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薗木異世界総合法律事務所  作者: 園木まさ
第9章 五人目の相談者 鍛冶屋ドワーフの事業承継 ―炎の「ショユーケン」を譲りたい

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第42話 「炎」の「ショユーケン」を譲りたい

「初めまして。弁護士の薗木真人(そのきまさと)と申します。本日はよろしくお願いいたします」

 相談室に入ると、今度のご相談者は、身長が少し低めで、ひげは長く、体型はずんぐりむっくりだが、腕は太く、いかにも力仕事をしていそうな方だった。


「こちらは、うちの事務所の事務員の城石といいます。今日は同席させて頂きますね」

「城石です。よろしくお願いいたします」

 法律事務所の相談に事務員が同席するかどうかは、その事務所のスタンスによる。あくまで弁護士のみで相談対応に当たるという事務所もあれば、事務員も補助的立ち位置で同席するという事務所もある。なお、今回は城石さんが「ぜひ同席したい」ということだったので、同席させている。まあ、勉強にもなるだろうし、前回のオーランさんのときのように、何か有益な視点からの助言もできるかもしれない。


「……」

 それにしても、先ほどからこのご相談者……

「……」

 一言もしゃべらない!

 なんでだ!?

 何かしら困っていることがあって、相談にいらっしゃったんじゃないのか?


「ええっと、早速お話をうかがおうと思うのですが……」

「お……」

「え……」

「お、おれ」

「はい」

「ドワーフ」

「は、はい」

 あ、やっぱりドワーフ族なんだ。城石さん、よく初対面なのにわかったな。

 そして、この方、見た目の小さいけど強そうな印象に反して、話し声はとても小さくて聞き取り辛い。もうちょっと豪快な感じのしゃべり方をしそうなもんだけど、人は見かけによらないものだ。

「カジヤ」

「か、かじ、や??あ、カジヤさん。お名前でしょうか」

「(先生、先生)」

 城石さんが耳打ちする。

「(たぶん、やっぱり「鍛冶屋」さんなんだと思いますよ)」

「(なんでそんなことわかるのさ?名前じゃないの?)」

「(いや、ドワーフといえば、鍛冶屋なんですよ。異世界の『常識』です)」

「(あ、そうなの?)」

「(そうです!)」


 なるほど、職業が鍛冶屋ということか。鍛冶屋と言えば、刀を打つイメージだ。しかし、今時、鍛冶屋さんなんて、こっちの世界ではだいぶ珍しい職業だ。だって、刀なんてもうほとんど作られていないはずだからね。でも、なんでドワーフだと鍛冶屋なんだ?

「おれ、鍛冶屋。タンゾウ」

「タンゾウさん!初めまして。よろしくお願いします」

「よ、よろしく……」

「今日はどういったご相談になりますか」

「『ホノオ』、わたしたい」

「え、『ホノオ』というと、火、ファイヤーのことですか?」

 タンゾウさんは首を縦に振っている。どうやら「炎」を渡したいということのようだ。

まだ何のことやらよくわからない。

「ええっと、燃えている『火』を渡したいということですか」

「「渡したい」

 そう言うと、タンゾウさんはしきりに自分の胸のあたりに拳をドンドンと当てている。

「あいつ。これ受け取らない」

「『あいつ』?あいつとは、誰のことですか?」

「コークス」

「あ、『コークス』……さん?その人がご相談の相手になる、炎を渡したい人?」

「おれ、しゃべるの……下手」

「え、あ、ええ」

 うん。確かに、タンゾウさんは、あまり人と話すのが上手そうではない。

その話し方と声のトーンからして、それは十分過ぎるほどすでに伝わっている。

「かあちゃんが、これ」

「え、母ちゃん?お母さんですか?」

「ニョーボウ」

「え?」

「(先生、先生)」


 またしても城石さんがひそひそ話しかけてくる。

「(田舎の方では、奥さんのことを『お母さん』って呼ぶの、割と普通ですよ。うちの田舎の方もそうですもん。タンゾウさんも奥さんのことを『母ちゃん』て呼んでいるみたいですね)」

「(え、そうなんだ。知らなかった!母ちゃんといえば『お母さん』以外普通思いつかないでしょ)」

「(そんなことないですよ!)」

 ああ、そういうもんなんだ。で、その「母ちゃん」ことタンゾウさんの奥さんがどうしたのだろうか。

「……」

 タンゾウさんは、小さく丁寧に折りたたまれた紙を差し出している。

これを読めということだろうか。


「弁護士の先生 様

 

 初めまして。タンゾウの妻のフォリルと申します。夫のタンゾウはドワーフ族で、鍛冶屋を営んでおります。ご存知のとおり、ドワーフ族の鍛冶屋は職人気質の者が多く、口下手が多いのが特徴です。そういったところがちょっとかわいくって、私もついつい恋に落ちて、結婚してしまったのですが……♡

そういう私は、エルフ族です。エルフとドワーフの結婚は珍しくありませんよね。エルフ族の女性がドワーフ族に恋してしまう理由で、一番多いのが『かわいい♡』って思っちゃったってことらしいですね。私もそのひとりです♡

 今回、タンゾウが相談したいのは、弟子のコークスのことです。ドワーフ族の鍛冶屋は、自分がその仕事を終え、誰かに鍛冶屋を託す時、その使っていた道具一式と、その鍛冶場で使っていた『炎』を受け継ぐのが代々の習わしです。タンゾウもそろそろこの儀式を行いたいと思っているようなのですが、肝心のコークスが受け入れてくれていないのです。そんなことで悩んでいると、風の噂で「ショユーケン」というのを渡せば、誰かに何かを渡すことができるという話を聞いたのです。それが今回の相談したいことになります。

 そして、口下手でちょっとかわいらしい♡夫のタンゾウに代わり、私が書いたこのような事情を説明するお手紙をいくつか持たせております。必要な際は適宜ご活用下さい」


 なるほど。そういうことだったのか。だいたい話の筋は合点がいった。

 さすが職人の妻だな。フォリルさんとやら、準備が周到じゃないか。

 しかし、微妙なのろけ話が入っているのは……何なんだ?

 「♡」が多くない?


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