手紙
停学一週間目。
午前中に雛形先生から渡された課題を終わらせる。
午後からは暇となり、ベッドに寝ころび天井を眺める。兄が気を遣って漫画やゲームを貸してくれたが、なにもする気にははれなかった。
こんな時、携帯端末があればいいのだが、壊れた携帯端末をそのまま親に預けた。
普段から誰かと連絡を頻繫にとっていたわけではないが、いざ端末が使えないとなると不便に感じる。
そして、部屋にあるカレンダーを見れば今日は守邦高校の文化祭の日だった。
今頃、クラスの喫茶店で西尾が女装をしているのかと思うと、文化祭に参加できなかったことが少し残念に感じられた。
クラスでの光景を妄想するなか、陽代美はどうしているのだろうとふと思う。彼女は生徒会の手伝いもしていてクラスの方には顔を出せているのだろうか。
彼女は目立つ存在だ。文化祭の間に変な輩に絡まれていたりしていないだろうか。そして、傷の具合はどうだろうかと考えたところで頭を振った。
もう彼女とは関係を持ってはいけないのだ。
たとえ彼女がいないところでも、彼女を想うことはいけない行為な気がして、瞼を閉じた。
停学二週間目。
手紙が届いた。
白い封筒に『菊地平太様へ』とだけ書かれ、不思議に思った母が俺に手渡してきたのだ。
自室で開封してみると、便箋が二枚入っており、そこには達筆な字で一人の男の想いがつづられていた。
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菊地くんへ
お元気ですか、守邦高校三年の柴原です。
普段手紙なんて書き慣れていないから作法とかはわからないけど、菊地くんに伝えたいことがあって手紙を書くことにしました。
最初に、ありがとう。
今回の問題で、本来であれば俺が罰を受けるはずだったのに、菊地くんが皆を庇ってくれて助かりました。
でも、一人で全部背負う必要なんてなかっただろう、なんて怒っているやつがいるのも事実なんだ。
雛形先生には俺たちも事件に関与したって訴えたんだけどさ『菊地は一人でやったと言っていた。だからこの件はもう終わりだ』なんて言うんだよ。
酷いよね、学校側からの信頼が俺たちと菊地くんで段違いなんだもの。普段の行いのせいかな。
話は変わるけど文化祭は無事に終わりました。学校中の皆が笑顔で、とても楽しそうだった。俺も最後くらいはまともに参加しろって恵理から言われてさ、演劇で悪代官の役をしたんだ。
楽しかった。けど、胸につかえがあるって言うのか、心の底から楽しめたのかはわからない。
でも、これだけは言える。
文化祭を楽しんでいた皆の笑顔を守ったのは、菊地くんだってこと。
何度も書くけど、本当にありがとう。
菊地くんのことを変に言う連中もいるけれど、俺や阿久津や亜由ちゃんが黙らせておくから安心して学校に戻ってきてね。
それから一つ提案があります。
今度ツーリングに行きませんか?
菊地くんが戻ってくるころには、だいぶ寒くなっているかもしれないけれど、峠道が凍結する前に一度走りにいきましょう。そして菊地くんと色んな話がしてみたいです。
なんかラブレターみたいって隣にいる恵理に茶化されているけど無視します。
本当はもっと伝えたいことがあるけど、また今度、顔を合わせた時に話せたらいいなと思います。
それでは学校で待っています。 柴原勇司より
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思わず、涙が出た。
学校で、待っていてくれる人がいる。そう思うだけで今の俺は胸が締め付けられる気がした。
停学三週間目。
頭がおかしくなりそうだった。
ただ家にいることが、こんなにも辛いことだとは思わなかった。
俺はそこまでお喋りな人間ではない。しかし、一学期の途中からクラスの誰かと話をすることが増えた。当たり前になりつつあった出来事が、急にできなくなったことが辛く感じ、これが停学の効果かと感じた。
そして、暗い感情も湧き上がる。
どうして俺が、辛い目にあっているのか。
わかっている。自分で選んだ道だ。それでも、停学期間中には一つの考えが頭の中で浮かんでは打ち払った。
もしも、捜索隊の彼らと関わらなければ今頃どうなっていたのか。
捜索隊に参加せず、平凡な守邦高校の生徒として日々を過ごしていれば、俺は重傷を負うことも、停学になることもなかった。
誰かのせいにしてはいけない。苛立つ自分が酷く惨めに思えた。そして、なんの目標も持たないまま入学した学校を辞めようかと考えた。
停学四週間目。
負傷した傷が全快し、爪が半分ほど生えてきた頃に、筋力トレーニングを始めた。
バイトが禁止されている停学期間中は新聞配達をすることはない。すると、ベッドの上で寝コケていた身体が徐々になまっていくのを感じた。
新聞配達のバイト先からは停学があけてから仕事に戻ればいいと、励ましの言葉と共に所長は自宅に電話をかけてきてくれた。所長も昔はやんちゃな人物だったらしく、俺の行いに理解を示してくれた。
意外だったのはドーナツ屋のバイト先だった。
気難しい店長の事だ、当然クビになると覚悟をしていたが、ドーナツ屋の店長からは停学があけたら店に顔を出しに来なさいと、温かい言葉を店長から電話で話をされた。
問題を起こしたのに、どうして俺をまだ雇ってくれるのだろうと考えたところで一人の同級生が思い浮かんだ。
きっと彼女が庇ってくれたのだ。小さな身体で、困り顔の店長に訴える姿は簡単に想像ができた。
「ハッ――ハアッ――」
スクワット二百回を終え、休憩に入り決意を固める。
学校へ行こう。
待っていてくれる人がいる。そう思うだけで、変な噂をされようとも大丈夫な気がしてきた。
「いってきます」
「ナアン」
停学があけた登校初日。
普段は仕事でいないはずの両親、そして兄と飼い猫が見送りをしてくれた。
両親から渡された修理の終わった携帯端末。電源を入れれば、数十件の着信とメッセージが届いていた。
登校中、回復した左手でメッセージを確認していこうとした矢先に、他の守邦高校の生徒たちの囁き声が聴こえていた。
『あの人って、ほら――』
『停学とけたのかな。近寄ったらヤバそう』
『目つきとか、完全に人をヤッてる感じするもんね』
悪目立ちとでも表現すればいいのだろうか。
一人で登校するなか、周囲の声は極力耳にいれないように携帯端末をポケットに入れ学校へ急いだ。
そして、校門まで来たところで一度足をとめる。
懐かしい。僅か一ヶ月だけだと思っていた期間でも、毎日見ていたはずの校門を見て感慨に耽った。
両手で顔を叩き、気合いを入れて歩を進める。
大丈夫、中学の時とは違い待っていてくれる人がいるのだから。
校門を過ぎ昇降口に向かって行くと、とある集団に目が留まり再び足を止めた。
二年生の男子が二十九名。昇降口を前に横並びでいた人物たちは捜索隊のメンバーだった。
男子たちは全員無言で、しばらくの間、俺を彼らは睨んでいた。そして、一人の大男が代表して俺に声をかける。捜索隊二年生男子リーダー格の南条だった。
「菊地、ちょいとツラ貸せや」




