第20話 凄腕冒険者エルフからの贈り物
「本当だ……」
「先生、これってもしかして?」
おそらく二人目の異世界からの相談者のオーランさんだ。城石さんとふたり、おれの執務部屋で箱の中身を詮索する。
「でも、今回は林檎の時に比べると、小さめの箱だね」
「そうですね。中身、何でしょうね?また果物でしょうか」
コツン
コツン!
木箱を拳で小突いてみる。特に反応はない。
木箱を上下左右に振ってみる。
カン
カンッ
中で硬い何かが木箱に当たっている感触がある。それに、大きさの割に妙に重たい。
「また、これ、なんでしょうね?」
「いや。まあ、開けてみるしかないよね」
木箱を開けようとすると、廣田先生の声がする。
「おーい。薗木くん、ぼくはもう帰るね」
「私ももう帰りますよ。事務所の戸締りお願いしますね。その箱の中身は、もう冷蔵庫に入れっぱなしにしないでくださいね」
「あ、はい。先生、松井さん。お疲れ様でした」
ふたりはもう帰るようだ。これなら、特に気にすることなく、木箱を開けられそうだ。
「じゃあ、開けてみるね」
「はい……」
例によって、工具を使って釘を抜いていく。何本か釘を抜いて、木箱を開けてみると、中から金ぴかの物体が……
「これは……?」
「金ぴかですね……めっちゃ高そう……これってまさか……」
「うお、重い!」
手に持ってみると、ずしりと重い。
これは、もしかして……?
「あ、先生。手紙も入ってますよ」
「あ、本当だ」
数枚の紙に記載されていた手紙。やっぱり、オーランさんからのものだった。
手紙には、こんなことが綴られていた。
「弁護士 薗木真人 先生
見習い シロイシヒカリ 様
先日、法律相談でお邪魔した、エルヴァーンギルド所属のエルフの冒険者オーランです。その節は、大変お世話になりました。あの後、先生にご助言頂いたとおり、教わった秘宝を試してみることとしました。
次の日にレイナの迎えが来るという日の夜のことです。私は妻のレイナにこう伝えました。
『キミと最初に巡り合ったのは、ふたりが魔法学校にいたころだったね。あの頃、私は、王女であるというキミに、なかなか声が掛けられなかった。でも、遠目に見ていて、力強さを宿したキミの瞳、気品のある立ち振る舞い、何となく気になる異性のひとりだった。数年経って、王様からの依頼で、魔女にさらわれたのがキミだと聞いたとき、何か運命のようなものを感じた。キミも運命を感じたって言ってくれていたけれど、実は私もそう感じていたんだ。魔女の館からキミを救い出した後、王様と喧嘩してまで、たったひとりで、私のエルフの村にやってきてくれて、嬉しかった。でも、私は、エルフの常識で考えて、キミと向き合って話をしていなかった。背中を預けてお互いのことを守っているつもりだった。でも、キミが望んでいたのは、そういうことではなかったんじゃないかと教えてもらったよ。思えば、私がひとりで魔女の館に乗り込んだ時と同じだったんじゃないかと思う。キミは、たったひとりで、私の村に飛び込んできてくれたんだ。私は、勇気をもって、命を懸けて闘うことが、いつの間にか当たり前になっていた。でも、最初から当たり前ではなかった。最初は怖かった。寂しいと思う時もあった。誰かに助けてほしいと思った時もあった。今のキミも、同じ気持ちなのかもしれないね。
今まで、言えていなかったこと、もしかしたら明日で『リコン』になってしまうかもしれないから、伝えさせてほしい。今まで、キミが大事な話しをしようとしていた時、いつも眠ってしまって、大きないびきをかいてしまって、申し訳なかった。そんないびきのうるさい私と、いつも一緒にいてくれて、いつも一緒に寝てくれて、ありがとう。キミからいびきがうるさいって言われたこと、少しショックだったけれど、もう忘れるよ。そして、明日、もしキミとリコンすることになっても、私はまた、キミと子どもたちを迎えに行きたいと思う。今すぐじゃなくてもいい。もし、キミが私を許してくれる時がきたら、手紙を下さい。私はいつまでもキミのことを待つ。そういう覚悟でいるよ」
手紙はここまでが1枚目だった。
一緒に読んでいた城石さんが声をあげる。
「こんなの……絶対また惚れ直しちゃうじゃないですかぁ!!」
「はは、そうだね。もう一回、レイナさんに、気持ちが届くといいね」
手紙は2枚目に続いていた。
「先生に教わった秘宝を使わせて頂くと、驚くべきことが起きました。レイナが涙を流しながら、こう言うのです。『ごめんなさい。明日、迎えが来るというのは、嘘だったの』と。レイナと向き合って、レイナの話を聞くと、城石さんと先生のおっしゃるとおりでした。『寂しかったのだ』と。
レイナの口から、村のギルドで起きたことを聞きました。そこでは『あなた、王女だったんだから、こんなところで仕事しなくていいんじゃないの?』と言われていたのだそうです。それを言われて、自分がまだこの村の一員として受け入れられていないと感じて、すごく悲しくなったんだそうです。それに、子どもたちも、他のエルフの子たちに比べて、少し非力なんだそうです。このままで大丈夫なのか、心配だったそうです。そういう話をしたかった、と。でも、いつも私は家で眠っているだけで、寂しかった、と。私は自分の不甲斐なさに気づくことができました。背中を預けるだけが結婚ではない。正面を向いて、向き合うことも大切なのだとわかりました。
幸い、私たち夫婦が『リコン』をすることは避けることができそうです。もちろん、レイナが「迎えが来る」なんて嘘をついていたことも、私はすぐに『忘れる』ことにしました。先生と城石さんには、大変お世話になり、大切なことを教えて頂きました。心より、感謝申し上げます。
そして、先生から大切な「秘宝」を教えて頂きましたので、それに見合うかはわかりませんが、御礼の品を贈らせて頂きます。
オーラン」
「オーランさん、離婚回避できたみたいだね」
「やりましたね。先生」
「うん。これで一件落着だ」
「何か、夫婦の危機を救うことができて、嬉しいですね」
「そうだね」
離婚の相談というのは「相手からいくらお金を取れるのか」とか「どれだけ慰謝料を取れるのか」というところが焦点になることも多い。でも、そもそも離婚しなくて平和に暮らせるのであれば、まだやり直しができる夫婦なら、そんな法廷闘争にならない方がいいはずだ。こういう離婚相談の着地点もあっていいと思う。
「それに、これ、絶対金ですよね?」
「いや、確かに重さの感触からするとそうかもしれないけど……」
「すっごい!!これ、売ったらいくらになるんでしょう?」
「一応、重さ、計ってみようか……」
事務所の炊事スペースから計りを持ってくる。
ドキドキしながら、その金色の何かを乗せてみると……
「173グラム……ですね」
「ええっと、今金の相場っていくらくらいだろう?」
スマートフォンでさっと調べてみる。
「1グラム……約2万2000円!」
「ってことは……」
計算する手が震える。
え、マジで……?
「約……380万6000円!?」
「先生!大儲けじゃないですか!」
「いや、金は売る時税金がかかるんだよ。確か」
「それにしたって、売値よりも税金かかることなんて絶対ないですよね!」
「いや、それもそうだけど、それ以前にそもそもこれが金かどうかなんて……」
「いや、このずっしりした感じ、絶対金ですよ!」
「城石さん、金持ったり触ったりした経験あるの?」
「もちろん、ありません!」
「いや、そうでしょ。おれもないけど」
これがもし本物の金ならば、売れば廣田先生から言われている「独立」に向けた資金になる。そうであるなら、こんなに嬉しいことはないのだが、そう安易にそんなうまい話を信じることはできない。この仕事をしていると、基本的にきちんとした「裏付け」がないことは信じないという心の習慣が身に付いている。
「あ、先生。何か、もう一枚手紙が入っていますよ」
「あ、本当だ」
「あ、これは、レイナさんからの手紙みたいですよ!」
これが本物の金なのかどうかは、もちろんもしかしたら今後のおれの人生を左右するかもしれない大きな関心ごとではあるのだが、ひとまずレイナさんからの手紙に目を通すことにした。何だかよくわからない「金ぴかの物」が届くのも珍しい出来事だが、普段、あまり相談者の「相手側」から感謝されることはない。これもまた珍しい出来事だ。レイナさんからの手紙には、次のように綴られていた。




