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捜索開始

 放課後。

 班分けをした二年生男子たちは、早速街に繰り出し捜索をすることになった。

 捜索の対象は街中で女性に声をかけている男全員。途方もない話である。

 そして二年生男子の班分けで俺は『第二班』になった。

 

第二班。南条、北乃字、東、西尾、菊地。計五名。


 班分けは簡単なものだった。

 二年A組とB組の人間が第一班、C組とD組が第二班。そして人数の多いいクラスを南条がバランスを考えて割り振り、計六班三十名が守邦駅南側の捜索をすることになった。

 クラスも離れていれば知り合いである可能性も低いことから、二年男子の指揮を執る南条なりの気遣いだろう。


 そして第二班の担当区域へ五人で向かう最中に、D組の二人と連絡先の交換をした。

 『南条玄(なんじょうげん)』と『北乃字朱雀(きたのじすざく)』。

 坊主頭の北乃字はかなり無口な男のようだが、メッセージで『よろしくね!』と動物のスタンプを送ってきたあたり茶目っ気のある恥ずかしがり屋さんのようだ。


 担当区域へ向かうなか、南条は溜息をつく。

 二年男子の指揮を任されたことを重圧に感じているのか、そんな彼に東が軽い調子で話しかける。


「よお、南条。昼休みの勢いはどうしたよ?」

「なんでもねえよ」

「おいおい、何かあれば仲間に相談しろって言ったのはお前だろ」

「……まあな」


 そして南条は歩きながら俺たちを見る。

 そんな彼に俺たち四人は不思議な顔を浮かべる。


「ここにいるメンバーなら話してもいい。だが、やることは変わらない。俺の話を聞いても胸くそ悪くなるだけだからな」

「なんだよ、もったいぶらずに教えろよ」と、西尾が言う。

「……シバさんから聞いた話なんだが、今回俺たちが見つけようとしている強姦魔連中はかなり厄介で、やり方がえげつないんだよ」

「えげつない?」

「連中のやり方は至って単純。シバさんが言っていたように、街中でナンパをして、クスリで酔わして、女を犯す。問題はこの後だ」

「……」

「連中は用済みになった女を、山や海といった人気のない場所に全裸で放置して、被害者が着ていた服や荷物を寝ている女の近くで燃やすそうだ」

「燃やす? なんのために?」

「シバさんの考えでは、女の反抗心を削ぐ狙いと証拠隠滅だろうと言っていた。そして目覚めた女の身体からは薬品の匂いがして、肌がかぶれて人前に出られないほど顔面が荒れている被害者もいるみたいだ」

「……クッソ、なんだよそれっ、いくらなんでもやり過ぎだろ」

「まだ続きがある。実はな、一人だけ警察に捕まった強姦魔がいるんだ」

「は? それならそいつから芋づる式で犯人を探せばいいじゃねえか」

「そんな簡単な話じゃねえんだよ。その強姦魔は昔にも性犯罪に手を出した野郎で、被害に遭った女から痕跡が見つかり、警察に残っていた情報からその野郎が逮捕されることになったそうだが、そいつは『俺は客だ』と、言っていたそうだ」

「客?」

「これはシバさんの読みだが、今回街中を荒らしまわっている連中は街中で女を『調達』して、別の誰かが男の『客』を用意して、べろべろに酔った女に男の相手をさせる。そして男からは金銭を受け取り、女を処理する」

「それって、つまり、今回の強姦魔連中は直接女には手を出していないってことかよ」

「さてな、つまみ食いくらいはしているかもしれんが。警察が手を焼いている理由がこれだ。犯人に繋がる痕跡や糸口がほとんど残っていないんだと。捕まった野郎も繁華街で女を買わないかと持ち掛けられただけだからな」

「……ホント、胸くそ悪い話だな」

「だろ? 闇風俗の過激派みたいな感じかね。それでも俺たちがやることに変わりはない」


 南条の話を黙って聞いていた俺は嫌な汗が浮かぶのを感じた。

 人を人とも思わない扱い。強姦どころか殺人に近い行為をしている連中に酷い嫌悪感を抱いた。


 そんな時、クラスメイトのギャル五人衆の顔がふと浮かんだ。

 大秋や江夏は俺たちのように、今頃は街中で情報収集をしている頃だろう。

 春宮は今日バイトのシフトが入っていたので仕事中だろう。

 陽代美と冬樹は、生徒会になるために文化祭の手伝いで今でも学校に残っているのだろう。


 彼女たちを関わらせてはいけない。

 今回の問題は、我らが女王様から相談をされてきた問題とは比較にならないほど重く危険だ。

 優しい陽代美が今回の件を知れば協力を申し出る可能性がある。それは絶対に避けなければならないと強くそう思った。


 そして、俺たち五人は担当区域に到着。

 守邦駅南側にある飲食店街でも、最も賑わっている場所で多くの人が歩き、至る所で人が群れをなしている。


「それで南条、ナンパをしているヤツを見つけた後はどうする?」

「ナンパが成功したと判断できたら後をつける。場合によってはここにいるメンバーも分散して動くことになるな」

「……おい、早速いたぜ。男一人が女二人組に声をかけているみたいだ」


 西尾の言葉に全員で一つの方向を見る。

 そこには雑踏の中で足を止めて、半袖半ズボンの男が女子大生のくらいの女子に声をかけていた。


「西尾、菊地。二人に頼みたいことがある」と、南条が俺の名前を呼ぶ。

「え、なに?」

「あの三人に近寄ってどんな話をしているか探ってきてくれ。俺や北乃字は図体がデカくて目立つし、東もチャラチャラしてて目立つからな」

「うるせぇぞ南条、だれがチャラチャラだよ。表現がオッサンなんだよ」

「キラキラでもピカピカでもなんでもいいんだよ」


 軽口を叩きあう二人。

 目立つと言えば確かに南条や北乃字や東は街中でも目立つ。

 それに引きかえ、俺は黒髪の短髪で制服も着崩していない。隣に立っている西尾も制服を着崩して髪には軽くパーマをあてているが黒髪で、他の三人に比べれば目立たないだろう。


「わかった。そんじゃ行こうかキクちゃん」

「うん」


 西尾と肩を並べ、対象に近寄っていく。

 周囲は店から聴こえる宣伝の音や、待ちゆく人たちの話声で様々な音が飛び交っている。

 こんな中で人の話を盗み聞ける自信はないが、今は俺にできることをやろう。


『今なら……お二人に……ですので……ウチの店……美人割りってのがあって……お得に……こし……ありますよ』

『どうし……合コ……時間ある……安いし……美味しそ……』


 対象を通り過ぎ、俺と西尾は東たちのいる場所まで戻った。


「どうだった?」

「たぶんナンパではないと思う。居酒屋のキャッチかなにかじゃないかな。お店のチラシっぽい物を男の人が持っていたし」

「だな。店は個室があってゆっくりできるし、どうですかって感じだった。女側は合コンまでの時間潰しにいいかもみたいに話してたしな」

「……凄いな西尾。あの状況でよく聞き取れるな」

「へへっ、俺ってば昔から耳だけはいいからな。あれくらい楽勝よ」

「西尾ってよ、前から思ってたけど野生児みたいだよな」

「ああんッ? 誰が野生児だよ、このギャル男がっ」

「喧嘩すんな。とにかくあれは問題なしだな。次行くぞ」と、南条が二人の間に入って捜索を再開した。


 それからは西尾を中心に、男が女に声をかけている場面で盗み聞きをしてはナンパかどうかの判断をしていく。

 そして、甘く見ていた。

 男が女に声をかけるのはナンパだけではないと思い知らされた。

 宗教の勧誘、店のキャッチ、怪しげな商品の宣伝、従業員の募集、音楽ライブのチケット売り。


「それにしても、俺たちが追っている強姦魔連中、どうも頭がキレるヤツがいるみたいだな」

「急にどうしたんだ、東」

「いやね、俺なりに考えてもみたわけよ。今の時代さ、男女が出逢うって言ったらネットが主流じゃん? でも、連中はあえて古典的なナンパっつう手段で女に接近している」

「……ネットを使えば痕跡が残るから、か」

「そうそう、キクちゃんはどこぞの野生児と違って察しがいいねえ」


 途中、ハンバーガー屋で腹ごしらえをして捜索を続けても、この日はナンパを成功させた男を見つけることができなかった。

 携帯で時刻を確認したときには陽もとっくに暮れて、午後九時を過ぎていた。


「今日はこんなとこだな。解散するか」

「ぐへえ、四時間以上歩き回って成果なしとか、キツすぎるっしょ」

「別に降りてもいいんだぞ、東」

「降りねえよ。それにしても三年生たちは、こんなこと一ヶ月以上続けてたんかよ。タフすぎでしょ」

「ああ、最初は俺たち二年を巻き込みたくなかったらしいがな。水臭いんだよ、シバさんは」

「そこはさ、優しいって言ってやれよ。変なとこ捻くれてるよな、南条は」

「シバさんが優しい? ハッ……俺も昔はそう思っていたよ。けど、優しいだけの人間に守邦高校の仕切り役は務まらねえさ」

「はあ? 意味わかんねえよ」

「わからなくていい。とにかく今日は解散だ、また明日な」


 南条が解散を宣言して俺も帰路につく。

 その道中、月の出た空を眺める。


 陽代美とキャンプ場で見た星空には程遠い、わずかに濁った夜空に少しばかりの寂しさを感じた。

 知りたくなかった。平和な街だと思いたかった。

 しかし現実では凶悪な犯罪が蔓延り、人間の悪意が忍んでいるのだと薄気味悪さすら感じる。


 でも、今更辞めるつもりもない。

 知ってしまった。そして、使命感を感じた。

 俺はただの平民であり、できることが少ないのは自分でも理解している。


 大切な人たちを守りたい。

 偽善者と言われても構わない。

 ただ、学校を愛する彼女の悲しむ顔を見たくない。


 夜道を歩く俺の中にあるのは、それだけだった。


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