第33話 ドラゴン同士の事故の物損
「すみません、話がだいぶ脱線してしまいました。そろそろ本題に入りましょうか」
「はい。そうですね」
「ドラゴン。陸上タイプのドラゴンの事故ということでしたけど、どういった事故だったんですか」
「はい。ぼくが隣町で開かれたバザーに参加して、その帰り道のことですね。うちのドモンちゃんに荷車を引かせていたんです。ぼくも荷車に乗っていました」
「ド、ドモンちゃん……」
「はい。あ、ドモンちゃんっていうのが、うちのドラゴンのことですね」
「あ、なるほど」
ドラゴンに名前を付けるのがあちらの世界の慣習なのかな。こちらの世界でいえば、車に名前を付けているようなものか。そんな人はなかなかいないよね。やはり、機械と生き物の違いだろうか。
「急に若いドラゴンに乗った若者が飛び出してきて、うちのドモンちゃんにぶつかったんです。ぼくも衝撃でちょっと肘を打ったりしましたが、荷車から積み荷が飛び出してぐちゃぐちゃになってしまいました」
「なるほど、肘を打ったということでしたけど、お怪我は?」
「まあ、ちょっと打ったくらいなので、軽傷ですね。うちの妻が簡単な回復魔法を使えますので、それですぐ治る程度でした」
「お怪我がなかったのは、不幸中の幸いでしたね。その、相手の若者っていうのも?」
「はい。何かうまいこと着地したみたいで、怪我はしていないみたいです」
うまいこと着地?どうやって着地したのか疑問がないではないが、なるほど。この事故では、とりあえず「人損」はないらしい。交通事故の被害は、大きく分けると人が怪我をしたこと等による「人損」と、車が故障したりしたことによる物の損害、つまり「物損」に分けられる。今回は「物損」だけを考えれば良さそうだ。もしドラゴンが怪我などしていれば、それも「物損」ということになる。
「ドラゴン……ええっと、ドモンちゃんに怪我などは?」
「ああ、ドラゴンたちは丈夫ですからね。ドモンちゃんにも、相手のドラゴンにも、大きな怪我はなかったですよ。それに、ドラゴンたちは、回復力もすごいので、何か怪我があったとしても、もうすっかり治っているはずです」
「なるほど」
そうなると、今回の事故での損害は、ぐちゃぐちゃになったという積み荷だけ、ということになりそうだ。
「それで、事故の後、困っているというのは?」
「はい。積み荷がぐちゃぐちゃになってしまったんです。お酒や飲み物のビンは割れてしまってもう商品になりません。食品系や薬草なんかもちょっと凹んだり、傷んだりして、もう商品として販売するのは厳しいですね。その分買い取ってくれないと困る、と伝えているんです。あ、その若者っていうのは、実はうちのまちの近所のロベールくんだったんですね。それで、ロベールくんにちゃんとお金を払えって言っているんですけど『ぶつかっちゃったのはお互い様じゃないか』って言って、なかなか払ってくれないんですよ」
「なるほど。そのロベールさんとは元々知り合いだったんですか」
「はい。決して悪い子じゃないんですけどね。自分の責任を取ってくれないというか。それで困っています」
「確認ですけど、ロベールさんには、だめになった積み荷の代金全部を支払えと伝えている?」
「はい。今回、損をしているのは私だけですし、ロベールくんには何も損がありませんからね。金額でいっても、1万ゴルドくらいで、決して支払えない程高くはないはずです。それに、うちのドモンちゃんはそれなりの年齢のドラゴンですが、ロベールくんのドラゴンは随分若いですから」
1万ゴルドということは、だいたい10万円くらいか。確かに若者でも支払えないことはなさそうな金額だ。
ドラゴンが若いとかいうのは、何のことなんだ?
でも、何となく話の筋は見えてきた。
「わかりました。ちなみに、こういう事故に備えた『保険』は掛けていたりしますか」
「『ホケン』?なんですか、その剣は?」
ああ、やっぱり、あっちの世界に保険はないのか。何となくそうではないかと思っていたけれど。
「ああ、保険というのは、私たちの世界では一般的なんですけど、事故があった時に備えておくものですね。偶然に発生する事故に備えて、たくさんの人が掛け金というのを出し合って、それを資金として、不幸にも事故に遭ってしまった人に一定金額を給付するっていう制度ですね。だいたい保険が掛かっていれば、保険から補償金が支払われて問題は解決するのですが、今回は、それはなさそうですね」
「へえ。そんな仕組みがあるんですか」
「はい。私たちの世界では、保険会社というのがそれをまとめたり、売ったりしていますね。保険会社は結構儲かっているみたいですよ」
「ふむふむ」
「それでは、保険が使えないということになると、そのロベールくんがどのような責任を負うべきか。今回の事故の『過失割合』を考えてみたいと思います」
「『カシツワリアイ』?なんですか、それは」




