるんですよ」

「……」


「私たちの世界でも、殺人事件というのは起きるんです。でも、その被害者遺族が民事訴訟をして、『お金』という形で十分な補償を得られることの方が少ない。誰かの命に見合うだけの賠償金を支払える資産を持っている人の方が少ないのが現状なんです。そういう人たちに、「内臓売ってお金にしろ」とか「死ぬまで働きまくって金を作れ」っていうのは、『法律』という土俵の中ではできないんです」

 そう。だからこそ、刑事裁判というのがあり、刑事罰という形で加害者には罰が与えられる。金銭的な賠償ではなく、「裁判の決着」とそれにともなう「刑事罰が科される」ことで被害者遺族たちは不幸にも起きてしまった出来事に精神的な区切りをつけるきっかけにする。もちろん、それがとても難しいことであること、そして、そんな簡単に割り切れないことも多いのは、わかっている。しかし、人間と魔族が争っているという世界で、そんな裁判があるとは到底思えない。裁判がない世界の中で、被害者遺族は、どのようにしてこの出来事に区切りをつけたらいいのだろうか。


「では、先生の見解では、勇者たちに『ソンガイバイショウセイキュウ』をするというのは、難しいということでしょうか」

「はい。法的な権利があることと、実際それを行使して、お金という形で罪を償わせるというのは、とても難しいことです」

「そうですか……」

「ところで、今、ご自身の生活はどうなのですか」

「え?」

「いや、先ほど『一家の大黒柱』という話もしましたが、ご主人が亡くなって、お子さんと二人で生活はしっかりできているのかな、と」

「はい。それは大丈夫です。ある人の御取り計らいで、住む場所も食べるものも準備して頂いていて、私も子どもも、実は生活には困っていません」

「そうでしたか」


 先ほどマリンダさんに伝えたとおり、殺人事件等が起きた際に、被害者遺族に加害者自身から十分な賠償が支払われることは少ない。だから、日本では、国が犯罪被害者等給付金を支給し、犯罪被害等を早期に軽減するとともに再び平穏な生活を営むことができるよう支援する制度がある。もし生活が大変という差し迫った状況があるのなら、そちらの世界でそういった制度はないのか探してみることを助言しようと思ったが、取り越し苦労だったようだ。

 しかし、こうなると、これ以上何か有益なアドバイスをできるかというと、それも難しい。


「ありがとうございます。先生。実は、私もそうだと思っていたんです」

「え?」

「私、夫が殺されて、勇者たちが憎いと思ったんです。でも、勇者たちに復讐とかするつもりは、最初からなかったんです」

「え、どういうことですか?」

「夫から生前、よく言われていたんです。『おれはいつか勇者たちと闘う。もちろん負けるつもりはない。でも、仮におれが負けて、死んでしまっても、決して勇者たちを恨んではならない。復讐しようと考えてもいけない』って」

「そうだったんですか」

「夫はわかっていたんです。どうして勇者たちが魔族と闘うのかを。人間も、私たちのことを恨んでいると思うんです。私たちは、たくさん人間から略奪したし、たくさん殺しました。だから、自分たちが奪って殺した分、自分たちも奪われても殺されても仕方ないって」

「そうでしたか」

「はい。だから夫は願っていたんです。『そういうのは、もう、自分たちで終わりにしよう。マリベルたちの生きる時代には、もう人間と闘う時代は終わって、手を取り合っている時代にしたい』って。ある時、夫は勇者たちと闘った時、勇者に問うたそうです。『お前たちの戦いの先に何がある。おれたちを駆逐した後、お前はどうするんだ』って」

「はい」

「勇者の答えはこうだったそうです。『おれたちで、終わりにするためだ』って」

「それって」

「そう。勇者たちの考えは、夫と同じだったんです。だから、夫は、きっと勇者たちのことを嫌いじゃなかったんだと思うんです」

「そうでしたか」

「それに、今、私たち親子が生活できているのって、実は勇者たちのお陰なんです」

「え!?」


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