第14話 「リコン」の原因は……いびきがうるさい???
絵に描いたようなドラマチックな展開とハッピーエンドから、急転直下だ!
なんでそんなことになるのだろうか?
離婚に関する相談となれば、確かに法律相談だ。いよいよ相談の核心に迫ってきたようだ。
「そんな順調にいっていたのに、どうして?」
「はい。お尋ねしたかったのは、そもそも私たちエルフには、『リコン』というのが何なのかもわかりませんで……」
「え??」
「『リコン』って、いったい何なのでしょうか」
まさか、そこからか……
「あの、一回結婚して、別れるということはないのですか?」
「え!?私たちエルフは、そんなことはありません。一度結婚したら、一生添い遂げるというのが結婚です。別れるなら結婚じゃないし、夫婦じゃないですよね……」
「そ、そうなんですか」
なるほど、エルフというのはある意味ファンタジーの世界の住人だ。ファンタジーの住人とは、「理想が描かれた世界の住人」だ。理想の世界では結婚はあるけど離婚はないということか。ある意味、真理か?
「『離婚』というのは、簡単に言えば、やっぱり結婚をなかったことにして、お別れするっていうことですね」
「そ、そうなんですか!?え、まさか、レイナが私との結婚をなかったことにして別れたいと言っている。そういうことですか!?」
「はい。文脈としてはそうなりますね……」
「そんな、レイナがそんなことを言うなんて……」
だいぶショックを受けているようだ。心なしかオーランさんの纏っている光の粒子がだんだん薄くなっているような気が……
これは、仮に離婚するということになれば、エルフ界初の離婚事件ということになるのだろうか……それを担当することになったら、かなり荷が重そうだぞ……そんな話、おれに担えるのか……??
「離婚したいという理由については何ておっしゃっているんですか。レイナさんは」
「え、ああ、『リコン』というのがそんな意味だったとはつゆ知らず……」
「そうですね。だいたい『リコンする』って言う前に何か言われていることが多いと思うのですが……」
「ああ、それでしたら、ひとつ心当たりがあります」
「レイナさん、何ておっしゃってました?」
「それが、信じられないし、恥ずかしいのですが……」
「はい」
「『あなたのいびきがうるさい』と言って怒っていました」
「……へ!?な、何と……??」
「『あなたのいびきがうるさい』です」
「そんなバカな……」
「はい。私も自分のいびきがそんなにうるさいなんて、気づいていなくって」
「確かに、自分のいびきの音なんて、自分ではわからないですもんね」
こんなイケメンがそんないびきをかくのだろうか。
にわかには信じがたいし想像もできない。
「こんなことで、リコンだなんて言われて、私はどうしたらいいのでしょうか」
何となく、法律問題っぽくなってきた。法律的に考えると、「いびきがうるさい」というのが法律上の離婚原因となるのだろうか、ということだ。
「そうですね。これも、あくまで私の国の考え方でという前提にはなるのですが……」
「はい。先生のご見解を教えてください」
マリンダさんと同じく「先生」と呼んでくれた。この人たちには、おれが弁護士だということはどのようにして、そして、弁護士がどのような仕事だと伝わっているのだろうか……まあ、それはそれとして、法律的な見解を先にお伝えしてみよう。
「まず、オーランさんが離婚を受け入れるかどうか、が問題ですね。お気持ちとしては、いかがですか?あくまで今のお考えで構いません」
「リコンなんて、したくないです」
「そうですか。そうすると、『協議離婚』と言って、お互いが合意の上で離婚するというのは成立しませんね」
「はい」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【参考条文:民法】
(協議上の離婚)
第763条 夫婦は、その協議で、離婚をすることができる。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「続いて、法律上の離婚原因があるのかどうか、というのが問題になります。私たちの国の法律では、離婚するためには『こういう理由が必要』という理由が決められています。念のため確認しますが、オーランさんは、レイナさんに黙って浮気しちゃったりしたことはないですよね」
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
【参考条文:民法】
(裁判上の離婚)
第770条 夫婦の一方は、次に掲げる場合に限り、離婚の訴えを提起することができる。
一 配偶者に不貞な行為があったとき。
二 配偶者から悪意で遺棄されたとき。
三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき。
四 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「先生」
「はい」
「『ウワキ』というのは何ですか?」
「ええ!ああ、そうですね……」
そうか。離婚の概念がないエルフには、そもそも「浮気」という概念すらもないのか。ファンタジーの中の種族は誠実らしい。
「結婚しているのに、他の女の人のことを好きになってしまうってことですね」
「それは、ありませんね。そんなことあり得るんですか?」
「うん。はい。え、えーっと……エルフにはいないかもしれませんが、人間にはいるんですよ」
「そうです。人間の男には信用できない人もいるんですよ!」
「……」
なんか、妙にムキになってるな……
城石さん、男関係で何かあったのか……?
「そうなんですか……信じられない……」
「ええっと、話を戻しますね。今回の場合、『いびきがうるさい』というのが民法770条1項4号の『婚姻を継続し難い重大な事由』にあたるかどうか、という判断になります」
「はい。どうなんでしょう?確かに妻が眠れないのであれば、困らせていることになると思いますが……」
「はい。でも、おそらくいびきの問題は、呼吸の問題ですし、マウスピースをしたり、医学的な治療をしたりということで、直せる可能性が十分あると思うんです」
「ああ、そういえば、魔法学校にいたころ、医療魔法というのがあって、いびきの音を小さくする魔法があったと習った気がします」
「え、ああ、そんな魔法があるんですか?」
「はい。でも、あまり使う人は多くないレア魔法だったかもしれません。私の知り合いに使える人はいないなぁ」
「そ、そうなんですね」
魔法でいびきも直せるのか……でも、それはこちらの世界の医学でも対応できるはずだし、どっちが便利なのかはわからないね。
「でも、仮に治療が難しかったとしても、寝室を分けたりすれば、いびきのうるささには対応ができるはずです。そういう意味で考えると、婚姻関係を継続し難い重大な事由とまでは言えないと思いますね」
「そうですか」
「そうですね。そう考えると、今おうかがいしている事情からすると、オーランさん自身が『離婚はしたくない』と言えば、離婚は認められない可能性が高い、ということになると思います。あくまで、私に国の考え方ですけれど、法律上の離婚理由がないのであれば、ふたりが離婚に納得しなければ離婚は成立しない、ということになります」
「そうなんですね」
マリンダさんの相談のときもそうだったが、この回答でいいのだろうか。法的な回答としては間違っていないはずだけれど……
「でも、もうそんなに時間がないかもしれません」
「どういうことですか?」
「レイナの話によると、もう明日には『リコン』ということで、妻の国から迎えが来るらしいんです」
「えええ!!?」




