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薗木異世界総合法律事務所  作者: 園木まさ
第1章 一人目の相談者 勇者に夫を殺された魔族の未亡人 -勇者に「ソンガイバイショウセイキュウ」できますか?

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第3話 「ソンガイバイショウセイキュウ」とは?

「すみません。改めてお話をうかがいますね」

「はい。私も疑われたままでお話するのは嫌なので、すっきりしました」

 たぶん「何が疑われていたのか」「何を疑っていたのか」については、ふたりの間で随分と認識の違いがあったのだろうが、もうそこを追及するのは辞めることにした。この人の話に、まずは向き合ってみよう。

「殺されたというご主人のこと。殺されるに至る経緯から、もう少しお話いただけますか」

 いつもの法律相談とは違い、いつも以上に『背景事情』をよく探らないと何もアドバイスできない気がしたので、ご主人がどのような人だったのか、まずは掘り下げてみることにした。


「はい。夫は、黒炎のガロン様から与えられたバレル城で、仕事をしていました」

「仕事の内容は、どのような?」

「魔王軍の領地を広げるため、計画を練ったり、魔族や魔物を人間たちの村や町に派遣したりしていましたね。ガロン様から与えられた指令もあって、いつまでにどれくらい領地を広げないといけないか、というのをいつも気にしていました」

「そうなんですね」

 魔族や魔物を人間の村や町に派遣する……その村や町はどうなっちゃっていたんだ?そっちもそっちで犯罪ではないか、というところをツッコみたい気もしたが、そこを言い始めると相談者を責めなければいけなくなってしまうかもしれないので、抑えておこう。

 というか、四天王の黒炎のガロンとやらに人間世界でいうところの「仕事のノルマ」を課されていたみたいだ。いうなれば、中間管理職みたいなものか?目の前の人が本当に魔族かどうかはさておき、どこの世界も社会構造はあまり変わらないのだろうか。殺されたご主人も「一国一城の主」ではあったのかもしれないが、板挟みの精神状態に置かれていたのだと考えると、少々切ない。


「最初は順調にガロン様の指令のとおり領地を広げていたのですが、例の光の勇者一行が現れてから、急に仕事がうまくいかなくなり始めました」

「加害者の勇者一行が登場してきたんですね」

「はい。勇者たちは、夫の派遣した魔物や魔族をことごとく打ち破ってしまうんです」

「ひどいですね」

 私も人間側なので「ひどい」と言っていいのかどうか……村人たちから相談を受けたら勇者たちに「正当防衛」が適用されることを主張したくなる。いや、そもそも刑法の適用なんてあるのか?

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【参考条文:刑法】

(正当防衛)

第36条 急迫不正の侵害に対して、自己又は他人の権利を防衛するため、やむを得ずにした行為は、罰しない。

2 防衛の程度を超えた行為は、情状により、その刑を減軽し、又は免除することができる。

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「夫はいつも心を痛めていました。『あいつらを勇者たちの元へやったばっかりに』って」

 頷きながら耳を傾ける。魔族もまるで人間みたいじゃないか。

「夫も、覚悟はしていたみたいです。どんどん力をつけて、バレル城に迫って来る勇者たちと『いつか自分も戦わなければならないだろう』って。『いつまでも部下を派遣するだけじゃなく、自分が責任を取らなければならない』って」

「そうなんですね。責任感の強いご主人だったんですね」

「そして、ついに勇者たちが私たちの暮らすバレル城にやってきました。私たち夫婦には娘がひとりいて……」

「あ、お子さんもいるんですね」

「はい。私と娘は、危ないから避難するよう夫に言われていましたので、他の部下たちの家族と一緒に、バレル城から離れ、すぐ近くの洞穴に一時避難していました。私は、夫にも一緒に逃げようと言ったのですが、夫は『私はこの城をガロン様から任された主だ。一緒に逃げることはできない。マリベルのことは頼んだよ』と、最後、私に……告げたんです……」

「マリベルっていうのは、娘さんのことですか」

「はい……」

 マリンダさんは急に涙を流し始めた。夫との最後のやり取り……思い出してしまったのだろう。少し気持ちが落ち着くのを待つことにした。


「すみません、取り乱して……」

「いいえ。落ち着いたら、続きを」

「はい。もう大丈夫です。先生」

 初めて「先生」と呼んでくれた。ただ、この状況で「先生」面して偉そうなことを言えるわけもない。肉親を誰かに殺されたなんて経験、自分ではしたことがないのだから。ただ話を聴くことしかできない。

「夫が勇者たちに殺されたことは、バレル城陥落の報と共に、伝令の魔族から伝えられました。もちろん、私たちも覚悟はしていました」

「そうでしたか」

「今日ここに来て、先生にお尋ねしたかったのは……」

「はい……」

「私たちは、勇者たちに……」

「はい……」

「『ソンガイバイショウセイキュウ』はできるのでしょうか?」

「はい……はいぃ!??」


 何だかよくわからない世界観と言葉が並んでいたところに、急に法律用語がぶち込まれてきた。確かに「損害賠償請求」とおっしゃったように聞こえたけれど……聞き間違いじゃないよな?

「損害賠償請求ですか??」

「はい。勇者たちは、夫の命を奪っただけでなく、バレル城の宝箱を次々と開けて、宝まで奪っていきました」

「はい。それは……ひどいですね」

 確かに、それは窃盗罪にも該当し得る行為だ。そもそも勝手に城の中に侵入して来ているなら、勇者たちは住居侵入罪にもなるのか。しかし、ロールプレイングゲームをしたことがある者なら誰しも身に覚えがある行為ではなかろうか……

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【参考条文:刑法】

(住居侵入等)

第130条 正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、三年以下の拘禁刑又は十万円以下の罰金に処する。

(窃盗)

第235条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。

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「おまけに、勇者たちは、私たちの城を陥落させたことで、まるで英雄扱いされています。私たちから何もかも奪っておいて……どうしても許せない。そんなことを話していたら、風のうわさで、悪いことをした相手に『ソンガイバイショウセイキュウ』っていうことができて、こらしめることができるかもしれない、って聞いたんです」

「そ、そうなんですか?」

 ど、どこでどういう噂が出回ったんだ!?

 いや、話の流れを聴いている限り、おそらくマリンダさんは「損害賠償請求」が何なのかもわかっていなさそうだ。まずはそこから説明するか……


「損害賠償請求というのは、誰かに違法に損害を与えた者に対して、『お金を支払え』ということができる権利のことですね」

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【参考条文:民法】

(不法行為による損害賠償)

第709条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「それじゃあ、私たちは、夫を殺されたのだから、勇者たちにお金を支払わせることができるんですね!」

「ええ、確かにそうかもしれないですね」

「いくらくらい請求できるんですか!?」

「ええ、ええっと……損害賠償の計算式というのがありまして」

「教えて下さい!」

 損害賠償請求の計算方法は、その国の法律によって結構違ったりする。例えば、アメリカと日本でも、損害賠償の考え方は大きく違う。同じ案件でも、国が違えば計算される損害賠償額も異なってくるのだが、とりあえず日本法の考え方でいいのだろうか……



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