第七話「制御」
地下訓練場。
コンクリートに囲まれた、広い空間。
壁には無数の傷跡。
床には乾いた黒い染み。
「……嫌な場所だな」
榊 悠斗は眉をひそめた。
「ここで何人壊れたんだよ」
「数えきれない」
九条 澪が淡々と答える。
「だからここがある」
「よし、それじゃあ始めよっか」
軽い声。
朝比奈 迅が手を叩く。
「今日のテーマは——」
指を一本立てる。
「“止める力”な」
「止める?」
悠斗が顔をしかめる。
「出すんじゃなくて?」
「逆だよ逆」
迅が笑う。
「お前はもう“出す”のはできる」
一歩近づく。
「問題は——止まらねぇこと」
図星。
悠斗は黙る。
「ルールは簡単」
迅が親指で後ろを指す。
そこには——
拘束された共喰体。
まだ“生きている”。
「……マジかよ」
「安心しろ」
迅が軽く言う。
「暴走しても、俺が止める」
「それ安心できねぇやつな」
「やることは一つ」
澪が言う。
「“半分だけ使う”」
「半分……?」
「完全に出すな」
澪の目が鋭くなる。
「理性を残したまま、力を引き出す」
悠斗はため息をついた。
「一番難しいやつじゃねぇか」
「だから訓練」
「じゃ、いけ」
迅が軽く合図する。
拘束が外される。
共喰体が、ゆっくりと動き出す。
「……来るぞ」
悠斗が構える。
ドクン
心臓が鳴る。
黒が、うずく。
——喰え
「……うるせぇ」
一歩踏み出す。
共喰体が突進。
「ッ!」
その瞬間。
黒が腕に集中する。
——ドンッ!!
一撃。
共喰体を吹き飛ばす。
「……いける」
だが——
黒が膨れ上がる。
「やば……」
止まらない。
「抑えろ!」
澪の声。
「意識しろ!」
「分かってる……!」
だが体が言うことを聞かない。
もっと出せ。
もっと喰え。
「クソッ!!」
悠斗は歯を食いしばる。
「止まれ……!」
黒が暴れる。
床を削る。
壁にひびが入る。
「悠斗!」
澪が一歩踏み出す。
だが——
「来るな!!」
叫ぶ。
「俺がやる……!」
共喰体が再び立ち上がる。
「……ちょうどいい」
悠斗は深く息を吸う。
そして——
吐く。
「……落ち着け」
自分に言い聞かせる。
「全部出すな」
黒を、腕にだけ留める。
それ以上は出さない。
「……ここまでだ」
共喰体が襲いかかる。
悠斗は避ける。
無駄な力を使わない。
そして——
最小限の黒で。
——ズドッ
心臓を貫く。
共喰体が崩れる。
沈黙。
「……できた、のか?」
悠斗が息を吐く。
黒は、暴れていない。
「……」
澪が静かに近づく。
じっと見る。
「……合格」
小さく言う。
「マジかよ……」
その場に座り込む。
「疲れた……」
「いいじゃん」
迅が笑う。
「初日にしては上出来」
「初日でこれやらすなよ……」
「まぁな」
肩をすくめる。
「でも」
迅の表情が少しだけ変わる。
「これで終わりじゃない」
「だろうな」
悠斗は苦笑する。
「次は“人間”だ」
その言葉に、空気が変わる。
「……は?」
「対人戦」
迅が言う。
「共喰体だけじゃない」
一歩近づく。
「人も敵になる」
悠斗は眉をひそめる。
「管理局以外にも、いるってことか」
「いるよ〜」
軽く言う。
「むしろそっちのが厄介」
澪が小さく呟く。
「……“狩人”」
悠斗が見る。
「知ってんのか?」
「少しだけ」
視線を逸らす。
「関わらない方がいい」
珍しく、曖昧な言い方。
そのとき。
警報が鳴る。
——ウゥゥゥゥン
赤いランプが点灯する。
「……来たか」
迅が笑う。
「タイミングいいねぇ」
「何がだよ」
澪が通信を確認する。
「外部侵入」
一拍。
「“人間”」
「訓練終了」
迅が手を鳴らす。
「実戦だ」
悠斗は立ち上がる。
「いきなりかよ……」
だが——
口元が少しだけ歪む。
「まぁいい」
拳を握る。
「試すにはちょうどいい」
施設の奥。
監視カメラに映る影。
人の姿。
だが、その目は——普通じゃない。
「見つけた」
低い声。
「“適合者”」
ナイフを構える。
「喰わせてもらう」




