第27話 インターンお疲れ様会① 合格発表までの間
「城石さん、インターンお疲れ様!ということで、カンパーイ!」
キンッ
「はい。今年も短い間でしたけど、ありがとうございました」
今日は城石さんの3週間のインターンの最終日だった。廣田先生の取り計らいで、事務員の松井さん、おれ、城石さんという事務所のみんなで慎ましい「お疲れ様会」を開催することになった。場所は廣田先生が、若いころからよく利用していたという事務所の近くのちょっと高級な鉄板焼店だ。もちろん廣田先生が全て奢ってくれるとのことだ。
各々注文した1杯目を飲み始めると、1品目も運ばれる。1品目は季節の前菜三種盛りだ。
「どうかな。うちの事務所でのインターンは、勉強になったかな?」
「はい。とっても勉強になりました!」
「そう。それはよかったねぇ。といっても、ほとんどぼくじゃなくって、薗木くんと一緒だったみたいだけど」
「はい。薗木先生からも、色々学ばせていただきました!」
「それはそれは。薗木くんも立派になったもんだねぇ」
「いやいや、そんな……」
「はい。何か、とても不思議な相談もありましたし、貴重な体験をさせて頂きました」
「不思議な」というのは、きっと異世界から来たエルフのオーランさんとスライムのプニョンさんの相談のことかな。結局、プニョンさん以降、「異世界」からの相談者は現れなかった。異世界からの来訪者かどうかに限らず、どんな相談者が訪れてくるのかは、弁護士の方から選べるわけではないし、こればっかりは「ご縁」ってやつだ。
「へぇ。『不思議な相談』って何だろう。ぼくも気になるねぇ」
「えーっと、それはですねぇ……」
「教えてもらえるなら教えてほしいなぁ」
城石さんが「どうしましょう?」という顔でアイコンタクトを求めてくる。
うーん、廣田先生なら話してもいいのかもしれないが、まあ、信じてくれるはずもないし、70代後半の先生とは、少々「ジェネレーションギャップ」というのもある。
「それは、守秘義務の関係がありますので……さすがの先生にも言えないかなぁ」
「あら、そうなの。うん、まあ、そりゃあそうか」
こういう時、日常業務から常に弁護士が負っている「守秘義務」(弁護士法23条)というのは便利だ。うちの業界の人間であれば、その単語が出たらそれ以上は詮索しない。
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【参考条文:弁護士法】
(秘密保持の権利及び義務)
第23条 弁護士又は弁護士であつた者は、その職務上知り得た秘密を保持する権利を有し、義務を負う。但し、法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
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「それはそうと、城石さんは、インターンの後はどうするの?司法試験、短答試験は通っていたんだよね?」
「はい。あとは論文試験も含めた全体の結果待ちですね。この後は、一回故郷に帰ろうと思っています」
「故郷っていうと、福岡だったよね」
「はい。ちょっと実家でのんびりして、またこっちに戻って、勉強したりちょっとアルバイトしたりしながら試験結果を待とうかと思っています」
「合格発表はいつだっけ?」
「〇月〇日です。あと2か月ちょっとですね」
「ぼくもそうだったけど、この期間は結構緊張するよね。もう50年くらい前になるのか。懐かしいなぁ」
いつの時代も、どんな試験も、結果が出るまでの間というのは、そわそわする。司法試験ともなると、人生を賭けた勝負でもある。自分でも経験したけれど、あの合格発表当日、いや、その何日か前からの緊張感は、忘れられない。
「薗木くんの時もそうだったみたいだけど、今の時代は合格発表って、インターネットなんだってねぇ。ぼくの時は、合格発表は掲示板だったよ。法務省の前の掲示板に見に行くんだ。今でも自分の番号を探したのを覚えているなぁ」
「薗木先生は、自分の合格発表、どうやって確認したんですか?やっぱりネットで?」
松井さんが話を振ってくる。そこは、正直ちょっと恥ずかしいエピソードがある。
「いや、私の場合、自分でネットで確認しようと思っていたんですよ。それで、その時間まで待機していたら、母から電話がかかってきたんですよ。『合格しているよ』って」
「え、そうだったんですか?」
「ええ。ネットでの開示より、確か30分くらい、掲示板の方が発表されるのが早かったんですよ、当時。今はどうかわかりませんが。それで、母が待ちきれなくて、自分で見に行っちゃったんでしょうね」
「ああ、私、お母さんの気持ち、わかるなぁ。それじゃあ、薗木先生自身は、自分で見てないんですか?」
松井さんは、確かに母と同じくらいの世代だ。母親というのはどうやらそういうものなんだろうな。
「あ、いや、一応その後自分で見ましたよ。一応『裏』は取らないとね。母からの電話で嬉しさの大半はもっていかれていたから、ネットで結果を見た時の感動はあんまりなかったですね。どっちかっていうと、『安心した』って感じだったかな」
「城石さんも、ぜひそうなるといいねぇ」
司法試験トークに花を咲かせていると、シェフ火を入れた鉄板の上で、海鮮料理をさばき始めた。メニューからすると、次は「帆立貝柱と旬野菜の鉄板焼き」らしい。シェフが海鮮料理に向けてパフォーマンスを始める。鉄板に落とされた帆立が、ジュウッと小気味よい音を立てる。表面に焼き色がつくにつれて、香ばしいバターの匂いがカウンターに広がった。




