第456話 ナナミィ、覚悟を決める
「あれは何なのですの? ナナミィが巨大なドラゴンになってますが」
「おやポチャリーヌさん、避難していなくていいのですか?」
王都の門を守っているペギエルの所に、先ほど避難していたポチャリーヌがやって来た。
「魔力値が32万って……冗談のような数値ですわね。これじゃまるで彼女も邪神のようじゃありませんか」
ポチャリーヌがブレスレットを使って計測をしてみれば、ナナミィの魔力値が30万を超えていたのだ。
45万と32万の魔力が激突すればどうなるか。それを考えると、思わず背筋が寒くなるポチャリーヌであった。
「邪神の分身の使い魔と融合したように見えましたし、ある意味そうなのでしょうね。いつもこちらの予想を上回ってくれますよ」
「そう言う割には、楽しそうですわね?」
「そうですねぇ……、ディアナ様には無い可能性を感じますね」
「そんな事を言っていいのですか?」
「だって、ディアナ様本人が言ってらしたのですよ」
ああ……なるほどと思うポチャリーヌは、納得の顔をした。
「それで……あそこに倒れている、ラビエルとバハムートはどうします?」
「もう役に立ちそうに無いので、回収して使徒と人間の姿になっていてもらいましょう。このままじゃ、大きな図体が邪魔ですので」
ペギエルのあまりな言いように、苦笑するポチャリーヌだった。
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でっかくなっちゃったあたしは、アブホースの落とし子の能力も使える、スーパー女神竜となったのです。
なんだかパワーも、桁違いにアップしたように感じます。
「そう。まさに今のあたしは、負ける気がしないっていう状態なのよね!」
言っている事は少々おかしいけど、体の奥から魔力が溢れ出しているのよ。
これなら勝てる!
みんなの仇を討ってやる。
いや、まだ生きてるけど……。
『それはいったい、どうなっておるのだ? 魔力が我と同じ位になってるぞ』
邪神ナイアも困惑しきりです。
『まあいい、これで少しは良い戦いになるだろう』
しかも、見た目の雰囲気とは似合わないバトルジャンキーだし。
邪神ナイアはラビエルと同じく、ウサギみたいな姿をしています。ウサギと言っても体は人間に似ていて、女性体型で胸にはおっぱいもあります。
足は4本もありますが、スマートな見た目なので、戦闘好きには見えないのです。
とはいえ、ラビエルとナイアには性別が無いそうなので、訳が分からない存在なのは間違い無いです。
邪神ナイアはラビエルと違って弱体化していないので、魔力値が数十万もあります。そんな邪神と全力の戦いなんかすれば、この世界が滅んでしまいますよ。
そうなる前に、この邪神を倒してしまわねば。
結局、戦いは避けられないのです。
ならば……先手必勝!
むこうは足が4本あるけど、こちとら飛べるんですからね。とは言え、足が4本もあるって事は、前後左右に自在に動ける事が予想されます。
あたしも翼が4枚なので、今までより機動力が倍になってるはずです。……動かすのは難しそうだけども。
「なんにしても、突撃だ!」
あたしは4枚の翼を広げ、羽ばたくと同時に足で地面を蹴って一気に加速しました。
ズゴーーン!っと岩が砕ける音と共に、土砂が派手に舞い上がっています。
体が大きくなっているので、空気抵抗が凄いです。空気の壁を押しのけて突進します。
体を低く構えて、邪神ナイアのお腹のあたりに、タックルをぶちかまします!
そして全力で羽ばたいて、押し出していってやるのです。
少しでも王都から離さないといけませんからね。
『おおっ? なかなかの威力だな、これでは我も抵抗が難しいぞ』
「そりゃどうも!」
難しいと言いつつ、まだ余裕がありそうな邪神ナイアだ。
こちらの力を試しているのか? そう言うあたしも、自分の力がどれ程あるのか分からないので、全力の攻撃は控えた方がいいかもです。
もしかしたら、メロンちゃん達が融合した事で、体のリミッターが外れているかもしれませんからね。人間が全力を出すと体が壊れてしまうのと同じで、ドラゴンも全力を出さないように安全装置があるのです。
なんて事を気にしつつも、出せる力は出し切ってやるのです!
翼が4枚もあると、かなりの重さが持ち上げられるけど、さすがに地上から5mぐらいの高さしか持ち上げられなかった。
おかげで、森の木々を押し倒しながら飛んでいます。
『あまり離れるのも面白く無いな。この辺でいいだろう』
邪神ナイアはそう言うと、腕を伸ばして地面をつかんだ。
とたんにブレーキが掛かり、スピードが落ちてしまいました。それどころか、邪神ナイアが落下して山小屋が巻き込まれて倒壊してた。
あたしも墜落しそうになったけど、前方に一回転してうまいこと着地しました。
その際に木を5本ばかり、なぎ倒しましたけどね。
急いで立ち上がると、周りを確認しました。
王都からは4~5kmぐらい離れた丘陵地帯で、見える範囲に人は住んでいないようです。これなら遠慮無く戦えます。
『ふむ、ここなら王都からも見える範囲か』
「なに言ってんの?」
『うん? まあ、派手にやろうじゃないか』
相変わらず余裕ぶってやな奴だ。
あたしは後ろに飛び退いて、相手から距離を取りました。伸びる腕の攻撃範囲から出るためです。
『これが最後の戦いになるであろう。分かっていると思うが、我を倒さぬ限り世界の破滅を防ぐ事は出来んぞ。本気で掛かって来るがよい』
そう言うと、邪神ナイアの魔力がさらに大きくなったのです。
マジか?
この感じは、50万を超えたんじゃないの?
(大丈夫よ七美ちゃん、わたしがついているもの)
(そうだぜ七美。思いっ切りやっちゃいな!)
(ボクもついてるよ~! 絶対に勝とうね!)
あたしの中の使い魔の3人が励ましてくれます。
それに、励ましの言葉だけじゃなく、心にも3人の気持ちが染み込んできます。
めっちゃ励まされたあたしは、気持ちも大きくなります。
おかげで、怖いと思う気持ちも無くなったようです。恐怖心が無くなるのは逆に良く無い事なので、そこは注意しなくちゃですがね。
それにクロンちゃんの影響なのか、少し好戦的になっているようです。
ならば、その勢いに任せて攻めてやるのです。
まずは魔力を高めて魔力弾の発射準備だ。
どうせ当たらないだろうから、魔力は小さめでもOKです。牽制で使うなら、魔力を2000も込めれば大丈夫でしょう。
「はっ!」
右手の先から魔力弾を発射!
魔力値が2000の魔力弾は、直径5mもある大きなものです。これひとつで小さな町なら更地にしてしまえます。
しかも、単純に飛ばすのじゃなくて、操れるように魔力の糸でつないでいます。
『こんな遅い攻撃を避けられないと思うてか』
邪神ナイアは体をひねって、さっと避けてしまいました。
外れた魔力弾は、そのまま飛んで行きました。
むろん、そう見せているだけですが。
外れた魔力弾は、あたしに操られてぐるんとUターンをしました。今までは操る時に指を動かしていましたが、今では魔力の糸に魔力を流すだけで動かせるのです。これで、こちらが何をやっているのか誤魔化せるはずです。
戻って来る魔力弾は、さっきより速いスピードで飛んで来ました。
当然のように邪神ナイアは気付きますが、予想外のスピードに避け切れずに命中です!
魔力弾は爆発しないで、再び離れました。
もう一度周りを飛び回らして、ぶち当ててやります。
今度はさらに速く。
遅い物の後に速い物が来ると、一瞬感覚が狂うものです。ピッチャーが緩急を付けた球を投げると、バッターが打てないのと同じ理屈ですね。
まあ、あたしが狙うのは三振じゃなくて、デッドボールなのですが。
お次は足を狙います。
内角低めと言ったところです。
邪神ナイアが足を守ろうと避けますが、ちょいと軌道を変えてやります。足の内側に当たって、ガクっと体勢を崩していました。
『うぐ……煩わしいものだ』
「ふん! まだまだ行くよ!」
あたしはもう一つ魔力弾を出して、頭の上でグルグル回すのでした。




