第213話 サイレグ博物館を見学しよう
あたしとポチャリーヌ、アドリアスとシエステ、それにスピネルさんとミメットさんが国境門の前に来ました。
むろん、空間跳躍魔法を使って。
門番の人は、いきなり現れたあたし達にびっくりしてた。
さらに王子様と婚約者の公爵令嬢もいたので、二度びっくりしてたよ。王子達は、今回の帰郷はお忍びなので、ここの領地を治める領主に知らせないようにと釘を刺していました。
どのみちすぐに移動するので、領主が知ったとて無駄なんですがね。
なのでさっさとポータルを開いて、みんなでくぐって行きます。
門番さん達は、3度目のびっくりだ。
再びやって来ました、サイレグ博物館。
「よ~し、館長に会いに行くぞ!」
意気揚々と進むポチャリーヌに、あたし達は付いて行くのでした。
博物館の中は凄かった。
絵画や彫刻はもちろん、昔の甲冑や剣や槍なども展示してあり、どれも綺麗で迫力満点でした。
大英博物館には無い物、魔道具や魔物・魔獣の剥製や骨格標本もありました。
全部見学しようと思ったら、一週間ぐらい掛かりそうな規模がありますよ。
それに一番目を引いたのが、古代に生きていたドラゴンの骨です。化石になった骨なんだろうか、すっかり石のような感じです。全身骨格が展示してありますが、大きさが半端ない。前世で見たブロントザウルスぐらい大きくて、背中には巨大な翼が付いてます。これが空を飛んだら、バハムート以上の迫力がありそうだ。
とは言え、もう見る事は出来ないんですけどね。
「これは古代竜、エンシェントドラゴンだね。伝説のドラゴンだけど、今でも生きていると噂されている存在だよ」
と、説明をしてくれるのはアドリアスでした。
「へぇ~~、伝説のドラゴンなんて、ロマンチックだね」
「ほぉ~~、竜王の力ならば、従える事が出来るかもな」
ポチャリーヌが物騒な事を言ったけど、今回ムート君はいないんだからね。
「さすがにムート君には無理じゃね?」
「何を言うの! ムート様に不可能はありませんわ!」
あたしの言う事を、シエステが全力で否定しおった。
あたし達一行は展示室を巡りますが、ここに来た理由は分からずじまいです。
そろそろポチャリーヌを問い詰めねば。
「さあ、ここに来た目的を言え」
と言って、ポチャリーヌのたれ耳をぐい~っと引っ張ってやった。
「あたたた、まてまて落ち着け。目的は館長にある物を見せてもらう事だ」
「ある物?」
「うむ、ここに持ち込まれたと聞いたからな。お主も知っている物だぞ」
あたしも知っている物だそうです。
いや、知らないけど?
「じゃあ、館長室に行きますか?」
「うむ、頼んだぞアドリアス」
と、ポチャリーヌが偉そうに言った。
あたしはムカついたので、再び耳を引っ張ってやった。
「これはこれはアドリアス王子、こんな所に来て頂き恐縮です。今日はどんなご用で?」
と言って挨拶をしたのは、サイレグ博物館の館長のエズモンドさんだ。
立派なヒゲの、ナイスミドルでした。
あたし達は揃って館長室に入りました。
「いや、用があるのはこちらのお方だよ」
「ほう、こちらは……」
エズモンドさんは、訝し気にポチャリーヌを見ました。
小さな少女ながら、王子様に『お方』呼ばわりされるポチャリーヌに、戸惑っています。かと言って、女神様の討伐隊のメンバーと紹介するわけにもいかないからね。今回はプライベートな感じだし。
「こちらの方は、リュウテリア公国の侯爵令嬢ポチャリーヌ・ド・アリエンティ様ですわ。アドリアス様のご友人でもあるので、失礼の無いように」
シエステがぴしゃりと言いました。
ポチャリーヌの正体を隠しつつ、うまい具合に説明をしてくれた。
「ははぁ!」
エズモンドさんは急いで跪いた。
「どうも初めまして、ポチャリーヌ・ド・アリエンティです。今日は館長さんにお願いがあって参りましたのよ」
ポチャリーヌが貴族令嬢らしく応えました。
「それで、どのような事でしょうか?」
「ここにサマルタント洞窟遺跡からの遺物である、古代の魔道具が保管されているはずです。それを見せて欲しいのです」
「なぜそれを……!」
ポチャリーヌの要求にびっくりするエズモンドさん。
そうか、この前話してたテレビの事だな。
まだ諦めてなかったんだな。
ラビエル達を連れて来なかったのは、私的な事にしておきたいからなんだ。
ただ、あたしもそれには興味がある。
「ここにいるスピネルさんは、洞窟遺跡の調査団のスタッフでしたのよ。それに奪われた遺物を取り戻したのは、私やナナミィさんです。なので、その辺の事情は分かっています」
「ああ、そう言えば他国の者が関わっていたと聞きましたが、それはポチャリーヌ様達でしたか」
「そうですわ。なので、私たちにも遺物を調べる権利があるのです!」
ポチャリーヌの奴め、しれっと権利なんぞと言ったよ。
「それに遺物の解析はどこまで出来てます? 私には、魔道具に関する専門知識があるので、力になると思いますわよ」
ニコリと笑うポチャリーヌ。
こうやって相手を思い通りに操るんだな? エズモンドさんも考え込んでるよ。
「分かりました。お見せしましょう」
「やったー。……じゃなくて、嬉しいですわ。オホホ……」
ポチャリーヌの奴め、思わずお嬢様口調を忘れたな。
とにかく、あたし達は博物館の収蔵庫に入れる事になりました。
「ここです」
エズモンドさんに案内されて、あたし達は地下階に来ました。
「ここは収蔵庫や調査・復元の為の部屋になってます。洞窟遺跡の魔道具類は、こちらの部屋に保管してあります」
扉には厳重に鍵がしてありました。
エズモンドさんが何かつぶやくと、鍵がガチャリとはずれました。
(あれは音声キーだな。解錠の為の合言葉を、一定のアクセントで話さねば開ける事が出来ない物だ。たぶん声紋も合わないと作動しないだろうな)
ポチャリーヌがこっそり教えてくれました。
なにそれ、凄いハイテクだ。
(まさかあんた、鍵を破るつもりなの?)
(この手の鍵は妾じゃ開けられん)
開けられないようでよかったです。開けられたら、泥棒の片棒担がされそうだし。
部屋の中に入ると、そこは研究室のような雰囲気でした。
何人もの研究員が、魔道具を測ったりスケッチしてました。向こうでは魔力を流して動かそうとしている人も。
のんびりしてるな~、中にはやばい魔道具もあるのに。
「おや館長、そちらの……あ! アドリアス様!」
こちらに声を掛けた研究員の一人が、王子様に気付きました。
研究員の人が立ち上がろうとするのを、アドリアスが慌てて止めていました。
「よい、今日は友人の付き添いで来ただけだ。仕事を続けてくれ」
「は……はっ!」
研究員さんは椅子に座り直して、調査を再開しました。
他の部屋にも研究員さんがいるだろうに、いちいちこのやり取りをするの?
「エズモンド館長、他の人達にも知らせておいて下さいな」
おお! シエステが空気を読んでくれたよ!
未来の王妃様は有能だ。
エズモンドさんが慌てて、他の人に知らせに行ってくれました。
はっと気が付けば、ポチャリーヌとミメットさんがいない。
「へぇ~~、これってナニ? 丸い模様がいっぱい付いてるね」
「ほう、これは計算機か?」
二人でそんな事を言いつつ、ポチポチやっていた。
「あっ! コラ、勝手に触っちゃダメよ!」
「何を言う、調査に協力してやっておるのだぞ」
「そんな事より、あんたの目的はテレビじゃないの?」
「バレてたか」
「バレるよ」
ポチャリーヌとあたしは、大量の遺物の中からカメラや受像機を探しました。
ミメットさんは興味があるのか、後ろから付いて来ました。
「これと違う?」
「いや、違うようだな」
「これは?」
「これは……光を出して、何かを映し出す道具のようだ」
「プロジェクターかな?」
「ちょっと動かしてみるか」
と言ってポチャリーヌが、魔力を流してみました。
すると、変な図形が映し出されました。想像したのと違った物だったので、スイッチを切って光を消しました。
「あれ? 消えてないよ?」
そうです、光を消してもさっきの図形が机の上に残っていました。
「これは……なるほど、図形を転写する装置か」
「なにそれ?」
「材料を切り出す時に、型を描き写すんじゃなくて、これで型を写してしまうのだ」
「なにそれ便利」
「光を使ったプリンターだな」
「受像機じゃなかったか」
ハズレでしたが、研究員さん達が「そうだったのか」「これで謎がとけた」と興奮していました。よかったね。
「ただし、図形データを入れ替える方法が分からないけどな」
そう美味い話はないのだった。




