第36話 異世界法律相談に訪れる方法???
「いやぁ、先生、色々勉強になりましたよ。本当にありがとうございました」
「いえいえ、参考になったなら、よかったです」
「特に『ホケン』の話。面白いですねぇ。いやぁ、そんな仕組みがあるなんて。うちの商材にできるか、ちょっと考えますよ」
「はい」
日本では、保険の仕事をしようとすれば、必要な資格を取得しなければならないはずだ。でも、そもそも保険という概念がない世界であれば、どうしようと自由なはずだ。異世界保険会社第一号ということになれば、本当に儲かるんじゃないか?それこそ念願の飛竜が買えるほどに……
そうなったら、顧問弁護士にでもしてもらえるだろうか。そうなれば、事務所経営は安定しそうな気もするが……
「それじゃあ先生、ここら辺で失礼しますね」
「はい。私からも少しうかがってよろしいでしょうか」
「え、ああ、いいですよ」
「うちの事務所のことは、その、スライムから教えてもらったという話でしたね」
「ええ、そうですよ。プニョンっていうスライムでした」
ああ、やっぱり。ここで初めて名前を確認した。プニョンさんがおれのことを紹介してくれていたんだ。
「ああ、プニョンさん。あの方もうちにいらっしゃってくれたことがあったんですよ」
「そうそう。それで、さっきの事故のことで悩んでいたら、『ホーリツジムショに行って、先生に相談するといいぷにゅ』って言って紹介されたんです」
「そうでしたか。それで、その……うちの事務所に来るときは、どうやって?」
「え、ああ、そうですね。プニョンに案内されて行くと、『ホーリツジムショ』って書いてある建物がありまして、そこに入りました」
「そうなんですか!?」
何だそれは?そんなの、もちろん何の心当たりもない。そもそも異世界にどうやって法律事務所を構えたんだ?誰が、何のために?そして、どうしてそこからうちに繋がるんだ?
「で、その中に入ったら、3つの約束事が書いてあったんです」
「3つのお約束?」
「はい。一つ目は、相談を受けてくれる人がいるので、その人のことは『先生』と呼んで、敬意を払うこと、でしたね」
「え、ああ、そんなことが」
それで皆さんおれのことを「先生」と呼ぶのか。確かに、謎のひとつが解明された。
「はい。次は確か『相談を聞いてもらったら、しっかり感謝し、御礼をすること』ですね」
「ああ」
「はい。その御礼というのは、もちろん言葉でもそうなのですが、御礼の品まで贈る方がいい、ってプニョンが言っていました。ですので、私も後日、何か贈らせて頂きますよ」
「そ、そうなんですか。ありがとうございます」
なるほど、それで木箱に入った御礼が毎回届くのか。
「3つ目は、良心に従って真実を述べ、何事も隠さず、偽りを述べないこと、でしたね」
「ああ……」
何か聞き覚えのあるフレーズだ。ちょうど、裁判所で証人尋問が執り行われる際、嘘はつかないと宣誓する文言とほぼ一緒じゃないか。
「それで、その3つの約束を守るという誓約書に署名するんです。そして、その誓約書を読み上げると、いつの間にかこの扉の前に来ていました」
「そういう仕組みなんですか」
「そうですね。先生はご存知なかったのですか?」
「はい。皆さんどうやってうちにいらっしゃるのかが、謎でして……」
「え!そうなんですか!?てっきり先生がそういったルールを作っているのかと」
「あ、いや、私はそこ、何も知らないんですよ」
「そうなんですか。確かに、私の暮らしている世界と、先生の世界、だいぶ違うみたいですもんね。『ホケン』とか『クルマ』とか『シンゴーキ』とか、知らないことばっかりでした」
「はい。でも、そちらの世界から人間の方がいらっしゃったのは、初めてでしたので、私も色々知れてよかったです」
「そうですね。同じ人間同士ですので、今後ともよろしくお願い致します」
「はい。こちらこそ」
「今後ともよろしくお願いします」ということであれば、異世界第一号保険会社の顧問弁護士、もしかしたらあるのか……?いや、変な妄想と期待はやめておこう。保険の仕組みを実際にゼロから作るなんてことになったら、相当大変だし時間もかかるはずだ。
「それじゃあ、私はそろそろ失礼しますね」
「あ、帰るときは、どうやって帰るんですか?みなさん不思議な帰り方をされるもので……」
「ああ、それも、最初に書いてありましたよ」
「ええ」
「『帰り方は自由』って」
「へ?」
自由って、なんだそれは!?
そんなんで帰れるのか!??
「あ、つまり、何か、帰ろうと思って何かすれば、帰れるっていうことじゃないかと」
「え、そ、そんなので帰れるんですか?」
「あ、はい。では、私の場合、『これをすれば帰れる』というのを決めておりまして」
「え、ええ?」
「これを使うんです」
「こ、これは???」
見覚えのあるゼリー状の手のひらサイズの物体をノモイさんが手にしている。
「はい。さっきお伝えした、スライムと一緒に開発した新商品ですね」
「え、ええ」
やはり「触れる者全てを癒す肌」のようだ。
「『これを顔に貼り付けたら帰れる』って念じてきましたので、たぶんこれで大丈夫じゃないかと」
「え、そ、そうなんですか???」
「はい。それじゃあ、やってみますね」
「はい」
「先生、本当にお世話になりました」
そう言いながら、ノモイさんは、「触れる者全てを癒す肌」を顔に貼り付けた。すると、ノモイさんの身体は、全身が水のようになって、その水が一瞬にして蒸発するようになって、消えていった。
「あ、え、ほ、本当に……」
どうやら、帰り方というのは、自分で決めて、その通りの行動をしつつ念じれば帰れるらしい。異世界からの相談者とはいえ、同じ人間だったので、色々教えてもらうことができた。
しかし、その仕組みを整えて、どうやってうちの事務所と異世界を繋いでいるんだ……そして、そんなことをしているのは一体……誰なんだ?
少しの謎が解明されると、さらなる謎が深まるのだった。




