第35話 ドラゴン同士の事故の「カシツワリアイ」は???②
「ええっと、これは、私たちの国で『交通事故』というのが起きてしまったときの考え方が書いてある本です。今回の事故状況、図で見るとこれに近くないですか?」
「ああ、そうですね。こんな感じです」
「赤い本」には、色々な事故が起きた際の状況が図示されている。今回は「信号機の設置されていない交差点」の中の「一方が明らかに広い道路の場合」の図を見れば良さそうだ。
「でも、先生……この文字みたいのが書かれた四角いのは何ですか?ドラゴンの形には見えないですけど、絵が下手なんですかね?」
「ああ、これは、私たちの世界では『車』と呼ばれているものですね。タイヤが付いていて、速く走る箱というか……まあ、乗り物ですよ」
「ははあ、そうですか」
「はい。では、『過失割合』について、考えてみますね。
「ノモイさんのドラゴン……ドモンちゃんが少し減速して、ロベールさんのドラゴンの方が減速していなかったとすると、基本の過失割合は、ドモンちゃんが20%、ロベールさんが80%となります」
「はい」
「事故があったのは、お昼ですか」
「はい」
「そうすると、夜間での過失割合の修正はないですね。どちらかが明らかに先に交差点の中に進入したという事情はありますか」
「いえ、だいたい同時にこの交わるところに入ったと思います」
「なるほど。では、『明らかな先入』での過失割合修正もないですね。どちらかのドラゴンが大型、という事情はありますか」
「いえ、どちらのドラゴンも通常サイズの陸上タイプですね」
「では、大型車による修正もない。続いて、交差点での見通しはどうでしたか。例えば、木があって見えにくいとか、そういった事情はありましたか」
「いえ、そういうのはないですね。木もなにもないところですよ。あそこは」
「そうですか。そうすると、ちょっと過失割合に修正が入って、ドモンちゃんが30%、ロベールさんが70%となりますね。普通は狭い道からの方が注意義務が多く課されるのですが、見通しの良さに違いがないと、ドモンちゃん側にも注意義務があるということで、10%の修正が入るというのがこの表の考え方です。他に、どちらかが悪いといえそうな事情はありましたか」
「うーん。そうだなぁ。ロベールくんのドラゴンは随分若いですけど、それは関係ないですか?」
「その点は、この表では考慮する事情にならないですね」
「え、でも、例えば人同士がぶつかった場合、若者と年寄りだったら、若者の方が謝りませんか」
「え、ああ、そうですね……」
む、確かにそうか……そう言われれば、ドラゴンは生き物だ。無生物である車で考えると車の新旧は関係ないけど、生き物の場合はどうなんだ?そうか、そういうことで、ノモイさん、しきりにドラゴンが若いとか、そういうところを気にしていたのか。
いや、でも、これが仮に馬だったとしても、若い馬の方が責任は重くて、年上の馬の方が責任が軽いなんてことはないはずだ。そこは考慮しなくていいはずだ。
「はい。そこは、こういった事故の場合はあまり考慮されないと思います。あくまで、私の国での考え方になりますがね」
「そうですか」
「他に何か、どちらかが悪いといえそうな事情ってありましたか」
「うーん。思い当たりませんね」
「そうなると、私の意見としては、今回の事故は、ドモンちゃんにも30%くらいは悪いところがあったのではないか、ということになります」
「うーん。なるほど」
「ですので、仮に被害金額が1万ゴルドだとしても、30%は引いて、7000ゴルドは支払ってよ、と伝えるのはいかがでしょうか」
「ああ、それくらいだったら、もしかしたらロベールくんも支払ってくれるかもしれませんね」
「はい。それに、必ずしも30%じゃなくてもいいと思います。あくまで、それは私の国の考え方であって、もし許してあげられるなら、50%でもいいし、逆に、そんなに引くのはちょっとな、と思われるのであれば、20%でもいいと思います。とにかく、全部責任取れ!という考え方から少しでも譲歩できるなら、それが話し合いの突破口になるかもしれませんね」
「なるほど。確かにそうですね。でも、最初から7000ゴルドとは言わず、最初は9000ゴルドくらいから話していきたいですね。商談する時も、最初からこっちの本音の金額は言いませんからね」
「そこは商人の交渉力でしょうかね」
「9000ゴルドって言って、それで支払ってくれたら儲けものですね。8000でもいいかな。いやぁ、先生、とても勉強になりましたよ。ありがとうございます」
「いえいえ、どういたしまして」
さすが商売人だ。知り合いの若者相手でも容赦はないらしい。怖い怖い……
「それと先生、ちょっとお尋ねしたいことがあるんですが」
「はい。何でしょう。私でお答えできることなら」
「さっき、『ホケン』って言っていたでしょう。あれの仕組みをもう少し教えてほしいですね」
「え、いいですけど。何でですか」
「いや、その、事故があったときにみんなで支える仕組みっていうのが、何かとても商売の気配がしましてね。商人の『カン』ってやつですかね」
「ああ、そういうことですか」
確かに、保険がない世界で、保険を売り始めたら、かなり儲かるかもしれない。だって、日本でも、「〇〇保険ビル」なんて、保険会社が保有しているビルはたくさんある。保険代理店もいっぱいあるし、保険は日本では「儲かる商売」のひとつかもしれない。そこに目を付けたとなると、やはりこのノモイさん、商売のセンスがありそうだ。
「それに、『クルマ』ってやつですか。タイヤが付いた箱っていうのも、どんなものなんでしょうか」
「え、ああ、それもですか」
「はい。先生から聞いた話、知らないことばっかりだったので、何かこう。興味が湧きますね」
「私でわかることでしたら……」
その後は、生命保険、医療保険、車の任意保険という保険の話から始まり、車とは何か、モータリゼーションという時代があったこと、その他諸々、多岐にわたる質問を約2時間に渡り受け続けることとなった……




