第44話 弟子は根性なし???
「弁護士の先生 様
タンゾウの妻のフォリルです。タンゾウと弟子のコークスの関係について、もう少し説明しますね。
襲撃された町から連れ帰ったコークスですが、おそらく、本当の両親はその時の襲撃で亡くなっていました。まだ当時6歳くらいだったコークスにとって、親の死というのは、受け入れがたい現実だったと思います。行く当てもなさそうだったので、しばらくうちに置いていたんです。コークスは、いつもタンゾウの鍛冶作業を見ていました。何を想っていたのかはわかりませんが、毎日毎日、ずっとです。
ある日、ドワーフの村に人間たちがやってきました。ドワーフ族が作った武器を買いに来たお客さんたちですね。私とタンゾウは、コークスに言ったんです。
「人間が来たよ。あの人間たちと一緒に行くかい?」
って。そうしたらコークスは、「行かない。おれは剣を打ちたい。教えてくれ」って言ったんです。
その日以来、私とタンゾウは、コークスを我が子のように育てることにしました。もう子どもはできないとあきらめていた私たち夫婦に、本当の子どもができたような想いがしました。キャッ♡私とタンゾウの間の子どもだなんて♪ホントに嬉しかった!
コークスも、いつの日からか、私のことを「母さん」、タンゾウのことを「父さん」なんて、呼ぶようになりました。」
手紙で「キャッ♡」とか書くかな、普通……とツッコミを入れつつ……
「なるほど。ドワーフ一族は、子どもに事業承継をするのが慣行のところ、実子でないにせよ、自分たちの子どものようにコークスさんを育ててきて、鍛冶屋としての技術も教えてきたわけですね」
「……」
タンゾウさんは頷いている。
でも、急に何かを想い出したように表情が険しくなり……
「根性なし」
「え?」
「コークス、根性、なし!」
根深い何かがあったのだろうか。急にコークスさんのことを「根性なし」と罵り始めた。
そして、例によって丁寧に小さく折りたたまれた紙を差し出してくる。
「弁護士の先生 様
タンゾウの妻のフォリルです。たぶん、タンゾウがコークスのことを『根性なし』って言い始めていると思いますので、そのことについて、説明しますね。『根性なし』って言っちゃったらこの手紙を見せてね、と説明しています。
コークスは、もう20年以上にも渡って、タンゾウと鍛冶屋の道を共にしていました。教えられる技術は全て教え、私から見ても、コークスはもう十分鍛冶屋としてやっていけるだけの技術が備わっていると思います。
でも、ある日、人間の商人がうちの武器を買いにいらしたとき、こんなことを言っていたんです。
『ドワーフじゃなくって、人間が打った剣なら、もう少し安くていいだろう』
と。
その日、商人の方が手に取って購入しようとした剣は、コークスが打ったものでした。切れ味はもちろんのこと、その完成度、美しさ、タンゾウが認めた品でしたので、決してタンゾウの打ったものに劣るということはなかったと思います。でも、これを打ったのがタンゾウではなく、人間のコークスだとわかると、その人間の商人は、足元を見てきたのです。
タンゾウは激怒しました。絶対に値下げはしない。値下げして買うなんて客には、何も売らない。そう言っていました。タンゾウとしては、魂を込めて職人として作った物を値下げしろなんて言ってくること自体許せなかったのでしょう。それに加えて、コークスが打った剣を値切ってきたことが、自分のこと以上に許せなかったんでしょうね。コークスのこと、認めていますし、私たちの子ですから。
でも、コークスは違ったんです。ちょっと値下げしても、買ってくれるなら、と思っていたみたいです。それで、後日、ちょっと値下げした値段で、その商人に剣を売ってしまったんです。タンゾウがそのことを知ると、ふたりは大喧嘩になりました。それこそ殴り合いの大喧嘩で、止めるのが大変でした。
『職人が自分の魂込めて作った物を値引きするなんて、あいつは根性なしだ』と。
でも、そうやって怒りながら、こうも考えていたみたいです。
『早くおれの看板を引き継いでくれたら、値引きなんて応じない、力強い気持ちで鍛冶屋ができるのではないか』と。
それで、タンゾウは、早くコークスに鍛冶屋の『炎』を引き継いでやりたいのだと思います」
「なるほど、それで根性なし、ですか」
確かに、タンゾウさんの気持ちもわからないではない。せっかくいい物を作っているのだから、自信を持って商売をしてもらいたいのだろう。むしろ、認めている我が子の造ったものを値切りされそうになって、怒ってすらいたわけだから、自分のことのように、いや、自分のこと以上に悔しかったんだろうな。それにしても、フォリルさんの手紙の準備の周到なこと……何手か先まで見通して差されている将棋みたいだ。
「あいつ、足りない。『ここ』だけ」
タンゾウさんは、そう言いながら、しきりに自分の胸のあたりを叩いている。
「なるほど、あとは『根性』があれば、立派に鍛冶屋を引き継げる、そういうことでしょうか」
「……」
タンゾウさんは頷いている。
しかし、今時「根性」って言うと、若者が一番嫌いそうな言葉だな……
つい最近になって、おれもようやく廣田総合法律事務所から独立する決意をしたわけだが、廣田先生から「根性なし!」なんて言われていたら、たぶんさらに独立するのが、いや、独立しようと決意するのが逆にさらに遅くなっていたような気がする。
もしかして、この相談の「キモ」はこの辺りにあるのかもしれない。そうだとすると、逆にコークスさんの考えを知りたいところだ。




