第43話 火が付くきっかけ??
「タンゾウさん。だいたい話はわかりました」
「……」
「手紙に書いてあったことから整理すると、お弟子さんがいるんですね。そのお弟子さんはコークスさんというお名前」
「……」
「コークスさんに鍛冶屋の事業を引き継いでほしいけど、なかなか引き継いでくれない、ということですね」
「……」
タンゾウさんは、うんうんと頷いている。
「私たちの世界でも『事業承継』という問題はたくさんあります。特に中小零細企業という、それほど大きくない規模感の事業者は、経営者の高齢化という問題が起きていて、引継ぎの相手を探すのに一苦労しています。これに近い問題のように聞こえますね」
「……」
「手紙の中にあった『ショユーケン』という言葉ですが、これは『所有権』のことでしょうかね。その物を支配する権利というのを私たちの世界では『所有権』といいます。鍛冶屋として使っている道具とか設備とか、それこそ、その鍛冶場の場所とかの所有権、それに顧客名簿とかノウハウとか技術情報といったものも含めて、事業に必要な資産や権利などをまとめて引き継いでいくのが、事業譲渡という方法になりますね」
「どう、すればいい?」
「事業を引き継ぐ方法は、いくつかあるのですが、いずれにせよ、事業を渡す側が『渡す』という意思表示をするだけでは足りないんです」
「???」
「引き受ける方が『引き受ける』という意思表示もしないと、事業は引き継ぐことができないんです。だから、私たちの世界でも、先ほど説明したように、事業の引き継ぎ手を探すのに苦労して、事業承継がうまくいかないということが増えているんですよ」
「そう、なの、か」
「そうです。なので、まずはタンゾウさんとコークスさんがどういう関係なのか、もう少し教えて頂きたいですね」
「おれ、ドワーフ」
「はい」
「コークス、弟子」
「はい」
「でも、人間」
「え!?」
「コークス、人間」
「コークスさんは、タンゾウさんたちドワーフ、フォリルさんたちエルフとも違って、人間ということですか?」
「……」
タンゾウさんがまた丁寧に折りたたまれた紙を差し出している。これを読めということか。
「弁護士の先生 様
タンゾウの妻のフォリルです。タンゾウと弟子のコークスの関係について、説明しますね。
私とタンゾウの間には、実は子どもがおりません。もちろん、子どもは欲しかったので、色々と頑張ったのですが、残念ながら子宝に恵まれませんでした。愛にも、超えられない壁があるんですね……でも、私はタンゾウと一生ふたりでも、平気♡だから全然落ち込んでなんていないし、むしろふたりでも幸せです♡
でも、ドワーフの鍛冶屋は親から子へ受け継いでいくのが本来の姿です。子どもがいない私たちは、鍛冶屋を引き継ぐことができませんし、タンゾウも、自分の代で、これまで代々続いていた鍛冶場は閉めようと考えていました。そんなある日、タンゾウが打った最高級の剣を人間の町に売りに行っていた時のことです。その町が、魔王軍の襲撃に遭いました。率いていたのは、魔王軍四天王のひとり風塵のスキュラ。四天王自ら率いる軍は強く、その町はあっという間に壊滅してしまったのです。そして、その時、タンゾウが逃げ遅れた人間の子どもをひとり見つけました。タンゾウは、その子を抱きかかえて、ドワーフの村に連れ帰りました。その子が、コークスだったのです」
なるほど、そういうことだったのか。相変わらず妙なのろけと「♡」が入っているのが無性に気になる手紙だが、タンゾウさんとコークスさんの間がちょっと特殊な関係であるということはわかった。
それに、魔王軍四天王のひとりの名前がまた登場してきたな。これまで黒炎のガロン、水麗のセーヌ、そして今回風塵のスキュラというのが出てきた。たぶん、あとひとりいるんだろう。今回の相談とはあまり関係はなさそうだけれど。
「コークスさんは、ドワーフ一族ではなくて、人間なんですね」
「……」
「その後、ドワーフの村で、あなたとフォリルさんとで、自分の子どものようにコークスさんを育てることになった、そういう流れでしょうか」
「……」
タンゾウさんは頷いている。
「その後のコークスさんとの関係についても、教えて頂けますか」
「……」
タンゾウさんは、続きのことが書いてあると思われる綺麗に折りたたまれた紙を差し出している。さて、その後、助けた子との関係はどうなっていったんだ?
「弁護士の先生 様
タンゾウの妻のフォリルです。それじゃあ、私とタンゾウの馴れ初めについて、説明させて頂きますね♡
あれは、私が初めてドワーフ族の村を訪れた時のことです。私は、姉に連れられていました。姉は、エルフ族のナイトで、ドワーフ族の打った剣をいつも使っていました。以前使っていた剣が魔王軍との闘いで折れてしまったので、新しい剣を打ってもらいに来ていたのです。そして、姉は『ちゃんと作り手の顔と、そしてモノづくりのプロセスを見て、物を使いたい』という考え方でした。だから、その日、ドワーフ族の仕事ぶりをつぶさに見学していたのです。私も、後学のためということで、姉と一緒に剣の製造工程を見学していました。
いよいよドワーフが精魂込めて鉄を打ち込む!という場面になったその時です、ハンマーで鉄を打った際の火の粉が、私の方目掛けて飛んできました。私は、咄嗟によけようと思ったのですが、間に合いません。あ、火が当たったと思ったその時です!誰かの優しい腕が、火の粉から私を守り、炎を避けることができました。
『嬢ちゃん……ヤケドするぜ』
小さくて低くて、渋い声がしたのです。そう。それが、私とタンゾウとの出会いでした。その、小さくて低くて渋い声と、その言葉に、私の心はすでに大ヤケドでした♡」
うん……ええっと、馴れ初め?
これは、何か違うやつじゃないか?
タンゾウさん、渡す手紙を間違っちゃったんじゃないか?
「わー、何か素敵な出会い方ですね」
城石さんはなぜか嬉しそうだ。
なんやかんやで女子はそういう話題が好きなのか……
「タンゾウさん、これ、今渡すので合ってます?」
「……」
手紙の内容を確認したタンゾウさんの顔がみるみる赤くなる。
今にも火が付きそうだ……
「……」
小さく丁寧に折りたたまれた違う紙を差し出してきた。
さっきのは……見なかったことにしよう。
フォリルさん、なんでそんな話まで書いているんだろう……




