第13話 誇り高きエルヴァーンギルドの冒険者エルフオーラン
「オーランさん、でしたね」
「はい」
「実は私の事務所に今、インターン生という、司法試験の勉強、ええっと、私の仕事の見習いをしている子がひとりおりまして。本当はこういった相談に第三者が入ることはないのですが、この仕事の勉強のため、同席をさせて頂いてもよろしいでしょうか。もちろん、相談に関する内容については、私が責任をもって守秘義務、つまり、誰にも言わないという約束をさせて頂きます」
「ええ、構いませんよ。ちょっと恥ずかしい相談ではあるのですが……」
「大丈夫ですか?もし少しでも気になるなら、外させますよ」
「いえいえ、大丈夫ですよ。私も駆け出しの見習い冒険者の頃は、他の冒険者と一緒に経験を積ませてもらいましたし、大事なことです」
「ありがとうございます。城石さん、入っていいよ」
「はい。ありがとうございます」
「改めまして、弁護士の薗木真人と申します。こちらは先ほど話したインターン生、見習いの城石ひかりさんです。今日はよろしくお願い致します」
「はい。よろしくお願い致します」
「それでは、早速ですが、ご相談というのは?」
「はい。どこから話せばいいのか……こういったことは初めてなもので」
「はい。そうですね。まずは、私は何も言いませんので、ご自由にお話ください」
マリンダさんのときと同じだ。まずはこのオーランさんが「前提としている話」を受け入れるところから始めよう。
「そうですか。では。私のことから簡単にお話させて頂きますね」
「はい」
「私は、とあるエルフの村で生まれました。小さいころから冒険者になりたいと思っていて、念願叶って、誇り高き高名なエルヴァーンギルドに所属する冒険者になりました」
「そうなんですね……」
「エルヴァーンギルド」という謎の単語が出てきた。城石さんが「そこはツッコまないんですか?」と言いたげなアイコンタクトを送って来るが、とりあえず所属先みたいなものだろう。まあ、ここは何となくついて行ける。スルーして話を進めてもらおう。
「はい。仕事をこなしていると、だんだん私のランクも上がっていき、少しは名の知られた冒険者となりました。『百光のオーラン』なんて通り名で呼ばれるようになって、その頃は稼ぎも良かったし、冒険者としても成熟してきたと、自分でも思える頃でしたね」
「びゃっこう……素晴らしいですね」
正直、何が素晴らしいのかよくわからない……
しかし、たまに格闘技の世界でも通り名が付いている人がいる。ちょっと昔に「暴虐のカリスマ」なんて言われていた格闘家がいたじゃないか。要はそれみたいなものだ。まだこちらの「常識」の範囲で付いていける。ここも口をはさむところではない。
「ありがとうございます。そんな冒険者として知名度も実力もついてきたある日、とある国の王さまから『娘の王女が森の魔女にさらわれたので助けてほしい』という緊急の案件が飛び込んできました」
「ま、魔女!」
魔女は……人間か?
また違う何かかもしれないけど、これはまあ要は敵ってことだな。
「しかも、その王女というのが、先ほどお話した魔法学校で同じ教室で学んでいたレイナだったのです」
「そんな偶然が」
「はい。私も驚きました。しかし、それが昔の知り合いかどうかに関わりなく、私は依頼を受けるつもりでした。その王様とも知己でしたからね。私は、単身魔女のいるという館へ乗り込みました」
「ひ、ひとりでですか?」
「はい。仲間を集めている間にレイナに何か起きてしまってからでは遅いですから」
「すごい勇気ですね」
「冒険者とは、そういうものです」
「魔女の館には、狡猾な仕掛けがいくつも施されていましたが、私は、魔女を打倒し、何とかレイナを救うことに成功しました」
「素晴らしいですね」
「かっこいい……」
城石さん、そこの話は受け入れるんだな……
イケメンにピッタリのエピソードだからか?女心はわからん……
「そして、レイナを国に連れ帰り、王様に報告をしようとすると、レイナは突然こう言いだしたのです」
「はい」
「『私、あなたと結婚する』と」
「……はい???」
「ええええ!???」
「それで、結局、ご結婚されたんですか?」
「はい」
何てこった、このイケメンエルフ、既婚者だったのか!城石さんがなぜかちょっとだけ残念そうな顔をしている。アイドルもそうだけど、人気商売の人の大変さが少しわかった気がする。
「そうですか、しかし、ここまで色々と順調な話で、特に困っていなさそうに聞こえますが」
「あ、そうですね。そう。ここまでというか、この少し先までは順調だったんです。どうやらレイナは、魔法学校時代から私のことを好いていてくれたみたいで、その時の救出の一件で、何か運命を感じたとか何とかで……」
「それは、女の子だったら結構『ヤラレちゃう』シチュエーションかもしれませんね」
「ああ、そういうもの?」
最初は疑っていたところもあったようだが、城石さん、もうすっかり「その前提の話」を受け入れているように見える。若いから頭が柔軟なのか?
いや、イケメン効果だろうか……
いや、しかし、これだとイケメン英雄のただののろけ話じゃないか!
正直、法律家の出る幕じゃないぞ。
「私もレイナのことは嫌いではなく。いや、好きだったのかな。私も。かといって、いきなり一国の王女であるレイナと結婚するわけにもいかず、王様に報告に行きました。そして、ふたりで結婚したいということを伝えました」
「それは、王様はびっくりでしょうね」
「はい。そして、王様は激怒されました」
「激怒?」
てっきり英雄と王女の素敵なロマンスがそこで完結するのかと思いきや、違うらしい。
「王様には『せっかく娘が魔女の元から帰ったかと思ったら、今度はお前が連れ去るのか』と言われました」
「ああ、そういうことですか」
「王様が子離れできていないってことですかね?ひどいですね!」
城石さんは、どうやらロマンスの完結を妨害しようとする王様が許せないらしい。おれはどちらかというと王様の気もちもわからんでもないけれど……
「はい。それに、エルフと人間の種族を越えた結婚なんて、前例に乏しい、とも言われていましたね」
「ああ、そういう問題も」
「そんなことないですよ。国際結婚だって、認められていますからね」
城石さんが少々ヒートアップしている気がする……
「そうなると、ご相談というのは、種族を越えた結婚について、ということになるでしょうか」
「いえ、そこは。結局、私たちは王様から逃げるようにして、私の村に帰ることにしたんです」
「え、そうなんですか?」
「はい。そして、私の村のしきたりに従って、結婚したんです。でも、その反面、王様と少々険悪になってしまったので、冒険者の活動は一時やめにすることにしました。闘いや喧噪から少し離れた平穏な暮らしは、とても幸せでした」
まるで何かの映画がひとつ終わった後の、絵に描いたような幸せで平穏な後日談だ。だいたいこういうシーンは、映画ではエンディングシーンで描かれているイメージがある。エンドロールとともに流れてくるほんわかエンディングじゃないか。今日の相談はこれで終わりか?
「しばらく平穏な暮らしをしていると、子どももふたり生まれました」
「お子さんもいるんですか?」
「はい」
「こ、子ども……」
なぜか城石さんが今度は少々トーンダウンしている気がする……
「ええ!?でも、それじゃあ特に何も問題ないんじゃあ……」
「すみません、話が長くなって……」
「何が問題なんです?」
「あ、いや、実はその……妻になったレイナから、『あなたとリコンする』って言われているんです」
「……へ???」
「うそぉ!!?」




