第205話 恐怖は空からやって来る
ナナミィ達が住むドラゴニアから、隣町のヒメランサの中間に広がるフニクラ平原は、多くの動物や魔物・魔獣が暮らしている土地である。
ここでは人間の生活に役立つ素材が数多く採れる為、ハンター達の稼ぎの場になっているのだ。
今日も依頼を受けたハンター達が平原のあちこちに居た。
「こっちには無いなあ~。リリア、そっちはどうだ?」
「少しだけよ。先に来たハンターに、採られた後じゃないのかしら」
「ああ~~そうかぁ。エイダが見付けてくれる事に期待だな」
3人組のハンターのリーダーであるダンカンは、仲間のリリアと共に、もう一人の仲間の元に歩いて行った。
エイダは岩がいくつも転がっている場所で、苔のような物を採取していた。
しかし、いくら探しても欠片しか見付ける事が出来なかった彼は、すっかり諦めていた。
そこにリーダーのダンカンが、手ぶらでやって来た。
「リーダーの方の収穫は……無いようだな」
と、ため息まじりに言った。
「ここも他のハンターに採られた後だな、ヒメランサ側の採集ポイントに向かうぞ」
「あ……ちょっと待って」
「早くしろよ、オレはテントを片付けてくる」
そして3人は移動の準備を始めるのだった。
たどり着いたのは小さな湖のそば。
こういう水場には薬草が生えていて、薬師に売るといい稼ぎになるのだ。
「よし、ここでアミダラ草を探すぞ。エイダは魔物を警戒していてくれ」
「分かったけど、この頃フスマを見掛けないよな? 大丈夫じゃないか?」
「あ~~、確かに見てないわね」
3人が空を見上げても、小鳥すら飛んではいなかった。
フスマとは肉食の空を飛ぶ魔獣である。2~3匹で鳥や動物を襲い、時には人も襲う事がある。
「……何かフスマが逃げ出すような、強い魔物でも現れたのかな?」
エイダは少し不安を感じていた。
「そんな報告は、ハンターギルドにも来てなかったぞ。獲物を追ってよその土地に移動してったんだろ」
「まあ……そうだよな」
そうは言ったものの、居ると厄介な魔獣でも、居ないとなると不安になるものである。それ以上に厄介で強い魔獣が居る可能性があるからである。
「じゃあ向こうで警戒してるよ」
エイダはそう言って一人離れて行った。
湖に着いたエイダは、荷物に入れていたロングソードを取り出し、目の前に置いた。なんとなくいやな予感がするので、手元に置いておこうというのだ。
頭上に危険な魔獣は居なくても、地上では危険な動物や魔獣を見掛けるからである。
「ここで見張りだけではナンだから、釣りでもしてるか」
岩の上に置いた荷物から、組み立て式の釣り竿を出した。そして小さなケースに入れられた疑似餌の中から、湖に住む魚に合わせた餌を針に付けた。
エイダは竿を振って、餌を遠くに飛ばした。
「後は静かに待っているかな」
この時彼は、もっと周りの様子に注意をすべきだったのだ。
彼が魔力の探知能力を持っていれば、敵の存在に気付けたのだが。
1時間経っても一匹も釣れなかったエイダは、釣りをやめて湖の周りの見回りに行く事にした。
「そう言えばダンカン達はどこまで行ったんだ? まだ帰ってこないな」
エイダが振り返ろうとした瞬間、湖に何かが落ちて来た。
「うわっ! 何だ?」
見るとそれは大きな狼系の魔獣だった。
すでに死んでいるのだが、その死因が不可解なものだった。
干からびていて、まったく血が出ていなかったからだ。
「何で魔獣が空から降って来たんだ?」
エイダは思わず上を見上げた。
そこで見えたものは理解できないものだった。
空中に4本の腕だけがあったのだ。
腕の先には大きな手が付いていた。
それがエイダに向かって伸びて来て、彼を捕まえた。
「なっ! クソッ! 離せ!」
エイダは必死に抵抗をしたが、どれだけ暴れても腕は振りほどけず、彼はそのまま、空中に持ち上げられてしまった。
エイダは仲間に助けを求めようとしたが、腕の先に付いた大きな手の力は強く、彼は声も出せずに押し潰されていくのだった。
それから10分あまり後、ダンカンとリリアがエイダを探しに湖の畔にやって来た。
「あいつ、どこに行ったんだ?」
「本当よね~~。こっちも収穫が無かったし、もう帰ろうよ」
二人はそこで、エイダのバックパックを見付けた。
「こんな所に荷物を放り出して、なにしてんだあいつ?」
「でも、釣り竿が置いてあるよ。それにこの死んだ魔獣はなんだろう?」
二人が魔獣の死体をよく見ようとして、水際に近づいた。
その時二人の後ろで、重い物が落ちる音がした。
それはすでに原型を保っていない、エイダの遺体だった。
体はまるで絞った雑巾のようになっていたが、不思議な事に出血の跡が無かった。
「きゃあ! エイダなの? どうしてこんな……」
「くそぅ! 敵はどこにいやがる? いったいどんな魔獣か魔物が?」
二人は空を見上げて、エイダを殺した敵を探した。
しかし、空には何も居なかった。
この一件はハンターギルドに報告された。
その後も同様な事件が起こり続けたが、ハンターを襲っている敵の正体を突き止める事は出来なかった。
ハンターギルドも威信を掛けて調査をしたが、いたずらに犠牲者を増やすだけになったのだ。
そしてこの事件は、女神の討伐隊に依頼される事になった。
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「と言う訳で、ハンターギルドからの要請で、討伐隊が事態の解明と解決に動きます。場所はフニクラ平原ですね」
あたし達の前で、ペギエル様が説明して下さっています。
それって今ハンター達の間で話題の、見えない謎の魔獣の事ですね?
「フニクラ平原で活動中に、行方不明になるハンターが出ている事件ですね。なんでも、犠牲者がいきなり空から落ちてくるそうですわね」
とポチャリーヌが、お嬢様言葉で補足してくれました。
そうです、今日はムート君のお家に、ポチャリーヌと共に呼ばれたのです。むろんラビエルとリリエルちゃんとミミエル、それにサリエルちゃんも来ています。
サリエルちゃんの、討伐隊サポートの最初の案件です。
「フニクラ平原と言えばフスマがいたけど、奴らのしわざじゃないのですか?」
あたしが思い付くのは、以前ウサミィとパンを買いに行った帰りに襲われた魔獣の事です。
「それがですね、犠牲者の遺体を見ても、かじられた跡はあっても、食い千切られた所はないのです。つまり肉食のフスマが襲ったとは考えられないのです。さらには、そのフスマ自体がフニクラ平原から居なくなっているのですよ」
「成る程、フスマも謎の魔獣にやられたとしたら、相手もまた空を飛ぶ魔獣と言う訳ですね? しかも相手の血を吸う」
ポチャリーヌは平然と言うけど、それって怖いんですけど。
「え? 空飛ぶ吸血鬼なんですか?」
「そうです、犠牲者達の死因に共通しているのは、体から全ての血が抜かれていると言う事です」
「ひぃ〜〜」
血を吸うと聞いて、リリエルちゃんがビビっていました。
リリエルちゃんの引っ越し先を探している時に、フェリシンって吸血魔獣に血を吸われて死にそうになったからね。
「これが犠牲者の様子だな、血だけじゃなくて、体にもダメージがある」
「うわ、これは酷いですねぇ」
ラビエルがブレスレットを使って何かを映し出し、それをムート君が見ていました。なんだろうか?
「なになに? 何を見て……ぎゃあ〜〜〜〜!」
それは犠牲になったハンターの遺体でした!
しかもグチャグチャのゲロゲロで、スプラッタなものだった。思わず悲鳴が出ちゃったよ!
「もぉ〜〜〜! そんなモノをナナミィさんに見せちゃダメですぅ!」
と言ってリリエルちゃんが、ラビエルに蹴りをかましていた。
プンスコ怒っているリリエルちゃんを、ムート君がなだめていました。
「うわぁ、こりゃヒドイ」
「うう……なんて悪趣味な魔獣なんでしょ」
「うっわぁ~、すごいにゃ~」
ムート君のお家でメイドをやっている、ミケ・タマ・クロも画像を見て感想を言っていた。三つ子なのに、反応が三者三様だね。
っていうかクロ、なんか喜んでないか?
「え〜〜、私がハンターギルドで集めて来た情報によると、フニクラ平原の湖の周辺に被害が集中しています。一人で居る時が狙われやすく、二人以上で行動していれば大丈夫なようです。それと詳しい事は、この紙に書いておきました」
と言ってサリエルちゃんが、A4ほどの紙をみんなに配りました。
「成る程、これは分かりやすいね」
「サリエルちゃんのサポート、マジ有能!」
ムート君とあたしで褒めると、サリエルちゃんが照れていました。
「むむ、我が輩だって情報を持って来たのだ」
ラビエルがいつも通り、対抗意識を燃やしていた。
「先輩、あんなグロ画像なんて持って来なくてもいいです」
「えぇ〜〜?」
いつも通りのミミエルの突っ込みに、不満げなラビエルでした。
「まあラビエルさんの事はおいといて、明日から魔獣の討伐に行って下さい」
「「「はい!」」」
と言う事で、謎の魔獣の討伐に向かう事になりました。
今回は今まで以上に困難な任務になりそうです。




