8 お父さんのロケット
感染症の流行っているこんなご時世なので、お葬式は身内だけで小ぢんまりと行うしかなかった。でも、堀川さんや高野さんや大山さんや、他にもたくさんの人達が香典やお悔やみの電報を送ってくれていた。
諸々が一段落して、わたしは夫と今回のことを話した。
「結局わたしは何も出来なかったけど……いろんな人からお父さんに関する知らない話を色々聞けたな、って」
ふんふん、と夫は余計な口をはさまず聞いてくれる。
「お父さんのことは良く知ってると思ってた。娘だし、生まれた時から家族だったしね。でも、知らなかったこと、いっぱいあるんだなあって今回ほんと思ったの」
「例え身近な人であっても、人間が一番の謎なのかも知れないね」
夫は時々詩的なことを言う。この人にも、翔太にも、わたしの知らないことはあるんだろう。
「僕だって、まだ君のことも、翔太のことも、全部わかってるとは思ってないよ」
夫は言った。
「だけど、少しでもわかりあえるように──君達という謎を解くために、僕らは家族でいるんだと思うよ」
『行くよー、父さん!』
タブレットの向こうから、翔太の元気な声が聞こえた。
翔太がいるのは例の河川敷だ。お父さんに作ってもらったあのペットボトルロケットを飛ばしたいと、夫と一緒にやって来たのだ。
ばあちゃんにも見せたいからと、夫のスマホで中継してもらっている。お母さんは、わたしのタブレットの前であのロケットペンダントを開いていた。
片側にはわたしのおじいさんの写真。もう片側には、お父さんの小さな写真が納まっている。これで、お父さんとずっと一緒だ。
お父さんの遺品を整理していたら、お父さんがずっと書き続けていた日記が出て来た。それによると、お父さんの初恋相手がお母さんだったらしい。
やはりお父さんは、お母さんとのつながりが欲しくて思わずペンダントを隠してしまったようだ。でもお母さんと仲良くなっても言い出せず、ずっと持っていた。
何度か隠し場所を変えていたようだが、一度本気で隠し場所を忘れてしまい、代わりを作ることを考えた。宝飾店や骨董店に行かずに自分で作る方向に行ってしまったのは、もの作りの人間としての習性なのか、それとも天然なところか。
画面の中では、ロケットの発射台を設置した翔太がカウントダウンを始めている。
『……5、4、3、2、1、発射!』
ロケットが飛ぶ。お父さんのロケットが。
『ねえ、じいちゃん見てるかな?』
『見てるさ。きっと』
翔太と夫の声がする。
ロケットは、夏の青空に向かって、高く高く飛び上がった。