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薗木異世界総合法律事務所  作者: 園木まさ
第6章 廣田総合法律事務所の日常③

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第29話 インターンお疲れ様会③ 「法律」も物事を解決する考え方のひとつでしかない

「それじゃあ、ここにひとつ事情を追加するね。『お姉ちゃんは、実は1週間前におばあちゃんからみかんをもらって、弟に分けずにひとりで食べてしまっていた。弟はその時もお姉ちゃんだけ食べてずるい!』と言って泣いていた、とするとどうだろう?」

「その場合、今回は『弟に譲ってあげたら』って言いたくなりますね」

「そう。だいたいの人がそう考えるはず。でも、これは法律で物事を解決しているわけではない。何で解決しているんだろう?」

「ええっと、その方が『平等』って思うからでしょうか」

「そう。正にそのとおり。これはきっと、多くの人がそう思うであろう『公平の観点』で解決をしているわけだ。言ってしまえば、価値観だよね」

「はい。そうなりますね。確かに、物事を何でも法律的に考えたら正しい答えや解決が導けるわけではない、ですね」

「そう。多くの人にとって、人生で初めて経験する誰かとの争いは、『兄弟喧嘩』であることが多いと思う。その兄弟喧嘩でさえ、解決の方法は色々ある。だから、法律的な物事の考え方、あるいは法律そのものも、何か物事を解決するツール、考え方のひとつでしかない、っていう話だね」

「そんなこと、廣田先生のゼミで習ってたんですか?」

「うん。司法試験受験のときは『これ何の役に立つの?』って思っていたね。だって、試験じゃ絶対こんな考え方使わないからね。けど、実務に就くと、よくそうだなって思うし、実感したんだよね。弁護士は法律の専門家で、法律に従った答えを出すことが必要な時もあるけど、そうじゃない答えや解決に向けた考え方が必要になることもあるって」

「なるほど」

「さっき『不思議な』って言っていたあの相談も、思い返してみるとそうじゃなかった?」

「あ、そう言われてみれば……」


 そうなんだ。エルフのオーランさんの離婚相談も、法律論で考えれば、離婚する前提で、じゃあ親権者はどうするのか、財産分与はどうするのか、慰謝料は発生するのか、そういうことを考えなければならなくなる。でも、まだ離婚しないで済むのであれば、夫婦がいかに仲良くできるか、仲直りできるかが課題になる。そこでお伝えしたのは、夫婦関係が上手くいく秘訣「認める、讃える、そして忘れる」だった。これは廣田先生の受け売りだったわけだけど。

 それに、プニョンさんの解雇相談もそうだ。法律論で「解雇の有効性」を考えたら、結構厳しいように見えた。だって、敵である勇者に重大な情報を漏洩してしまっていたから。でも、幸い、プニョンさんの人生、いや、スライム生??を考えた時、魔王軍に戻ることだけが選ぶべき道ではないように思えた。他の道もあるかもしれないということに思い至れば、何も魔王軍に戻るためのいばらの道を進まなくていいはずなんだ。


「うん。そうそう。薗木くんにそう言ってもらえると、一緒にゼミで勉強した甲斐があるね」

「あ、先生、ありがとうございます」

 廣田先生、やっぱり起きてたのか!

 廣田先生が急に少し語り始める。

「歴史的に見ると、古くは秦の始皇帝の時代、儒家と法家の対立があった。儒家は徳治と礼による統治を重視し、法家は法と刑罰による統治を重視する思想だった。中国統一を果たした始皇帝は、法家思想による統治を実施したわけだけど、このことからも、法がひとつの『思想』であるということがうかがい知れるね」

「あ、な、なんだか難しい話になってきましたね」

「廣田先生は、歴史もめちゃくちゃ詳しいから、ホント、勉強の幅が広すぎますよ」

 ちょうど廣田先生が『難しい話』をし始めたころ、焼き上がった黒毛和牛がきれいに切り分けられ、目の前に並んだ。


「うーん、うまい!!」


 その後は、赤ワインを愉しみながら、少々難しいけれど懐かしさもある廣田先生の『講義』で、再度勉強させてもらいつつ、シェフの見事な手さばきで焼き上がったメインディッシュの「黒毛和牛フィレステーキ 80g」に舌鼓を打つこととなった。


「ボクの教えたこと、それだけ伝わってるわけだし、そろそろ薗木くんは独立してひとりでもできると思うよぉ」

「ははははは。そ、そうですよね。もちろん考えてますよ」

 デザートを食べるころには、やっぱりいつも通りのその話題になるのだった。


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