第206話 謎の魔獣捜索開始
朝になり、あたし達はフニクラ平原までやって来ました。
今回は空を飛ぶ魔獣が相手だと言う事で、全員空を飛べる格好で来ています。ムート君はアリコーンの姿で、ポチャリーヌは背中に、飛行魔法の妖精の羽を付けています。あたしと使徒組はいつも通りです。
ここは、リリエルちゃんの新しい住処を探していた時に来て以来だ。
空の上から見る限りは、そんな事件が起こってるなんて思えないような、きれいな景色です。
「本当に、フスマの奴がいないね」
以前あたしに喧嘩を売ったフスマは、影も形もないです。
しかも静かすぎて、ちょっと不気味だ。
「それより、謎の魔獣はどこだ?」
ラビエルがあたしの周りを飛び回って探していました。
「いやそんなにしたって、見付からないでしょ?」
「そうだぞ、単独行動のハンターが狙われたと言うから、こんな人数で居ては現れないぞ」
「あ。そうだったのだ」
あたしとポチャリーヌの突っ込みに、今更ながら思い出すラビエル。
「それじゃあ、3人分かれた方がいいな。それとこいつらを渡しておこう」
と言ってポチャリーヌがあたしの所に飛んで来て、でっかいクモを渡された。っていうか、これって影魔だ。
「謎の魔獣が、亜空間に隠れるタイプかもしれんからな。影魔を一匹亜空間に潜ませて監視させているので、敵が現れたら知らせて来るのだ」
「あ……ああそうか、それでこれをどうすればいい?」
「うん? 背中にでも乗せておけばいいだろ? ほら、ムートみたいに」
言われて見てみれば、ムート君の背中に影魔が乗っていました。
2匹も。
「待て待て、何で妾の担当の奴までそっちに居るのだ? なに? こっちの方が乗り易いからだと? 9歳の子供の背中は狭くて乗りにくいから? やかましいわ! 頭に乗っていいからこっちに来い!」
ポチャリーヌが漫才みたいな突っ込みをしたら、影魔の一匹がポチャリーヌの背中の影から出て来ました。そして頭の上に上がって行きました。
……うん、まあよかったね……
ムート君も苦笑してるよ。
「二人の緊張もほぐれたようだし、捜索を始めるとしよう」
ポチャリーヌはリリエルちゃんと湖の上を飛んで、対岸の方に行ってしまいました。
あれ? ひょっとしてあたしとムート君は緊張してたの?
まさかあのやり取りって、あたしらのためだったのかな?
さすが、元魔王は気遣いも出来るんだな。
「じゃあ僕達は向こうを探すね」
「先輩はナナミィの足を引っ張らないようにね~」
ムート君とミミエルは街道の近くを探るようです。それにしてもミミエルはいつも一言多いな。
と言う訳であたしとラビエルは、平原に点在している森で捜索する事にしました。
森に着いたら地面に降りて、地上から探します。
まあ、探すと言うより囮になるんだけどね。いかにも油断してるように見せ掛けて、なぞ魔獣を誘い出すのです。
え~~と、どのあたりに降りるかな?
「きゃあ~~~っ! 助けてぇ~~~!」
そこに女の子の悲鳴が……!
まさか謎の魔獣に襲われている犠牲者が?
いきなりすぎるよ!
あたしは声のした方に急ぎました。
「い~~や~~~! こないでぇ~~~~!」
あれはハンターの女の子かな? しかも耳の長いエルフだ。
スピネルさんと違って、落ち着きがなくて大慌てしいてる。
「誰かぁ~~! あ。今は立ち入り禁止で、誰も居なかったんだぁ~~!」
いや、けっこう冷静だった。
何に追い掛けられてるのかと思えば、イノクマだった。魔獣や魔物じゃなくて普通の動物だけど、大きな牙を持ったクマなので、普通に危険です。
残念、これはハズレですね。
いや、ハズレなんて言ってる場合じゃない。早く助けなきゃ!
「ラビエル、あの子を助けるよ!」
「お、おう!」
あたしは女の子とイノクマの間に降り立ちました。
「おっと、これ以上はさせないよ!」
イノクマはいきなり現れたドラゴンに驚いて、急ブレーキでストップ。そこに間髪を容れずに、ドラゴンブレスをお見舞いした。
そんなに高い温度ではないけど、目の前の炎にビビって、イノクマは逃げて行きました。
助けた女の子はというと、なぜか倒れてた。
どうやら、慌てすぎて足がもつれたようだ。
「あの~、大丈夫ですか? イノクマなら追っ払いましたよ」
「えぇっ? あ、本当だ。あなたが助けてくれたんですか?」
「そうですけど、今ここはハンターギルドから、立ち入りが禁止されていますよ」
あたしにそう言われて、女の子はばつが悪そうな顔をしました。
「いや~~色々訳がありまして……。あ。それより、ありがとうございました! 私はハンターをやってます、ミメットと言います!」
ミメットさんはあたしの手を取りブンブンと振って、感謝をしていました。
「あたしはナナミィです。こっちはパートナーのラビエル。ここにはハンターを襲うなぞの魔獣の討伐に来たんですよ」
「え? まさか使徒様……?」
「そうだ、こたびの件は女神様の討伐隊に任される事となったのだ。お前は早く帰るがよいぞ」
「ラ……ラビエル様……かわいい~~」
「「は?」」
ミメットさんはラビエルを見て、かしこまるどころか迫って来てるよ。
ラビエルを可愛いなんて言う人は珍しいな。いや、実際ラビエルは可愛いんだけど。むしろ親近感を感じるぞ。
「そうかそうか、我が輩は可愛いからな。存分に撫でるがいいぞ」
「じゃあ失礼して……」
最初はおずおずと手を出していたけど、頭に手を置いてからは、思いっきりモフモフしてる。
「はぁ~~~ああぁ~~~~……」
うん、あたしもリリエルちゃんの大きな尻尾をモフるのが好きなので、気持ちは分かる。気持ちはね。
なんだかだらしない顔でモフってるけど、あたしもあんなんだろうか? 気を付けねば。
「イヤイヤイヤ! こんな事をやってる場合じゃナイ!」
「うわっ、何だいきなり」
「うっかり任務を忘れるところだった。この辺一帯を調べなくちゃ!」
あたしはミメットさんからラビエルを取り返して、森の中に走って行きました。
危険な任務に、無関係のハンターを巻き込む訳にはいきません。しかも、ミメットさんが首から下げていたライセンスプレートを見たら、まだDランクだった。たぶん、ハンターに成り立ての新人さんなんだ。
「助けて頂いたお礼に、私にも手伝わせて下さ~い」
「えぇ? 何で付いて来るの~?」
巻き込まないようにと思ったのに、凄い勢いで追いついて来たよ!
「恩を受けたら返すのは、我が家の家訓なんです~~」
「家訓はいいけど、Dランクのハンターじゃ危ないよ?」
「いいえ、私はこれでも出来る子なんです」
ムフ~って感じで言うけど、無茶だ。
「そもそも討伐隊に回された時点で、ハンターは関われないのだぞ」
ラビエルがピシッと言ってくれました。
「え~~でも、家訓を破ったら、おばあさまに殺されるんです」
「「マジか……」」
結局、ミメットさんに手伝ってもらう事になりました。
……まあ、人手は多い方がいいしね。
「どんな魔獣を探すんですか?」
「うむ、姿を隠す奴だな。周りの景色を反射させて姿を消すタイプか、亜空間に隠れるタイプのどちらかだな。七美の背中に居る影魔が、亜空間を監視してくれているのだ」
「え? そのクモって、そういうものだったのですか?」
ミメットさんに注目された影魔が、足を振って応えていました。
魔物だけあって、ちゃんと話が通じているんだね。
「なので、ミメットさんも空を気にしていてね。姿を消していると言っても、景色に違和感があるので、それで分かるはずよ」
「は……はい」
ミメットさんは緊張してるようだ。さすがに見えない敵は怖すぎますからね。
彼女は15~6歳に見えるけど、エルフは見た目通りの年齢じゃないので、けっこう年上かもしれません。スピネルさんも17歳くらいに見えて、実際は45歳だしね。
年齢を聞いてみたいけど、女性の歳を聞くのも悪いので、聞きづらいです。
エルフなら気にしないみたいだけど、あの見た目で50歳だったりしたら、あたしが気まずくなっちゃうよ。
なんて事を考えつつ、あたしは森の中を歩きます。
ミメットさんには、少し離れてもらいました。謎の魔獣は二人以上だと襲わないらしいからです。
Dランクのミメットさんだけでは心配なので、ラビエルに一緒にいてもらってます。むろんラビエルはノーカウントですね。ウサギにしか見えないので。
それにあたしが一人でいるのは、ポチャリーヌにいい物を貰ったからです。
それは、携帯式のバリヤー発生装置です。いま装置を作動させているので、謎の魔獣の攻撃を防ぐ事が出来ます。これで不意に襲われても安心です。
謎の魔獣のランクは推定Aランクだそうで、それならこのバリヤーでも大丈夫です。Sランクでも、まあ大丈夫でしょう。
EXランクだったら死ぬけど……。
こんな事を言うとフラグになりかねないので、これ以上はやめておこう。
「ここなら周りから見えやすいね」
謎の魔獣は空から襲って来るので、木が生えてない場所で待つ事にしました。
ただ待つだけじゃ退屈なので、おやつでもでも食べてよう。ブレスレットにしまっておいた焼き菓子を取り出して、コッソリと一人で味わうとしましょう。
どのみち早く食べないと傷んでしまうからね。ブレスレットの中は時間が止まっている訳じゃないので。
とはいえ、警戒を怠る事は出来ません。
敵意や害意のある魔力を感知するために、周囲に気を配っておきます。
今のところ怪しい魔力は感じませんね。
バシィィン!
「きゃっ! な、なに今の?」
いきなり大きな音が近くからしたよ!
音はすぐ横からだった。
横を見たら、そこには大きな手がありました。それは人間の手のようですが、明らかに人のものではありません。なぜなら、大きさが尋常でないからです。
まさか謎の魔獣は巨人なの?
でも、手が4つもある!
しかも、腕から先が見えない!
4本の腕だけがバリヤーをつかんでいる。
バリヤーのおかげで、あたしは無事ですが、魔獣は訳が分からないのか、バリヤーの中にいるあたしを捕まえようと、やっきになってる。
そんな事より、早くラビエルを呼ばなくちゃ。
魔獣の奴が、バリヤーごとあたしを持ち上げようとしてるからですよ。
球形のバリヤーは攻撃を防ぐ事が出来ると同時に、中の者も外に出る事が出来ないのです。バリヤーを持ち上げられたら、あたしもバリヤーごと持ち上げられてしまいます!
ヤバい!
あたしピンチかも?




