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薗木異世界総合法律事務所  作者: 園木まさ
第6章 廣田総合法律事務所の日常③

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第28話 インターンお疲れ様会② 廣田尚正ゼミ

 お疲れ様会は、美味しい料理とお酒もあって、和やかで楽しい時間となった。普段は3人しかいない事務所なので、インターン生の城石さんと別れるというのも名残惜しいものである。城石さんは、明後日から、一度実家のある福岡に帰省するらしい。

 メインディッシュの「黒毛和牛フィレステーキ 80g」がいよいよ登場する。シェフが肉の下ごしらえを始めたというところで、城石さんから懐かしいことが質問された。

「そういえば、薗木先生は、どうして廣田先生の事務所に?おふたりってどういう関係なんですか?」

「ああ、そういえば、話したことなかったっけ。去年のインターンの時は、あんまり話したことなかったもんね」

「そうですね。去年はずっと廣田先生に付いていたので、薗木先生の話、あまり聞いたことありませんでした」

「おれ、廣田先生がロースクールで教えていた時の、最後のゼミ生なんだよ。もうロースクールの仕事も退官されているけどね」

「あ、ロースクール時代から!」

「うん。それで、司法試験合格して、修習生になったんだけど、その時、司法業界がこんなに就職難だなんて知らなくってさ」

「え、私たちの間では、もう常識ですよ。みんな合格発表前から色々な事務所に顔出したり、もう内定決まっている人もいますよ」

「うん。そうそう。そんな生き馬の目を抜くような状態だなんて、知らなくって。修習始まってから慌てて就職先探し始めたんだけどさ。なかなか雇ってくれたり、置いてくれるところがなくって。それで、最後の最後に廣田先生にお願いして、いわゆる『ノキ弁』で机を置かせてもらったんだよ」


 弁護士になるためには司法試験という難しい試験に合格しなければならない。司法試験合格後は、1年ちょっとの司法修習といういわゆる研修期間があり、研修の総仕上げに通称「2回試験」と呼ばれる試験に合格して、晴れて弁護士の資格を得る。廣田先生が合格したころに比べて、司法試験の合格者が増えてしまったこともあり、現在の司法修習生は、悲しいことに就職難なのだ。あれだけ必死に勉強して何とか合格したのに、それだけでは生きていけないという業界だということを知ったのが、おれの場合、少し遅かったんだ。

「ああ、そうだったね。なんで薗木くんがうちにいるのか、もう忘れちゃってたよ。ぼく、もうそろそろ引退するつもりで、仕事はあまり引き受けないようにしていたんだけど、薗木くんが来ることになって。勉強のため、ちょっとだけ引退を先延ばししたみたいなところだねぇ」

「いや、ホント、先生には助けてもらいました。お陰様で、修習終わったばかりで右も左もわからないところ、色々教えて頂いて、助かりました」

「そうだったんですか」


「それに、廣田先生からロースクール時代に教わっていたこと、試験勉強ばっかりで目の前のことしか考えていなかったころはわかりませんでしたが、実務に就いたらすごくよく実感できることが多いですよ」

「え、どういうことですか?」

「そうだね。廣田先生のゼミで印象に残っているのは、『法律で何でも解決できるわけじゃないよ』ってところだったんだ」

「ええ!それってどういう?」

「うん。司法試験受験のときは、何でもかんでも法律論で答えを出すのが全てだった。というか、そういう試験だからね。そればっかりやっていると、ふと、当たり前のことを忘れかけていたっていう感じかな」

「私も、今、何でも『法的にはどうかな』って考えちゃいますよ」

「そうそう。司法試験受験生のときはそれでいいし、そういう頭になっているからね。そうだね。城石さん、兄弟はいる?」

「弟がいます」

「弟ね。それじゃあ、ものすごい簡単な問題なんだけど『弟とお姉ちゃんがみかんを取り合っています。双方の言い分は『私がおばあちゃんからもらった』というものです。さて、お母さんだったらどうします?』という試験問題があったら、どうする?」

「え、法律論で答えるんですか?」

「うん。じゃあ、法律論で答えてみようか」

「ええっと、みかんの『所有権』が最初におばあちゃんにあったことは、双方争いがない。おばあちゃんからお姉ちゃんと弟への『二重譲渡』があったということになりますね」

「そうだね。民法の初歩の初歩の問題。土地とか建物といった不動産だったら、第三者に所有権の取得を対抗できるかは『登記の先後』で決着が着く。でも、みかんは動産だから?」

「『引渡し』で決着が着くことになりますね」


◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

【参考条文:民法】

(不動産に関する物権の変動の対抗要件)

第177条 不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法(平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。

(動産に関する物権の譲渡の対抗要件)

第178条 動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


「そう。でも、現状、みかんはふたりの間の机に置かれている。そうなると、おばあちゃんに証人尋問をすることになるかな。おばあちゃんの答えが『両方にみかんをあげる』と言ってしまった。でも、肝心の『どっちに先に手渡しましたか?』については『うーん、忘れた』と証言している。そうなっちゃうと、もうお手上げだね」

「理論的には、そうなりますね」

「でも、そもそもこの議論、おかしいよね?」

「はい。そんなことしないと思います。2つに分けちゃえばいいと思います」

「うん。誰しもが思う解決策だよね」

「はい」


 廣田先生は、おれと城石さんのやり取りを「うんうん」と頷きながら聞いている。

 あ、いや……ちょっと眠そうなのかな?寝てるのかな?

 ふと鉄板焼きの方へ目を移すと、シェフが厚みのあるフィレ肉を鉄板に並べるところだ。ジュウッという音とともに白い煙が立ち上った。赤身だった肉の表面が、みるみるうちに褐色へ変わっていく。


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