第37話 金と企業秘密の新商品と
「薗木先生、また木箱が届いていますよ」
事務員の松井さんが教えてくれる。きっとノモイさんからの御礼が届いたに違いない。
「はい。ありがとうございます」
「何かビンみたいのが入っているような気がしますね」
「あ、そうですか。ビン?」
「はい。何でしょうね。日本酒か何かですかね」
確かに、木箱の隙間から中を覗いてみると、ビンのようなものが入っているように見える。サイズ的には、本当に日本酒の300mlくらいのミニボトル程度の大きさだろうか。
工具を使って開けてみると、手紙が添えられていた。
「弁護士 薗木真人 先生
先日は、ドラゴンの事故について、ご相談にのっていただき、ありがとうございました。早速、先生に教わった『カシツワリアイ』の考え方にしたがって、ロベールくんと話し合いをしてみました。ぼくは最初、ぼくのドモンちゃんが悪いといっても10%くらいだろうということで、9000ゴルドの支払いを求めました。するとロベールくんは、『いや、お互い様だからせめて五分五分、50%だろう』と言ってなかなか譲ろうとしませんでした。そこで、それじゃあ、10%と50%の間を取って、30%でお互い妥協しないかと話して、それで決着が着きました。結局、先生のおっしゃったとおり、7000ゴルドで手を打つことになりましたね。
ぼくとしては、そんなに悪くない解決だったんじゃないかなと思います。本当にありがとうございました。
さて、その後のぼくの商売のことをちょっとお伝えしますと、プニョンと一緒に開発した顔パックですが、貴族や王族の特に女性から大人気となっています。いつも品薄状態なので、プニョンに頑張ってもらっていますが、プニョンの薄皮を切り出して作るという特殊な製法の関係で、なかなか量産することができず、高額で売れるけど、量産はできない、というジレンマに陥っていますね。でも、利益率はとてもいいし、この商品のお陰でうちの知名度もどんどん上がっているので、直接目に見えない効果も期待できそうです。
せっかくなので、顔パック以外の商品も何か作れないかと思い、次に思いついたのが『触れる者全てを癒す肌ドリンク』ですね。お肌を癒すだけじゃなく、身体の中から癒して活力が出るものも作れないかと思い、開発しました。製法は、企業秘密ですが、飲めばそれだけで疲れが吹き飛び、3日は寝ずに仕事ができるくらい元気になれます。先生も日ごろの業務でお疲れでしょうから、ぜひ一度お飲みください。
それと、先生から教わった『ホケン』の制度についてもちょっと考えています。冒険者は、依頼を受けるたびに報酬の5%を『ホケン金』としてギルドに預ける。
その代わり、冒険中に死亡したり大けがを負った場合に一定額が支払われる。そんな仕組みが作れたら、常に危険と隣り合わせの冒険者たちの助けになるし、それの取扱いをぼくができれば、新しい商売にもなるような気がしています。これについても、また必要な際は相談させて下さい。
ノモイ 」
「ノモイさん、すごいな。本当に保険会社第一号になるかもしれないぞ」
実際そうなったら、リーガルチェックというか、制度設計について法律的なサポートは必要かもしれない。保険法とかももっと勉強していかないといけないかもしれないな。
それに、プニョンさん、魔王軍に「解雇」されてから、いよいよ本格的に人間のノモイさんと一緒に新たな道を歩んでいるようだ。種族や人間と魔族の対立を越えた新たな挑戦とも言うべきか。自分の相談がきっかけでそういう道が開かれたのだとすると、何だか誰かの役に立てた気がして嬉しくなる。あんなに小さくて可愛いプニョンさんも新たな挑戦をしているのだから、おれも……負けてはいられない!
そして、このビン……
「要するに、栄養ドリンクみたいなもの、か?」
手紙と一緒に入っていたビン。開けてみると、妙に甘い匂いが香ってくる。アルコールは入っていなさそうだ。顔パックがあれだけ効果があったし、ノモイさんが新商品として売り出そうとしているものだから、きっと効果はあるのだろう。
しかし……
「製法は、企業秘密って……」
いったいどうやって作り出しているのだろうか……
顔パックはプニョンさんの薄皮を切り出していたらしいけれど……
汗、いや、おしっことかじゃないだろうな……
色々な想像が頭を駆け巡る。
「よし。今は辞めておこう。ホントにホントに疲れてどうしようもないとき、試しに飲んでみよう」
そんなことを考えていたら、再び松井さんから声がかかった。
「薗木先生、廣田先生が帰ってきましたよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
そう。今日は、廣田先生に、ある重大な決意発表をするつもりなんだ。先日、貴金属買取店に行って、オーランさんから頂いた金の価値がわかって、資金的な目途が立った。そして、スライムのプニョンさんが「解雇」という悲劇を乗り越えて、新たな道を進み始めている。このことは、おれにも大きな勇気をくれた。だから「あのこと」について、ついに動き出すことに決めたんだ……




